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44.緊急出動

「今日のトレーニングは、午前は麻里奈、午後はるいざ。憲人はコンソールルームで勉強だ」

「OK」

「はーい」

「了解」

「りょーかい」

「それと、今日で創平が帰る事になる。出発予定は3時だそうだ」

「ひと月、世話になったね。ありがとう」

「創平ちゃんが帰っちゃうと寂しいわ」

「ありがとう。僕もだよ、麻里奈」


 多分、このメンバーの中で創平の帰還を寂しがっているのは麻里奈だけだが、みんなあえてツッコミはしない。


「るい、おかわり」

「はいはい」


 克己はお茶碗をるいざに差し出す。

 すると創平は、今度はわりと真剣に言った。


「ここでの食事が食べられないと思うと、本当に残念だよ」

「今度、ドイツの食事も見てみたいわ」


 麻里奈が言うと、創平はにこやかに答えた。


「それじゃ、今度メールに食事の写真を付けるよ」

「わあ! ありがとう、創平ちゃん。楽しみにしてるわ!」


 盛り上がっている2人をよそに、譲が一足先に席を立った。


「トレーニングまで、ちょっと寝てくる」

「いってらー」

「おやすみなさい」

「おやすみ」

「後でシステムの事も聞かせて欲しいな」


 すかさず言った創平に、譲は投げやりに返事をした。


「わかった。時間を取る」


 それだけ言うと、譲は住居ブロックの方へと歩いていった。

 その後ろ姿を見ながら、麻里奈は不思議そうな顔をした。


「どうして譲は、あんなに眠いのかしら? 昨日、帰ってきたのがそんなに遅かったの?」

「いや。23時頃には帰ってきたよ」


 そう答え、克己はチラリと創平を見た。しかし、創平は全く意に介さず、味噌汁を飲んでいる。


 どうせ、西塔が絡んでるんだろうけど。


 克己はそう思いながらも、別の言葉を紡いだ。


「疲れてるんだろ」

「そっか。本部に行ってたんだものね」


 創平と譲の関係をほぼ正確に知っているのは、この中では克己だけだ。それにしたって、過去の部分までは知らない。るいざは薄々気付いているようだが、創平が苦手なので深くは関わらない方針だし、麻里奈と憲人は考えもしていないだろう。

 まあ、知らない方が平和な事もあるよな。

 克己も、知らないフリをさせてもらうことにして、里芋を口の中に放り込んだ。






 午後のトレーニングが始まる前、るいざはトレーニングルームで克己と話しながらストレッチをしていた。克己は今日はオフだったので、自主トレをしようかと思い、トレーニングルームへ来たのだが、ちょうど良いとばかりに、譲に、憲人の勉強を見るよう頼まれてしまった。どうやら、創平のシステム関係が大詰めらしく、憲人の勉強まで手が回らないらしい。


「それにしても、克己は子どもの面倒見が良いわよね」


 るいざが言うと、克己は笑った。


「病院にも小さい子どもが居たからな」

「確かに居たけど、最初から上手かったような……?」

「なら、多分向いてたんだよ」


 るいざの言葉に、克己は強引に結論付けて話を終わらせてしまう。


「それじゃ、俺は憲人のところに行ってくるから」


 これ以上聞かれたく無い雰囲気を感じて、るいざも話を変えた。


「わかったわ。ストレッチ、付き合ってくれてありがとう」

「どういたしまして」


 そう言うと、克己はコンソールルームへと歩いていく。

 と、克己が足を止めて聞いた。


「るい、あの事件、覚えているか?」

「もちろん覚えているわよ」

「そっか」


 そう言うと、克己はコンソールルームへ入っていった。

 そんな克己に、るいざは何となく胸騒ぎを感じた。

 病院時代、事件と呼べる物はいくつもあった。だけど、克己があえて聞くほどの事件は一つしか心当たりは無かった。

 克己の背中に残った傷。克己が死んでしまうのではないかと思った、あの事件。

 どうして突然そんな事を聞いたのかは解らないが、るいざは胸がざわざわして落ち着かなかった。


『準備は良いか?』


 コンソールルームから聞かれた譲の言葉に、るいざは気持ちを切り替えようと努力する。トレーニングと言えど、ちゃんと集中していなければ危険が伴う。

 るいざは自分の頬を軽く叩くと、譲に向かって頷いた。






 トレーニングを始めて30分程経った時、譲のところに緊急メールが届いた。

 譲はるいざの様子を見ながら、コンピュータールームの創平とプログラムのバグ取りとブラッシュアップをしつつ、メールを開いた。


「……創平、ちょっと待っていてくれ」

『構わないが、どうしたんだい?』

「緊急出動要請が来た。手配するから進めていてくれ」

『了解』


 譲はトレーニングシステムを停止させつつ、ウィンドウを整理していく。

 話を横で聞いていた克己は、譲を見て聞いた。


「緊急出動か?」

「ああ。るいざ、緊急出動要請が来た。こっちに来てくれ」

『え? あ、わかったわ』


 るいざは慌てて荷物を持って、コンソールルームへとやってくる。


「今回の敵はどこだ?」


 久々の出動というのもあって、克己が嬉しそうに聞くと、譲はウィンドウを麻里奈と繋ぎながら答えた。


「アメリカ連合軍だそうだ」

「今回は敵がはっきり分かっているのね?」


 コンソールルームへ来たるいざが言うと、譲は肩をすくめた。


「アメリカ連合軍だけは、大抵、旗を掲げているからな」

「ああ、なるほど」


 国旗ではないが、アメリカ連合軍の旗を掲げているのだろう。自軍に誇りを持っているのだ。

 農場に居た麻里奈がウィンドウに写ると、譲は言った。


「緊急出動要請だ。敵はアメリカ連合軍。新橋付近に大型船が突如現れたとのことだ」

「突如?」

「テレポーテーションだと思われるとのことで、ウチに要請が来た。すぐに出撃準備をしてくれ。今回のメンバーは、克己、るいざ、麻里奈の3名だ」

「え!?」

「譲は行かないの!?」


 驚く3人をよそに、譲はマップを表示する。


「さすがに今、創平を野放しにするわけにはいかないからな」

「ああ、そうか。時間が無いのか」


 克己が納得したように呟く。


「指揮は俺が取る。通信機を各自持って行ってくれ。準備出来次第、車で出撃だ。武器も忘れるなよ」

「OK」

「わかったわ」

『了解』


 3人は返事をすると、バタバタと出撃の準備に行った。

 1人置いていかれた形になった憲人が、譲を見る。


「俺は?」

「俺と留守番だ。とりあえず、コンピュータールームへ移動しよう」

「了解」


 譲はウィンドウを全て消すと、憲人とコンピュータールームへ向かって歩き出した。

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