15.テストの結果
「今日のトレーニングは、午前が麻里奈と克己、午後がるいざ。憲人はコンソールルームで勉強だ」
「OK」
「わかったわ」
「了解」
「はーい」
「ついでに、るいざは午前中、憲人の勉強を手伝ってくれ」
「え? 良いけど、どうかしたの?」
「テスト結果を返すから、復習を主に見てやって欲しい。俺はずっとはついていられないからな」
「ああ、そういうことね。解ったわ」
納得したるいざと対称的に、憲人が慌てる。
「ひょっとして、テスト結果が悪かった?」
「いや、そんな事は無い。むしろ良い方だ」
「良かった」
「ただ、当然完璧じゃないからな。人間の方が教えやすい部分で、間違いが少しあったんだ」
「そっかー。全部解けたと思ったのにな」
がっかりする憲人に、麻里奈がフォローを入れる。
「満点なんて、そうそう取れるものじゃないから、凹まなくて平気よ」
「そう言うもの?」
「そーゆーものよ。8割出来てたら上出来だわ」
ざっくりと言う麻里奈に、克己が注釈を入れた。
「普通は大人数でやるから、平均点ってのが出て、それと比較するけど、憲人は1人だから、とりあえず8割ってとこだな」
「まあ、先に言うと、9割は出来ていたから上出来だ」
「さすが憲人! 私の子だけはあるわ!」
「いや、お前の子じゃねーし……」
「いいのよ! こういうのは気分なんだから!」
「気分で親子関係ができるか!」
克己がツッコんだが、麻里奈はすでに無視して憲人の頭を撫でている。
「麻里奈、恥ずかしいよ」
「いいのいいの。気にしないで撫でられなさい」
照れる憲人を相手にせず、麻里奈は憲人を抱きしめて頭を撫でるのであった。
「と、言うわけでまずは結果だが」
譲がウィンドウを開いて、点数の一覧を見せた。
「国語98点、算数85点、理科88点、社会95点、英語75点だ」
「凄いわね。英語が少し低いくらい?」
るいざが言うと、譲が頷いた。
「英語は使わないからな。まあ、仕方ない」
「他は何が違ったの?」
「国語は漢字のケアレスミス、算数は途中式が抜けているための減点だから、これはほぼ気にしなくて良い。頭が良いと、途中式は頭の中で処理してしまうから、こういう結果になるのは良くあることだ。中学レベルになったらさすがに途中式も欲しいが、今回は良いだろう。理科は単なる間違い、社会は誤字。英語はスペルミスが多いな。今日はテストで間違えた箇所の復習と、反復練習だ」
「はーい」
嫌そうに憲人は返事をした。反復練習は、飽きてしまって、好きではないのだ。まあ、だからこそミスが出るわけだが。
「それで私が呼ばれたのね」
るいざが納得したように言うと、譲も頷いた。
「その通り。俺はトレーニングを見てるから、こっちは頼む。真維も手伝うから。答案と問題はここのフォルダーに入ってる。練習問題もあるから、最後にやってくれ」
「わかったわ」
譲はるいざに後を任せると、創平のところへ行った。トレーニングルームでは、今日はチェックポイントラリーが行われるため、準備運動の最中だ。
「連携のトレーニングを見るのは初めてだから、楽しみだよ」
「今日のは楽なヤツだな。最初に地図を見て、チェックポイントを覚えて、1から順番に通過して、タイムアタックをするだけだ」
「でも、地図には具体的な場所は、書かれていないんだろう?」
「大雑把な場所だけだな。だから、麻里奈の透視で探して、克己のテレポーテーションで移動する形だ」
「外には出るのかい?」
「今日は内部だけだ。外を使ったトレーニングは、また後日な」
「そっちも楽しみにしておくよ」
準備運動が終わった麻里奈が、創平に手を振っている。それに、創平が手を振り返しているのを見て、譲はマイクで呼び掛けた。
「準備は良いか?」
『OK』
『いつでもオッケーよ!』
「それじゃ、地図を出す。今回はすべてシェルター内だ。その分数が多いから頑張って覚えてくれ。地図表示は5分、制限時間は2時間だ。それじゃ、スタート」
パッと克己と麻里奈の前に大きな地図が表示される。
2人は真剣な顔をして、チェックポイントを覚え始めた。
一週間程は平和に、トレーニングの日々が続いた。
が、唐突に来た日再からのメールにより、それは中断されることとなる。
今回はメールが深夜だったため、譲も寝ていた。光と、着信音で目が覚め、メールを開く。
と、差出人は一條圭吾だ。
譲はため息を吐いて、横になったままメールを開く。
「緊急か……」
メールは緊急出動の要請だった。
「今、何時だ?」
譲が問いかけると、ふわりと現れた真維が答えた。
『午前3時18分よ』
「全員寝てるな……」
『もちろん』
譲は、もう一度ため息を吐くと、ベッドから起き上がった。
「克己と麻里奈を起こせ。支度出来次第3人で出る」
『わかったわ。るいざは?』
「この時間に寝てるんじゃ、使い物にならないから置いていく」
『了解』
逆に、予知が働いて起きているなら一緒に行くのだが、眠っていると言うことは今回は予知が働いていないのだろう。
あえて起こしてまで4人で行く必要は無いだろう。睡眠不足のるいざは扱いが難しいのだ。
譲はさっと着替えると、一足先に武器の準備をしようと部屋を出た。
すると、曲がり角の所に黒いコートを羽織った創平が居た。
「やあ。良い夜だね」
「アンタの顔を見なくて済めばそうだったな」
「緊急出動かい?」
「……」
創平の所へ、一條から連絡が行ったのか、それとも今回の敵とどこかで繋がりがあるのか、はたまた、メールをどこかから覗き見たのか。
どれも有り得るし、そして、この男は聞いても答えないだろう。
だったら、聞くだけ無駄だ。
「解ってるんだろ? それよりアンタは何をしてるんだ?」
「夜の散歩かな」
「ああそう。とりあえず俺は行く。アンタは勝手に散歩でも何でもしてくれ」
会話を切り上げ、創平の脇をすり抜けようとした譲の手を、創平が掴んで引き寄せた。
そしてそのまま、鉄格子のフェンスに押し付け唇を重ねた。
「っ……、ん」
克己と麻里奈が来るまでには、まだ時間がある。
そう判断して、譲はしばらくはされるがままになっていたが、解放してくれない気配を感じ、創平を押しのけた。
2人の間を透明な糸が繋いで、切れた。
「いい加減にしろ」
譲が苛立ったように言うと、創平はニヤリと笑って、譲を解放した。
「くれぐれも気を付けて」
「言われなくても」
そのまま譲はテラスを経由して、ゲートフロアを通り、駐車場へと向かう。
創平が何かを企んだような笑みを浮かべていたが、振り向かなかった譲はそれを見ることは無かった。
が、この緊急出動に創平が一枚噛んでいる事は、譲の直感が告げていた。
「乗ってやるよ」
譲はそう言うと、武器庫に入り準備を始めた。