19.新しい能力について
翌日の朝食の最中、譲が唐突に言った。
「しばらく克己には自主トレに集中してもらう。よって、トレーニングは午前、麻里奈、午後はるいざで固定するから」
その言葉に、るいざが不思議そうな顔をした。
「かまわないけど、どうかしたの?」
「アスポートを身に付けたいらしい」
「アスポート?」
麻里奈とるいざが揃って聞いた。
すると、創平が答えた。
「手を触れていない物体を、移動させる能力だね」
「へー。そんな能力があるのね。さすが創平ちゃん。詳しいわね!」
麻里奈が創平を誉めると、るいざが譲に聞いた。
「でも、どうして急に?」
「昨日の中華統一軍に、その能力を持っているヤツが居る可能性が高いんだ。で、克己にも出来る可能性はあるって話をしたら、トライしたいと言ってきた」
「なるほど。テレポーテーションと同じ系統になりそうだものね」
「ああ。まあでも、あくまで可能性が高いだけで、違う能力だからな」
「解ってるよ。無理かもしれねーけど、一週間だけ、集中してトレーニングしてみたいんだ」
克己が言った。
その言葉に、麻里奈とるいざは微笑んだ。
「良いんじゃない? やってみないことには解らないしね」
「もし身に付いたら便利そうだし、頑張って!」
「麻里奈は農作業に使えそうだとか思ってるだろ!?」
「当然よ! 色々使えて便利そうだもの」
「ちなみに、譲は既に使えるぞ」
克己が道連れとばかりに、暴露する。と、麻里奈は呆れたような顔をした。
「本当に譲って、何でも出来るのね。逆に、持ってない能力とか、無いの?」
「だから、何でも出来る訳じゃない。植物を操るなんかの、特殊枠は基本的に全く使えないからな」
「ああそうか。それがあったわね」
麻里奈が納得する。
「でも、そのアスポート? って言うのを、新たに身に付けるって難しそうね。今までは持ってる能力を使いこなすトレーニングしかしてなかったし」
るいざの言葉に、譲が言った。
「基本的に、最初に目覚めた能力以外は使えるようになる確率が低いんだ。まあ、研究例が少ないから、単にトライしていないだけで実際は出来るのかもしれないが。そういう意味でも、今回の克己のチャレンジは意味があるんだ」
すると、創平も口を開いた。
「そうだね。持っている力を使いこなす方に、今はどこの国も集中しているが、トレーニングのノウハウが出来てくれば、新しい能力の開発に乗り出すのは当然だろう。そう考えると、非常に価値のあるチャレンジだね」
すると、譲は創平を見て聞いた。
「そういえば、ドイツにはアスポート出来る人間は居るのか?」
「居るには居るが、そんなに強い力じゃないよ」
「強くなくてもかまわない。能力発動のコツを聞きたいんだ」
「君の説明では不十分なのかい?」
「サンプルは多い方が良いだろ?」
「それじゃ、後で聞いておくよ。今は向こうは夜だからね」
「頼む」
「了解」
その言葉を合図に、話が終わり、朝食の場は普段の世間話になった。
「私たちも、何か新しい能力を身につけた方が良いのかしら?」
麻里奈が手伝って、朝食の片付けをしている最中、るいざがふと言った。
「うーん、どうなんだろう」
麻里奈はお皿をすすぎながら、考える。
「今ある能力を伸ばすのも大事だと思うし。そりゃ、新しい能力が身に付けば良いとは思うけど。特に、私なんて2つしか能力が無いわけだし? るいざは3つもあるんだから、それを伸ばした方が良いんじゃない?」
「予知は余り使いこなせてないしね」
3つ能力があると言っても、予知は今のところ、自分の意思で使いこなせているかと言えば否である。
「そうよね。私は今ある能力を使いこなせるように、トレーニング頑張るわ」
るいざが言うと、今度は麻里奈が聞いた。
「私は、もう一つくらい能力身に付けるべきだと思う?」
「うーん。でも、身につけようと思って身に付くものでもないし、克己の結果を見てからでも遅くはない気がするわ」
「確かにそうね。克己が新しい能力を身に付けられたら、コツを聞いて私もやってみることにするわ」
「うん。それが良いかも」
何も2人同時に、新しい事にチャレンジする必要は無いだろう。と言うか、効率が悪い。
「それにしても、やっぱり海外には色んな能力を持った人が居るのね」
るいざが、お皿を洗い終わり、流しを片付けはじめる。麻里奈も、最後のお皿を流し終わり、水切りカゴに入れた。
「日本はウイルスの影響が少ないんだっけ?」
「そうらしいわ。それに加えて少子高齢化社会だったから、能力者も少ないのよね」
「譲がスカウトした人は、もう少し居たんでしょ?」
「何人って言ってたかは忘れちゃったけど、でも10人くらいに声を掛けたらしいわよ」
「じゃあ、断った人も居たのね」
「そうね。戦争する事になるもの。それと、亡くなった人も居たみたい」
「能力を使いこなせなくてっていう、アレね。そう考えると、千鳥ちゃんじゃないけど、新人さんが来る可能性もあるのよね?」
麻里奈が今気付いたとばかりに言うと、るいざも驚いた顔をした。
「そう言えばそうよね。いつまでもこの4人ってことは無いわよね? 譲、新人スカウトなんてしてるのかしら?」
「してなさそう」
「そうよね……」
「今度、聞いてみるわ」
「お願い」
そう言うと、片付けが終わった2人はそれぞれの予定をこなすべく、麻里奈はトレーニングルームへ行き、るいざはお昼の支度を始めるのであった。