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22.思考言語とテレパシー

 トレーニングが休みのある日、朝食の最中、譲が唐突にるいざに聞いた。


「るいざは、今日、何か予定があるか?」

「え? 無いけど?」


 基本的にオフの日は自由行動だ。何をするにも、譲の許可は必要無いし、1日寝ていても、ゲームしていても問題ない。

 そんな日に、譲がるいざの予定を聞くのは珍しい。

 そう思ったのは譲を除く全員だったようで、克己が代表して聞いた。


「珍しいな。何か用でもあるのか?」


 その言葉に、譲はクロワッサンをちぎりながら言った。


「本部から、出動要請が来ているんだが、能力の実験がてら、るいざにも行ってもらおうと思ってな」

「出動要請?」


 るいざが自らを指し、首を傾げる。


「私が役に立つ事があるの?」


 るいざの能力は予知にテレパシーに雷電と、主戦力にするにもサポートにしても、中途半端だ。後方部隊の連絡係としては優秀なのだが、それにしても、るいざだけと言う事は珍しい。

 すると、譲が説明する。


「先日の中華統一軍の捕虜から、情報を聞き出すのに苦労しているらしいんだ。で、俺に尋問の依頼が来たんだが、ついでにるいざにも聞いて貰いたい」

「え。でも、私、中国語は解らないわよ?」

「知ってる。るいざにチャレンジして欲しいのは、直接先方と話す事じゃなくて、隣の部屋でテレパシーで相手の心を読んで欲しいんだ」


 その言葉を聞いて、麻里奈が驚いたように言った。


「テレパシーって、言語の壁を越えるの?」

「解らない」


 あっさりと答えた譲に、克己が呆れて突っ込む。


「お前、そう簡単に解らないって……」

「普通、人間は思考するときに、第一言語を使って思考する。で、るいざのテレパシーがどの段階の思考を読み取っているかは、今のところ解らない。言語化した後の思考を読み取っているなら、テレパシーで聞けても理解は出来ないだろうが、もし、言語化する前の思考を読み取っているなら、言語の壁は無くなる事になる」

「なるほど。面白い試みだね」


 創平が微笑みながら言った。


「普段、テレパシーは連絡手段として使うことが多いから、同一言語が暗黙のお約束になっている。けれど、言語を気にせずに済むのだったら、汎用性は一気に広がるだろうね」

「そういう意味でも、実験には良い機会だろ」

「なるほどなー」


 克己と麻里奈が納得する。


「と、言うわけで、るいざは今日は俺と本部へ行くぞ」

「わかったわ」


 るいざ自身、考えもしなかった事だけに、ちょっと驚きつつ返事をする。

 もし、言語化する前の思考を読み取れるなら、テレパシーは情報戦に非常に重要なポジションになってくる。

 そう考えると少し緊張もするが、譲も一緒なのだから、心配は無いだろう。


「って、譲もテレパシーは使えるじゃない。それじゃダメなの?」


 るいざが思い当たって聞くと、譲は何でもない事のように答えた。


「俺は中国語も話せるから、そこのジャッジは良く解らないんだ」


 聞く人が聞けばイヤミに取られそうなセリフだが、当人は至って真面目だった。


「つくづく、譲って普通から外れてるわよね」


 ボソリと麻里奈が呟くと、克己と憲人が頷いた。


「聞こえてるぞ。まあいい。食事が終わったら、片付けは麻里奈たちに任せて支度してくれ」

「はーい。何か必要な物とかある?」

「特に無い。戦闘も無いから、普段着で構わない」

「わかったわ」


 そう言うと、るいざはコーヒーを一口飲んで、朝食を再開した。






 譲の運転で、本部に向かう最中、譲がるいざに聞いた。


「そう言えば、年上の男が苦手だって克己に聞いた気がするが」

「ああ、うん。人にもよるけど、怖い人の方が多いわね。それがどうかしたの?」

「いや、今日は、捕虜の目の届かない所に居て欲しいんだ。で、隣の部屋か、裏側の部屋に居ることになるんだが、るいざを本部で1人にするわけにもいかないからな」

「どうして? 克己は1人で行動してなかった?」

「克己は男だから良いんだ。本部には殆ど女性が居ないだろ? あれは、性的虐待から女性を守る意味でもある。だから、るいざが1人でウロウロしていたら、その辺に連れ込まれる可能性もゼロじゃない」

「……本部って、そんな心配もしないといけないのね……」

「で、ボディーガードと案内を兼ねて、誰か信頼出来る人間をと思ったんだが、神崎さんくらいしか思い付かなくてな」


 しかし、神崎は大柄で年上の男性だ。それに、るいざとはそこまで面識も無い。

 が、るいざはけろりと言った。


「神崎さんなら大丈夫よ」

「そうか?」

「うん。あの人は信頼出来る気がするから。白石さんは苦手だけどね」

「ふむ」


 白石は能力者を実験動物のように見ている上に、下に見ているから、そういうところをるいざは感じ取るのだろう。

 逆に神崎は、昔気質の律儀な男だ。無口で、見た目は怖いが、義理堅い良い人である。


「まあ、神崎さんが平気なら良かった。今日、向こうに着いたら神崎さんと合流して、後はあの人の言う通りにしてくれ」

「はーい。譲は一緒じゃないの?」

「俺は、捕虜と直接話す。尋問しろとの事だからな」


 そう言えばそんな事を言っていた気がする。


「もし、テレパシーで聞き取れたのが中国語だった場合、解らなくても問題ないからな」

「譲もテレパシーで同じ内容を聞いてるのよね?」

「そうだ。今回はちょうど良い実験の機会だから、やってみるだけだ」

「うん。気楽に行くわ」

「そうしてくれ。あ、あと」

「まだ何かあるの?」


 後から後から色々と言われて、そろそろうんざりしてきたるいざが聞くと、譲が言った。


「本部の昼食ご食べられるぞ。食べたがっていただろ?」

「ホント!? わー! ずっと気になってたのよね! 楽しみだわ!」

「そりゃ良かった」


 そう言うと、車は本部へと吸い込まれて行った。

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