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40.ピクニック

 翌日、予想通り、朝食時にテラスに姿を見せなかった譲に、麻里奈が念の為、真維に聞いた。


「真維、譲はまだ帰ってないの?」

『ええ。まだ本部に居るわ』

「そっか。ありがと」

『どういたしまして』


 そのやり取りを横で聞いていたるいざが、嬉しそうに言った。


「じゃあ、今日は1日、農場ツアーね!」

「そうね!」


 譲が居ないと、能力のトレーニングが出来ないので、自動的にスケジュールは休みになってしまう。


「そうだ! せっかくだから、お昼は農場でピクニックにしましょう?」

「良いわね!」


 るいざの提案に、麻里奈がすぐさま賛成する。るいざは冷凍庫を開けて、中身を取り出していく。


「この間のパーティーの残り物が、ちょうど良いわね」

「挟んで良し、摘まんで良しだものね」


 麻里奈もパンを用意する。

 と、そこに克己が顔を出した。


「譲は居ないって?」

「あ、言い忘れてた。そうなの、まだ本部だって」


 麻里奈が答えると、克己はやっぱりという顔をした。


「予想通りだな。じゃあ、そろそろ朝飯にしようぜ?」

「ちょっと待ってね。解凍するものだけ、先に出しておきたいから」


 るいざが冷凍庫からタッパーを出しているのを見て、克己が不思議そうな顔をした。


「何かするのか?」

「せっかくだから、農場でピクニックをしようと思って」

「お、それいいな! じゃ、待ってるよ」


 戻りかけた克己に、るいざが言う。


「先に食べてて良いわよ?」

「作った人より先に食うのもなあ。それに、みんなそろってた方がおいしいじゃん?」

「そうよ。少しくらい待っててもらえばいいわ。るいざ、私も手伝うわよ」

「そう? じゃあ、麻里奈はこれをレンジで解凍してくれる?」

「りょーかい」

「んじゃ、俺は向こうに伝えてくる。ついでに運ぶものとかある?」

「コーヒーと牛乳だけ持って行ってくれる?」

「OK」


 克己はコーヒーサーバーと牛乳を持って、テラスの憲人と創平の所へ戻っていった。

 るいざは一通り冷凍庫を見終わり、レンジで温めるものはレンジへ、鍋で温める物は鍋に入れ、火は付けずに蓋だけして麻里奈に声をかけた。


「それじゃ、朝ご飯に行きましょう」

「はーい」


 2人は急いで、テラスの食卓へと向かった。






 朝食が終わり、ランチの準備を終えると、麻里奈、るいざ、克己、憲人、創平の全員で、大きなバスケットを2つ持ち、農場へと向かった。


『おや、麻里奈ちゃん。今日は早いね』


 農場に付くと、外で作業をしていたジョンが一行を見つけて言った。


「ソフィアちゃんに会いたくて、みんなで会いに来ちゃった。今、手が空いてるかしら?」

『今、ちょうどニワトリの卵を取りに行っているところだ。そろそろ戻ると思うがね』

『あ、麻里奈さんだ!』


 話していると、ちょうどニワトリ小屋の方から、かごを持った少女が出てきてニッコリと笑った。


『今日はみんな一緒なのね! 賑やかで楽しそう!』

「みんな、ソフィアちゃんに会いたいって言って、会いに来たの」

『私に? 嬉しい!』


 喜んで笑うソフィアに、るいざが克己の肩をバシバシと叩いた。


「本物はもっと可愛い!!」


 るいざが言うと、ソフィアはみんなに向かってぺこりと頭を下げた。


『初めまして! ソフィアって言います! 特技は裁縫と料理だけど、農作業のお手伝いもしてるの! これからよろしくお願いします!』

「初めまして、私は来瀬るいざ。よろしくね」

「俺は佐々木Jr克己。よろしく」

「僕は西塔創平と言います。よろしく」


 次々に挨拶をすると、ソフィアは楽しそうに言った。


『たくさん友達が出来て嬉しいわ!』


 その笑顔に、るいざと麻里奈がノックアウトされていた。克己は少し複雑な顔をしていたが、1つ深呼吸すると、ニッと笑った。


「そう言えば、昨日のスコーン、うまかったよ」

『本当!? 良かった~! 実は、初めてだったから少し心配だったんだ』


 すると、すかさず麻里奈も言う。


「凄く美味しかったわよ! 今度はクッキーも食べてみたいわ」

『じゃあ、今日はクッキーを焼くね!』

「嬉しいわ! ありがとう!」


 早速、今日のお土産をリクエストした、麻里奈は嬉しそうに笑った。






 それからしばらく、そこで立ち話をして、その後家の中にお邪魔し、今度はマリアも交えて話をすると、ちょうど良い時間になったので、5人は外に出た。そして、麻里奈オススメの休憩スポットで、ピクニックをし、夕方になって、ソフィアとマリアのクッキーを受け取ると、やっとテラスへ戻ってきた。

 そろそろ夕食の準備の時間だが、譲はまだ戻っていないようだった。

 そして、夕食が終わり、全員が解散する時間になっても譲は帰ってこなかった。


「譲、遅いわね」


 先に部屋に戻った麻里奈達を見送った後、るいざと克己はテラスでお茶をしていたのだが、それでも譲が帰ってこないので、2人で部屋に戻る途中、るいざが言った。

 克己は腕を頭の後ろで組んで、上を見上げる。


「遅いよなー。ほんっと、いつものことながら、いつ帰ってくるのか」

「克己は待ってるつもりなのかと思ってたわ」

「待つよ? だけど、まだ西塔が居るし、夜も遅いから、るいざを送る方が優先」

「ありがと。助かるわ。それにしても、ソフィアちゃん、可愛いかったわよね」

「ああ。そうだな」

「クッキーも美味しかったし、今度は服を頼もうかしら」

「良いんじゃね?」


 たわいもない話をしながら、克己はるいざを部屋におくりとどけると、再度テラスへ戻った。今日はもう、特に用はない。いつも通り、譲が帰ってくるまでここで待つつもりで、マグカップにコーヒーを注いだ。






 23時を過ぎた頃、ようやく譲が帰還したらしく、エレベーターが動いた。

 本を読みながらウトウトしていた克己は、その音で目を覚ます。


「……やっとお帰りか」


 エレベーターはテラスのある3階で止まると、譲が姿を見せた。

 が、その格好に克己は違和感を感じる。

 普段と違い、襟元のボタンはキッチリしめられ、珍しく上着を羽織っている。


「おかえり」

「ただいま」


 克己にチラリと目をやり、そのまま譲は自室へと歩いて行く。

 慌てて克己がそれを追う。


「遅かったな。何かトラブルでもあったのか?」

「特に」

「お前が上着を着てるなんて珍しいな」

「そうか」


 取り付くしまもない。

 と、克己は譲の目元が赤くなっているのに気付いた。


「お前これ――」


 思わず手を伸ばしかけて、その手を払われた。


「触るな!」


 譲はすぐに手を引くが、その手首に残る痣が克己には見えてしまった。


「……疲れてるんだ。部屋に行く」


 気付かれた事に気付き、譲は足早に部屋へ歩いていく。おいて行かれる形になった克己は、振り払われた手を握り締めて、眉をひそめた。

 見間違いでなければ、涙の跡と痣。それから、首にも痕がある――?


「本部で何があったんだ……?」


 克己は小さく呟いた。

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