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14.退去命令

 克己たちが朝食を食べていると、周りは今日の急な招集の話でもちきりだった。

 そもそも今まで余り顔を出してこなかったらしい譲の招集と言うことも、一役かっているらしい。


「落ち着かないわね」


 るいざが不安そうに話す。浮き足立っている雰囲気を敏感に感じ取っているようだ。


「気にしてもしゃーない。これ食ったら農場でも行くか?」

「そうね。あそこなら他の人も居なそうだし」


 と、麻里奈も賛成する。麻里奈の場合、この雰囲気がと言うより、普通に農場にハマっているからだろう。

 しかし、肝心のるいざが首を縦に振らなかった。


「私は譲を探してみるわ」

「譲? なんで?」

「はっきりとは言えないけど、気になるの」


 こうと決めたるいざはてこでも動かない。それを良く知っている克己は、ため息を吐くと苦笑いをした。


「つき合うよ」

「ありがとう」


 るいざがホッとしたように笑った。






 結局、麻里奈は1人で農場へ行き、克己とるいざは2人で譲を探す事にした。

 2人はまず譲の自室へ向かったが、当然そこは留守だった。


「ですよねー」


 分かり切っていた答えに克己がツッコむ。それにしても、このいかにもシェルターといった風な施設は何とかならないものか。

 次に2人はコンピュータールームに行った。

 そこでは白衣の研究員が慌ただしく、プログラムやテストを繰り返していたが、譲の姿は見えない。


「ここにも居ないな」

「おや? 克己君にるいざサン、こんな所でどうしたんだい?」


 不意に声をかけられ、そちらを見ると白石が不思議そうな顔で立っていた。


「譲を探してるんだけど、知らねぇ?」


 克己はさり気なくるいざを後ろに庇いながら、白石に聞いた。


「あいにく今日はまだ見てないな。僕も、トレーニングルームとここを繋ぐ配線について相談したくて探してるんだが」


 そう言うと、思い出したように白石はるいざを見た。


「もし良かったら、少しだけ実験につき合わないかい? この間克己君のデータは取ったけどるいざサンのはまだだったからね」

「悪いけど、今は忙しいんだ。また今度な」


 そう言うと、克己はるいざを連れてコンピュータールームを後にした。


「ありがとう、克己」

「どういたしまして」


 ホッとしたように、るいざは掴んでいた克己の服を放した。


「しっかし、アイツどこに居るんだろうな?」

「見つからないわね」

「処理棟も見に行っても良いけど、時間がなぁ」


 処理棟で会えたとしても、話す時間もなく招集された12時になってしまう。


「いいわ。特に用があったわけじゃないし、テラスに戻りましょう」

「了解」


 るいざがそう言うなら、克己に異論は無い。

 2人でのんびりとテラスまで歩く。

 こうまでして克己がるいざの気にかかる程度のことを優先するのは、るいざの能力も関係していた。るいざの能力――予知能力である。ただし、今の所安定して使えはせず、当たりやすい勘程度の能力だ。

 まだ早い時間なのに、テラスにはもう10人程度の人が居た。私服が多い事から、時間に融通のきく待機組が先に来て椅子を確保しているのだろう。

 克己とるいざもテーブルを確保し、飲み物を注文する。克己はアイスコーヒーを、るいざはベリーティーを注文したはずだったが、出てきたモノはコーヒーフラペチーノ+生クリームトッピングとベリーのミニパンケーキ山盛り生クリームトッピングとハーブティーだった。

 首を傾げながら席に戻り、るいざにパンケーキとハーブティーを差し出す。


「注文と違うんだけど……?」

「大丈夫、俺も違う」


 手に持ったフラペチーノを見せると、るいざは一応納得したらしく、大人しく食べ始めた。るいざは朝食が少なかったからこれはこれで良いかもしれない。






 12時が近づくにつれ、段々人が増えてきた。白石も姿を見せ、わざわざ克己とるいざに挨拶をして行った。

 あと10分程になった頃にようやく麻里奈が姿を見せた。


「美味しそうなもの食べてる!」


 るいざの食べかけのパンケーキを見て、羨ましそうな顔をする。それに苦笑して、克己が言った。


「注文してみれば? ギリ間に合うんじゃね?」

「行ってくるわ!」


 凄い速さで、人混みを抜けてオバチャンに注文している麻里奈が見える。

 オバチャンは克己が来た時点で麻里奈も来ると思って準備していたらしく、さほど待つことも無く、巨大パフェを持った麻里奈がニコニコしながら戻ってきた。


「お前、何注文したの?」

「チョコレートフラペチーノ、生クリームたっぷりで」

「成る程」


 それで巨大チョコレートパフェになったらしい。おそらく12時までには食べ終わらないだろうが、麻里奈は気にせず食べるのだろう。


「いただきま~す!」


 麻里奈が食べるのを見て、るいざも残してはいけないとパンケーキの残りを食べ始める。

 そして、12時ピッタリに、譲が姿を見せた。後ろには神崎が付き従っている。


「神崎さんの部屋って線もあったな」

「そうね。すっかり忘れていたわ」


 50人ほどの人員が、譲の前に集まる。白石がいち早く譲の隣に立つ。神崎は一歩後ろの定位置だ。椅子に座っていたメンバーが立ち上がると、譲はそのままで良いと言った。


「そのままで構わない。食事もしていてくれて良い。作業も続けてくれ」


 その言葉にあからさまに不機嫌そうな顔になる白石は、それでも堪えて黙っていた。


「全員揃ってるな。待機組は休みのところをすまない」


 譲の声がシンとした中を通っていく。高くも低くも無い良く通る声だ。


「話が長いのは嫌いなんで、単刀直入に。この施設のシステムが完成した。よって、工事部門、研究部門、及びバックアップスタッフ全員、明日の昼12:00までに施設からの退去を命ずる」

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