17.消えた軍用機
無事、帰還した3人は、とりあえず一度、各自の部屋に戻った。
特に譲は、ずぶ濡れのままだったので、早くシャワーを浴びろと克己に強引に言われ、後片付けはしておくとまで言われてしまい、仕方なく後は任せて自室へ戻っていった。
克己は麻里奈と手分けをして、譲が身に付けていて、雨で使えなくなった物と、まだ使えるもの、そして使用したと思われる物を分け、記録していく。
「武器の勉強しておいて良かったわ」
「だな。にしても、結構濡れてダメになってるのが多いな」
「そういうのって、乾かしたら使えたりしないの?」
「使える可能性はあるけど、不発か誤作動を起こす可能性のが高いな」
「それじゃ、駄目ね」
結局、譲が使ったのは通称『眠り玉』と呼ばれる、強力な睡眠薬を気体にしてばらまく爆弾だけのようだ。まあ、強力過ぎて、すぐ効く代わりに、人によっては死亡する可能性があるという、危険な代物でもある。
「おし、終わり!」
「お疲れさま。今からなら、少しは寝れるかしら?」
「シャワーを浴びてたら無理じゃないか? 俺はこのまま起きてるつもりだけど」
「日課のジョギングするの?」
「いや、さすがに今は無理だわ」
テレポーテーションが相当堪えたらしい。
「私もシャワーを浴びてのんびりしようかしら。その頃には憲人も起きるだろうし」
麻里奈の言葉に、克己がふと聞いた。
「そう言や、憲人っていつまでお前と同じ部屋なの?」
「どういう意味?」
きょとんとして、麻里奈が首を傾げる。
すると、歩きながら克己が言った。
「もう、そろそろ自分の部屋が欲しい頃じゃないか?」
「それなら、一応最近は私の部屋の中の一部屋を憲人用にして、そこで寝起きしてるわよ?」
麻里奈の部屋はファミリータイプのため、主寝室やリビングダイニングの他に2つ部屋がある。そのうち、使っていなかった一室を、憲人用にしたのだ。
「それなら良いのか? 部屋なら空いてるんだから、完全に違う部屋でも良いんじゃねーの?」
「それはまだ早いわよ。せめて、15、6歳くらいにならないと」
「ママのお許しが出ないって?」
「そうよ。まあでも、すぐな気はするけどね」
麻里奈が言う。
「確かに、最近の憲人はますます成長が早いしな」
「そうなのよね。身長を追い抜かれるのも時間の問題だわ」
論点はそこらしい。
「とりあえず、憲人が1人部屋が良いって言うまでは、今のまま行くつもりよ。親子なんだし」
「それもそうだな」
憲人が希望しないなら、部屋はどこでも問題は無い。今はまだ、麻里奈にややベッタリ気味だが、すぐにそれも終わるだろう。
「反抗期とか来るのかね?」
「来ないと成長が心配だけど、来たら来たで心配よね」
「どういうタイプの反抗期が来るかが問題だな。……っと、じゃ、また後でな」
世間話をしながら歩いていたので、気付いたら部屋の前だった。
「うん。また後でね~」
そう言って2人は別れ、それぞれの部屋に戻っていった。
るいざが起きたとき、既に全員自室に戻っていたため、彼女は何も気付かず、いつものモーニングルーティンをし、朝食の準備にテラスへと歩いていった。
「今日は塩鮭を焼いて、冷や奴に納豆に……」
昨晩考えた朝食メニューを反芻しながら、のんびりとキッチンに入ると朝食の準備を始める。すると、いつものように克己がカウンターから顔を出した。
「おはよー、るい」
「おはよう、克己。ジョギング中?」
いつものこの時間は大抵、ジョギング中なのでそう聞くと、克己は首を横に振ってキッチンに入ってきた。
「今日はジョギングは休み。るいは知らないだろうけど、夜中に緊急出動があってさ」
「え、なにそれ、知らない!」
「やっぱり」
るいざは慌ててウィンドウを展開して、自分に呼び出しが来ていたかを確認する。
