表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/311

20.克己のトレーニング

 それから数日、克己はトレーニングの時間をメインに、第3トレーニングルームへ籠もっていた。

 ESPセクションの決まりとして、基本的に、能力の使用は自由だが、能力に関するトレーニングは必ず譲の目の届く場所で行わなくてはならない。これは、能力暴走や、その他の危険性を考慮して、止められる人間が居なければ、命に関わる事態になることが考えられるからだ。

 よって、克己のトレーニングも、主に他のメンバーがトレーニングしているときになる。

 まあ、トレーニングと言っても、マグカップを睨んでいる日々が続いていて、今のところ成果らしきものは出ていない。


「……つーか、譲は何であんな簡単に、応用した能力が使えるんだよ」


 思わず愚痴も出るというものである。

 自主的にやっている事なので、止めるのは自由なのだが、目の前でああも簡単に見せられると、悔しいモノがある。それも、自分の持っている能力の応用なのが解っているからこそ、余計に。


「あー……、ダメだ。ちょっと休憩しよ」


 克己は立ち上がると、ストレッチをして身体を解す。肩のあたりに力が入っていたのか、バキバキと音がした。

 それから少し、トレーニングルーム内でテレポーテーションしてみる。

 こちらは最近はほぼ思い通りに扱えるようになってきた。トレーニングの成果が出ていて、喜ばしい限りだ。

 ドイツのアスポート持ちの能力者に、創平を通じて聞いてもらったコツは、譲が言っているのと大差無かった。というか、譲よりアバウトな回答だった。


『送り先をイメージして、えいって感じ、だそうだ。それじゃ、さすがに解らないから詳しく聞いたんだが、物を放り投げる感覚らしい』


 そう、創平が言っていたのを責められはしないだろう。彼も一応、粘って聞いてくれたらしいのだ。だが、そのドイツの能力者はそこまで強い力を持っている訳ではなく、ドイツ軍では二軍扱いになるらしい。よって、トレーニングもおざなりらしいのだ。

 海外の層の厚さに感心しつつ、克己はもう一度マグカップの前に座った。


「『放り投げる』ねえ……」


 試しにその辺に置いておいたタオルを空中へ投げてみる。

 数回繰り返した後、今度は手に持ったまま、自分は移動せずに、タオルだけテレポーテーションするようイメージしてみる。


「……」


 さっきの放り投げた感覚をイメージして、タオルに意識を集中する。

 が、タオルは一向に移動する気配も無ければ、むしろ強く握りすぎて、ギリッと嫌な音を立てた。


「ダメだー!」


 克己はその場にバッタリと仰向けに倒れ込むと、根を上げた。ここ数日頑張っていたのに一向に成果が表れないのだ。無理もない。


「そりゃそうだよな。いくら同じ系統の能力っつっても、違う能力だもんな。そう簡単に身に付くわけが無いか……」


 最後は自分に言い聞かせるように呟く。

 と、そんな克己を創平が覗き込んだ。


「トレーニングはどうだい?」

「!?」


 近付いて来たのに全く気付かなかった克己は、驚いて飛び起きた。


「そろそろお昼だよ。気付いてないようだったから呼びに来たんだけどね」

「あー、もうそんな時間か……」


 克己はのろのろと、マグカップとタオルを持つと、立ち上がった。


「その分だと、トレーニングの成果は芳しく無さそうだね」

「もう、ぜーんぜんダメ」

「テレポーテーション持ちの克己君でも、苦戦するってことは、やっぱり全く違う能力なのかもしれないね」

「かもなー」


 克己は創平とトレーニングルームを出ながら話す。


「でも譲は、応用って軽々やってのけたんだよな」


 その言葉に、創平がすっと目を細めた。


「まあ、譲は色々と規格外だからね。比較する方が間違ってるよ」

「確かに」


 しばらく前は、透視した景色をこっちにも見せたりとしていたし、もう、何が出来ても不思議じゃない気しかしない。

 が、それは譲だからであって、克己は克己だ。


「俺には今は無理そうだな」


 意外な弱音に、創平が聞いた。


「諦めるのかい?」

「とりあえず今はな。空き時間を見つけて、トレーニングは続けるけど、テレポーテーションのトレーニングもしたいし、これ以上はさすがにな」


 トライするのは良いが、物事は諦めも肝心だ。特に、克己のトレーニング時間を作るために、周りに迷惑をかけているのだ。今後も、空いた時間でトレーニングはするとして、集中してやるのはこのあたりが限界だろう。

 克己はテラスに着くと、譲を見た。


「終わりか?」


 克己が何か言う前に譲が聞いた。


「一旦は。後は空き時間にトレーニングする」

「そうか」


 言葉は少ないが、一応気にしてくれていたらしい。

 譲はスプーンを咥えたまま、ウィンドウを展開し、何やら入力していたが、すぐにるいざに怒られていた。


「スプーン咥えたまま、作業しないの!」

「……」


 譲は仕方なく、最低限の入力を終えるとウィンドウを消した。

 それに吹き出しながら、克己は席に着いた。


「さて、昼メシ昼メシ」


 1つ失敗しても克己はめげない。それは、トライ自体が無駄では無いからだ。今は出来ない事が判っただけでも価値がある。そして、新しい目標がひとつ増えることになる。それだけのことだ。

 譲も同じ考えのようで、時間を無駄にしたとも、トライするなとも言わない。


 そう考えると、俺は恵まれているな。


 克己は笑顔を浮かべると、るいざが差し出した茶碗を受け取った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