25.温かい夕食
「おかえりー、るいざ、譲」
「ただいまー」
「ただいま」
「お疲れさん」
「おかえりなさい」
ESPセクションに帰還した2人がテラスまで下りると、ちょうど夕食の支度が出来るところだったようで、キッチンに居た麻里奈と食事を運んでいた克己と憲人が、2人を迎えた。
「いい匂いね。今日は麻里奈が作ってくれたの?」
「そうよ! 麻里奈ちゃん特製ビーフシチュー! ポテトサラダもあるわよ!」
「わあ! 美味しそう」
本部を出る前に食事をしたというのに、るいざはすっかり食事の気分のようだ。
まあ、本部の食事ではあまり腹は膨れないし、時間も夕食時だから無理もないが。
麻里奈はビーフシチューを皿に盛り付けながら、ウィンドウを開いて創平を呼んだ。
「創平ちゃん、夕食が出来たわよ」
『ありがとう。今行くよ』
「それから、譲とるいざも帰ってきたわ」
『早かったね。夕食に間に合って何よりだ』
そう言うと、ウィンドウは消える。
るいざは手を洗うと、料理を運ぶのを手伝い始めた。
「るいざ、疲れてるんじゃないの? やるわよ?」
「ううん。私はほとんど何もしなかったから、平気よ。むしろ、少しは身体を動かしたいから、手伝わせて」
「そう? なら、いいけど」
実際、るいざはずっと別室で座っていただけだったし、運転も譲だったので、余り疲れてはいない。これが、捕虜が暴れたり暴言を吐いたりしたら、精神的に疲れたのかもしれないが、今日譲が話した彼は、終始穏やかだった。
そのせいか、少しは運動したいくらいである。
一方、譲はというと、やや疲れた様子で、気怠げに椅子に腰掛けた。
「お前は疲れてそうだな?」
克己が譲の前にパンを置きながら聞くと、譲はため息を吐いた。
「気疲れした。それと、能力を色々使ったからな」
「色々?」
「話術だけで相手が話すなら、尋問チームで事足りてる」
「そりゃそうか。じゃ、テレパシー以外にも何か使ったのか?」
そこにちょうど創平が姿を見せた。
「おかえり、譲君、るいざさん」
「た、ただいま……」
「……」
創平の挨拶に、るいざは距離を取りつつこたえたが、譲は無言だった。
その意趣返しか、創平が克己に言った。
「譲君は尋問する時、テレパシーの他にテンプテーションや、脳波干渉なんかを併用しているんだ。もちろん、心理学もね」
「へえ。メッチャ尋問向きじゃん」
「かつ、そのどれも悟られないギリギリのラインで話すからね。僕も敵に回したくはないかな」
「……余計な事を」
譲が嫌そうに言った。しかし、創平はそれにかまわず、にこやかに答えた。
「君の事だから、種明かししないと思ってね」
「人の手の内を晒すなって言ってるんだ」
「このメンバーならかまわないんじゃないのかい?」
「……」
譲が黙ってしまう。
今回の軍配は創平にあがったようだった。
すると、ふと思い出したように克己が聞いた。
「って、もしかして俺らの勧誘の時も使ってたりしたのか?」
「してない。重要な決断をする時に、相手を惑わせてどうする」
「その辺の良識はあったか」
「常日頃から使っている訳じゃない。そんな事をしたら、うるさくてかなわん」
「それもそうか。それに、そんなん無くても、お前の見た目なら十分、事足りそうだしな」
「お前は俺にケンカを売っているのか?」
「いやいや」
譲が克己を睨む。
「そう言えば、本部の食事はどうだったの?」
キッチンに居て話を聞いていなかった麻里奈が、不機嫌な譲にかまわずるいざに聞いた。
すると、るいざは渡りに船とばかりに、麻里奈に言う。
「それがね、レトルトを温めただけって言うか、学校の給食を作り置きして温めただけって言うか、そんな感じだったの!」
るいざは、飛行機に乗ったことが無いので、比較が小学校の給食だった。が、麻里奈にはその方が想像しやすかったようだ。
「それはちょっと……、食べたいとは思えないわね」
「でもね、味は良かったのよ? 味は」
「味は確かに良いよな、本部の飯」
克己が譲から離れて、配膳に戻ってくる。
「でも、味気ないよな」
「そうなのよ。温かいんだけど、人の温もりは感じないって言うか」
「じゃあ、やっぱり、ここの食事が一番ってことね」
麻里奈がそう纏めると、るいざと克己は大きく頷いた。
「やっぱりここの飯と施設は、他と比べられないくらい良いよな」
「同意だわ。一度ここを体験しちゃうと、他に移りたくなくなるもの」
その言葉に、創平も頷いた。
「僕も、たまに帰りたく無くなるくらい、ここの施設は群を抜いているよ。もちろん、食事は最高だしね」
創平にまでそう言われて、麻里奈は感心した。
「じゃあ、譲のこだわりに感謝しないとなのかな?」
「かも?」
克己たちが、一斉に譲を見たが、譲は相変わらず、ひじを付いてだるそうに座っていた。
「俺は利己的な目的でここを作っただけだ。感謝されるようなことはしていない」
「利己的な目的って?」
麻里奈が聞いたが、譲は無言を貫いて、答えなかった。
仕方なく、雰囲気を変えるようにるいざが言った。
「それより、早く食べましょう。冷めちゃうわ」
「僕、お腹ペコペコ」
憲人も、椅子に座りながらそう言う。
「そうね。あ、克己、あと、飲み物を持ってくれば終わりよ」
キッチンに居た克己に、麻里奈が呼び掛ける。と、克己は冷蔵庫を開けると、残っていた白ワインと、リンゴジュース、コーヒーを持ち戻ってきた。
「お酒!」
るいざが嬉々として叫ぶと、克己が苦笑した。
「2本しか無いけどな。今日はるいざも疲れただろうから、特別な」
「わーい!」
るいざはダッシュして、キッチンからグラスを取ってくる。
「他に飲む人いる?」
「僕は遠慮するよ」
「俺もいい」
「俺は一杯だけ貰おうかな」
「私はジュースで良いわ」
「僕は飲めないから」
「じゃあ、2つで良いわね」
るいざはグラスを2脚持ってくると、ひとつを克己に渡した。克己はワインの栓を抜くと、るいざと自分のグラスにワインを注ぐ。
「それじゃ、いただきまーす!」
麻里奈とるいざの元気な声を皮きりに、賑やかな夕食が始まった。
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