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15.連絡会

「ちょっと待ってくれ!」


 声をあげたのは白石だった。


「研究部門も全員退去なのか!? いくらなんでも無茶苦茶だ!」


 白石が譲に抗議する。


「研究部門は君達、特殊能力課員の能力を研究する部門だ。退去しては意味がないだろう!?」

「意味があるかどうかは俺が決める」


 譲は白石と真っ正面から睨み合う。


「特殊能力課員以外は全員退去だ。これは、施設長として命令している。それに――」


 一度言葉を切って、譲は酷薄に笑った。


「能力を持たないアンタが能力について研究しようとする事に無理があるだろ」

「なんだと……?」

「アンタは俺たちを実験動物としか見ていないと言っているんだ」

「そんなことは――!」

「無いとでも? なら、能力者を制御して世界征服への足掛かりにするつもりか? ロマンチストだな」


 かっとして白石が手をあげた。が、その手を神崎が掴む。


「くっ!」


 悔しそうに白石が神崎の制止を振り払う。

 そして、荒々しく食堂を出て行った。


「放置していいのか?」

「かまわない」


 神崎の問に簡潔に答えると、譲は再度声をあげた。


「と、言うワケで、退去準備に入ってくれ。日再から移動のバスが来る手筈になっている。時間や荷物の細かいことは神崎に聞いてくれ。どうしても引き継ぎが必要な事があれば俺に直接言ってくれ。なにせ急な事だ。多少行き届かない所があっても気にはしない。質問は?」


 譲がぐるりと見渡すが、全員が場の空気に呑まれていて静寂が返るのみだった。


「では解散」


 言うだけ言って、譲は一旦部屋を出て行った。

 譲の姿が見えなくなって、ようやく場がざわつき始める。


「それでは細かい連絡事項に入るが良いか?」


 神崎がバスの便数や時間、荷物について等細かい連絡をしていく。


「……以上、質問はあるか?」


 一通り連絡が終わり、質問を問うと、おずおずと研究部門の職員が手を挙げた。


「あの、本当に全員退去なんでしょうか?」

「ああ。これは日再とも合意している決定事項だ。急ですまないが呑んでくれ」

「わかりました」

「神崎さん、俺も質問!」


 今度は工事部門の職員が声を上げた。


「最低限稼働できる状態になってるとはいえ、あくまでも最低限だ。工事が中途半端な場所や無理矢理動く状態にしてる箇所もある。個人的に仕事は最期までやりたいんだがそれも無理か?」

「気持ちは分かるがすまないな」

「はぁーっ。上が言うなら仕方ない」

「ありがとう、助かる」


 少し場の空気が緩み、諦めモードになってきた。やはりこういう対応に年長者の余裕が出る。


「ハイ! 俺も質問!」

「何だ?」

「本部からコッソリ持ち込んだ酒も、今夜は解禁で良いですか!?」

「お前……あれほど持ち込むなと言ってあっただろう」


 呆れた神崎に、他の職員が苦笑した。


「まあ、備品を壊したり汚したり明日の撤収に害のない程度にな。バレるなよ?」

「やった!」


 数人の工事が終わるまで我慢していたメンバーが盛り上がる。


「それでは、今後何かあればシステムの掲示板に貼るからそれを各自確認してくれ」


 こうして、連絡会は解散になった。






 克己たちは、テラスの端の方で座って話を聞いていたが、突然すぎて言葉も出ない。唯一聞こえるのは、麻里奈がパフェを食べるスプーンの音である。


「ってか、良く食べてられるな」

「だって溶けたらもったいないじゃない」


 思わず言った克己に、麻里奈がしれっと返す。


「それに、私たちは特にする事ないんでしょ?」

「そりゃそうだけど……。ホンット、アイツも言い方とかさぁ」


 思わず愚痴が零れる。

 と、るいざが真っ青になって震えてる事に気付いた。克己は、細いその肩を抱いて撫でてやる。


「大丈夫だって。麻里奈の言うとおり、俺らは変わらねーし、当初の予定通りになるだけだって」

「……そう、そうよね」


 その言葉に、るいざは少し落ち着きを取り戻したようだった。

 るいざが温くなったハーブティーを飲んで深呼吸していると、克己たちのテーブルに食堂のオバチャンがやってきた。


「お嬢ちゃんたち、ちょっといいかい?」

「あ、はい」

「食材の残りの事なんだがね、もし自炊する人が居るなら残して行こうと思うんだけどどうかい?」


 そう言えば、4人になるということは食事も各自用意すると言うことだ。


「どうする?」


 克己が2人に聞くと、るいざが手をあげた。

 先程までとは違い、覚悟が決まった顔をしている。食事という身近な仕事に、ようやく腹が決まったらしい。


「私は自炊するから、残しておいて貰えると助かります。それに、1人分も4人分も変わらないから、メニューにこだわりがないならみんなの分も作るわ」

「私も、作れるから交代でも良いわよ」


 麻里奈も申し出る。


「じゃあ、都合の良い時にキッチンの説明をするから、声をかけておくれ」

「ありがとうございます」

「でも、明日の朝までは腕をふるうからね! 楽しみにしておくれよ」

「はい!」


 3人が頷く。それを見て満足そうに食堂のオバチャンはキッチンへと戻っていった。


「それにしても、4人だと色々あるのね」


 麻里奈が言った。それに克己も同意する。


「この施設の事を俺らそんなに詳しく知ってる訳じゃないしな」

「でもきっと大丈夫よ」


 さっきまでとは打って変わって、るいざが言った。それに、麻里奈が不思議そうな顔をする。


「どうしてそう言い切れるの?」

「うーん、勘って言うか……譲が大丈夫って言うなら大丈夫な気がするの」

「あー、確かにそんな気はするな」


 克己も同意する。

 巨大パフェを食べ終わった麻里奈は、2人の言葉に納得しつつも、口を開いた。


「でも、白石さんはこのまま大人しく退去すると思えないんだけど」

「その問題があったな」

「大問題よ」

「何もなければ良いんだけど……」


 るいざの願いも虚しく、事件は深夜に起こったのだった。

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