21.グラフの色
創平が来て、半分になる二週間が経った。前回に比べ、今回はのんびりしている気がする。まあ、前回が過密スケジュール過ぎたという話もあるが。
「これを波形に出来ないかい?」
トレーニングを見ていると、唐突に創平が言った。
「軸は何を基準にするんだ?」
「ここと、ここの数値を色分けして欲しい」
「OK」
譲がウィンドウを操作し、円形の、波形グラフを作り出す。
能力発動時と通常時、それぞれ表示すると、差が歴然として面白い。
「やっぱり、脳の刺激によって能力が発動しているんだな」
「こうして見ると、克己君の安定具合が際立つね」
「そうだな。逆にるいざは、通常時も波形が波打っている。おそらく無意識に予知を使っているんだろ」
「ああ、なるほど。無意識の力は常時発動していても不思議じゃないからね」
3人の脳の波形を譲と創平は分析する。
と、創平が譲を見た。
「それで、君のグラフが無いのは意図的なのかな?」
その言葉に、譲はため息を吐いた。
「解っているクセに」
譲は仕方なく、自分の波形も表示する。
克己、るいざ、麻里奈の波形はグリーンをメインに、グラデーションしているが、譲の波形はオレンジがメインで、通常時と能力発動時との差がほとんど無い。
「やっぱり、君は能力の質ごと違うんだね」
「アンタは知っていただろ。俺がウイルスによる能力者じゃなく、元々能力を持っていた事を」
そう。譲は、ウイルスによって特殊能力を得た人間では無い。気付いたときには特殊能力――超能力を持っていた人間だ。
そしてそれは、日再はもちろん、大戦以前に知り合った創平も知っている事だ。
「知ってはいたが、差が出るかは解らなかったからね。これは面白い発見だ。ああ、でも――」
創平はグラフの一部分を示す。
「ウイルスの影響も受けているのか、このあたりは色が違うね」
「そうだな。ウイルス以前のデータが無いから、何が変わったかは解らないが、カラーだけ見るなら、ここと、このあたりがウイルスの影響と思われるな」
譲も、自分の波形を分析する。
「以前と比べて、どうだい? 強くなったとか、逆に弱くなったとかあるかい?」
「強くなった気はするな。それから、コントロールが効きやすくなった」
「以前は制御に苦労していたようだったしね」
「……」
あまり過去の事は思い出したく無い譲は、自分の波形を消した。
「俺のサンプルは、役にたたない。分析するだけ無駄だ」
その言葉に、創平が残念そうな顔をした。
「興味深いんだけどね」
「アンタ個人の興味はどうでも良い」
「辛辣だな」
創平は、再び3人の波形を見ると、譲に聞いた。
「波形にする為のコードなんだが、随分省略していなかったかい?」
「ああ。真維が意図を汲んでくれるからな」
「ここ以外では使えない手だね。普通のコードも貰えないかい?」
「そのくらい、アンタなら組めるだろ?」
「楽を出来るところはしたいからね。それに、君の方がどうやったって早い」
「面倒だな……」
そう言いながらも、譲はウィンドウを開くとそこにコードを書き加える。半分は真維が、補完してくれるので、実際のところ、大した手間ではない。
「出来たぞ。アンタの個人フォルダーに突っ込んでおく」
「ああ。ありがとう。さすが、早いね」
「基幹システムが違う部分の補正は自分でしてくれ」
「そのくらいはするよ」
と、ちょうどトレーニングが終わった。
今日のトレーニングは克己が、持久力を鍛えたいと言っていたため、長めに行われていた。そのため、憲人はすでに勉強を終わり農場へ行っている。
譲はコンソールルームを出ると、トレーニングルームへ入る。
「どうだ?」
「おー。ちょうど良い感じ。限界」
その場に倒れ込んでいる克己を見下ろして、譲は分析する。
言葉通り、限界ギリギリ超えだったようで、克己は肩で息をし、汗だくだ。
「もう、指一本動かせねー」
「しばらく寝てるんだな」
「冷てーな。せめてそこのスポドリ取ってくれよ」
克己が部屋の隅を指差す。
仕方なく、譲はPKでスポドリとタオルを取って、渡してやる。
「Thanks」
「先に出てるから、復活したら食事に行くんだな」
「今何時?」
「5時だ」
「しばらく寝れるな」
言うが早いか、克己はそのまま眠りに落ちた。あまりの早さと無防備さに、譲は呆れたが、風邪を引く温度でも無いので、そのまま克己を放置してコンソールルームへ戻っていった。
「克己君は良いのかい?」
「充電が切れただけだろ。そのうち起きてメシを食いに行くから、ほっとけば大丈夫だ」
「ここは人数が少ない分、治安が良くて何よりだ」
「それは言えるな」
譲は今度はテラスに向かって、部屋を出た。創平も隣を歩く。
「まだ、夕食には少し早いね」
「テラスで作業する時間が取れて、ちょうど良い」
譲の回答に、創平は呆れた顔をした。
「トレーニングは週休2日制だけど、君はちゃんと休んでいるのかい? いつ見てもウィンドウと睨めっこしている気がするんだが」
「アンタに言われたく無いな」
「僕は期限が決まっているからね。追い付くのに必死なんだよ」
「良く言う。なら、夜の訪問は控えて欲しいものだな」
「それはそれ、だよ」
創平が爽やかな笑みでそう言った。
テラスに姿を見せた2人に、るいざはキッチンで驚いた顔をする。
「まだ、夕食は出来てないわよ?」
「解ってる。飲み物だけくれ。作業してる」
「わかったわ。コーヒーで良い?」
「何でも良い」
「えっと、西塔さんも同じで良いかしら?」
「同じでお願いするよ」
「はーい」
譲はテラスの椅子に腰掛けるとウィンドウを展開する。その隣の椅子に腰掛けて、創平はウィンドウを覗き込んだ。
譲が何の作業をするのか、興味があるようだ。一応、技術を学びに来ている関係上、盗めるものは何でも盗みたいようだ。
まあ、良いけど。
譲は創平を意識の外に追いやって、ウィンドウに集中した。