が、特にるいざには呼び出しが来ていた形跡はない。
「多分、深夜で寝てたから、呼ばれなかったんだと思うぞ」
「麻里奈は?」
「麻里奈は一緒に行った」
「当然、譲もよね。私だけ仲間外れ!?」
「そうじゃないだろ、多分。つか、焦げるぞ」
克己がコンロを指差す。
るいざは慌てて火を消し、今度は真維を呼んだ。
「真維、どういうこと!?」
『おはよう、2人とも』
「おはよーさん」
「おはよう」
『今朝の緊急出動は、全員眠ってたからと言うのと、テレパシーが必要無かったのとで、るいざはお留守番になったの』
「私がお荷物ってことじゃなくて?」
『違うわよ。たまたま今回は、指令の内容的に、るいざを起こしてまで連れて行く必要が無かったってだけ』
「それなら良いんだけど……。でも、一報くらいは欲しかったわ」
『次からはそうするわね』
「お願い」
「でもるいは起きないんだろ?」
克己がすかさず言うと、るいざはふてくされたように言った。
「その時は起きなくても、朝、見るもの!」
「やっぱり起きないんじゃん」
克己が笑った。
と、そこに譲がやってきた。一応シャワーは浴びたようで血色は戻っているが、髪は濡れたままだ。
克己がキッチンを出て、譲の方へ行く。
「お前、ちゃんと髪も乾かせよ」
「面倒くさい」
「だからって大雑把過ぎだろ! 水が滴ってるじゃないか!」
「一応拭いたんだが」
「あーもー」
克己は譲を強引に座らせると、ポケットからハンドタオルを取り出し、譲の髪を拭き始めた。
譲は顔をしかめたものの、されるがままになっている。
「せっかくのキレイな髪がもったいないだろ」
「興味無い」
「宝の持ち腐れだな」
克己の小言を気にもせず、譲はウィンドウを開き、メールを確認する。
と、タイミング良く緊急メールが届いた。
差出人は一條圭吾。おそらくは先程の件だろう。
メールを開くと、時間のある時に連絡を寄越すよう書かれていた。
譲は辺りを透視で見て、創平と憲人が居ない事を確認し、一條に通話を繋いだ。
「何の用だ?」
『…………それより君の今の状況を聞きたいんだが』
通話と言っても音声だけではなく、画面も映っている。当然、譲の髪を克己が乾かしているのも丸見えだ。
「髪が濡れているのが気になるそうだ。乾かしているだけだから気にするな」
「いや、普通気になるだろ……」
小言で克己が突っ込んだが、譲は全く意に介さず、一條に言った。
「で、用は?」
『ああ、そうだった。実は先程捕らえて貰った中華統一軍の軍用機についてだが』
「何かあったのか?」
『ああ。こちらの空軍の倉庫に停めて、無人の状態になっていた筈だが、気付いた時には消えていたんだ』
「――見張りは?」
『もちろん、居たさ。だが、大きな物だから、背を向けて、侵入者を主に見張っていたんだ。さすがにあのサイズの物が動いたら背を向けていても解るだろ?』
「エンジンが動けば音もするしな」
『そうなんだ。だが、音もなく、全員が目を離した隙に、こつ然とそこから消えたんだ』
「ふむ……」
譲が顎に手を当てる。
「見張りは何人で、場所はどこだった?」
『6人だ。周りを取り囲むように立っていた。もちろん、間だを軍用機が通ることは出来ない』
「再度確認するが、本当に無人だったんだな?」
『ああ。間違いない』
「なるほど」
その髪を大概乾かし終わった克己は、ハンドタオルを取ると、譲に聞いた。
「無人の軍用機がこつ然と消えるなんて、あり得るのか?」
「無い訳じゃない」
画面の向こうで一條も頷いた。
『敵に能力者が居た場合』
「テレポーテーション?」
克己が聞くと、今度は譲が答えた。
「の、応用だな。手を触れずに、物を移動させる能力だ」