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13.食事の差し入れ

 その日の昼食に、譲と創平は姿を見せず、克己がるいざに持たされた差し入れを持って、コンピュータールームへ行くと、大きめのウィンドウをいくつか開いて2人で議論を交わしていた。

 端から見ればケンカしてると思われかねない勢いだが、克己の目にはディベートに見えたので、多分間違ってはいないはずだ。

 克己が来たことには2人とも気付いたが、議論を止める気はさらさら無いらしく、真維が姿を見せて、近くのテーブルを指差した。


『そこに置いて貰えるかしら? 多分、合間に食べると思うから』

「OK」


 普段、譲は余り口数が多くない。だが、それは無口なのではなく、会話する相手が居なかっただけなのだと克己は気付く。そのくらい、饒舌に創平とは話しているのだ。

 そして、合間にドイツ語と英語が混ざるのは、多分無意識なのだろう。創平には通じるから問題は無いようだが、他のメンバーが聞いたら何だか解らなそうだ。かく言う克己も、英語も専門用語だし、ドイツ語は軽くしか解らないので、辛うじて言語の区別がつくくらいだ。

 10分程、克己は入り口脇で2人の様子を見ていたが、一向に議論がやむ気配は無いため、くるりと方向転換した。


「じゃ、真維、後頼むな」

『わかったわ。あ、もしかしたら夕食も行けないかもしれないわ』

「OK。るいに伝えとく」


 そう言い、克己はテラスへと戻っていった。






「あ~あ。せっかく創平ちゃんと一緒に食べられる夕ご飯なのに~」


 麻里奈がしょんぼりとボヤく。


「元気出して、麻里奈」

「ありがと、憲人」


 今日は1日この調子らしく、憲人ももう励ます言葉が見当たらない。


「仕事なんだから仕方ないだろ」

「そうだけど~」


 克己が言うと、麻里奈が恨めしそうに克己を見た。


「解ってるけど、でも、譲が創平ちゃんを独占しすぎだと思うのよ!」

「ぶっ」

「克己、汚いわよ」

「わ、わりいわりい」


 どこから出たのかというその斜め上の発想に、克己が盛大に吹き出しかけて、とどまる。それは単に、口の中にご飯がはいっていたからに他ならない。


「あぶね~、吹き出すとこだったぜ」

「今の話に面白い点、無くない?」


 麻里奈がジト目で克己を睨む。


「いやだってさ、どちらかというと、譲が西塔を独占してるって言うより、西塔が譲を独占してるんだと思うけどな」

「そう?」


 イマイチ納得いかない顔の麻里奈の隣で、憲人はコクコクと頷いた。


「それに、麻里奈だって働いてる西塔の方が好きなんだろ?」

「それは当然よ! 仕事をしている創平ちゃんは、ものすごーくカッコいいんだから!」

「なら、ボヤいてても仕方なくね?」

「それとこれとは話が別なの! 恋する乙女は複雑なんだから!」


 堂々と矛盾を宣言されて、克己も憲人も呆れる。


「本当に複雑だね……」


 憲人が呆れつつも言うと、麻里奈は解ってくれたとばかりに、憲人に話しかける。


「そうなのよ! カッコいい創平ちゃんは好きだし、仕事をしていない創平ちゃんなんて考えられないけど、でも! もっと一緒に居たいし会いたいのよ! せっかく同じ屋根の下に居るのに、もどかしいわ!」

「屋根っつーか、地下だけどな」

「克己、うるさい」


 克己のツッコミに、ツッコミ返して、麻里奈はまだブツブツとボヤいている。もはや憲人もスルーし始めた。

 と、麻里奈は良いことを思いついたとばかりに、るいざを見た。


「るいざ、夕食の差し入れもするの?」

「え? ええ、するつもりだけど?」

「それ、私が持って行くわ!」


 麻里奈が意気揚々と宣言する。


「差し入れをして、少しだけお話して、タイミングが合えばご飯食べるのを見て、仕事が終わるまで待ってるのも良いわね」

「普通に、迷惑だから止めとけって……」


 昼のあの2人の調子を見るに、麻里奈の望みは叶いそうもない。というか、多分、いや、確実に、仕事の邪魔になるだろう。


「大人しく待ってるわよ?」

「逆にさ、お前が農作業についてその道の技術者と話したりする機会があったとして、それを西塔が終わるまで待ってたり、差し入れしに来たりしたらどうよ?」


 有り得ない仮定だが、この際それはスルーしてもらおう。

 すると、麻里奈は少し考えて、肩を落とした。


「いくら創平ちゃんでも、……いえ、創平ちゃんだからこそ、ちょっと困るわね」

「だろ? やりにくいだろ」

「そうね。仕方ないわ。仕事しているカッコいい創平ちゃんを見るのは、コンソールルームだけのお楽しみにしておくわ」

「そこは譲らないんだ……」


 憲人がすかさずツッコんだ。


「今日の夜の時間も我慢してあげるんだから、そのくらい許して欲しいわ」

「おお。かなりの譲歩だ」

「大人ですから」


 麻里奈が言うと、見た目とのギャップがあって、妙に面白い。

 思わず吹き出しかけて、克己は踏みとどまった。ここで、麻里奈に拗ねられると、また面倒くさい事になる。


「つーわけで、俺が持って行くよ。どうせあの2人は、気づいてもスルーだし」

「そうね。じゃあ、克己、お願いね」


 るいざは使った食器を重ねながら、差し入れのメニューについて考え始めた。

 お昼はサンドイッチを差し入れしたから、夜は違うものにしたい。でも、手の込んだ料理は面倒くさいという理由で食べそうも無い気がする。


「るいざ、何作るの?」


 麻里奈が興味深々で聞いてきた。


「混ぜ込みご飯のおにぎりと、食べるかは解らないけど、夕食の残りの、なすの揚げ浸しに、揚げ出し豆腐、アジの竜田揚げかしらね。片手で食べられないから嫌かしら?」

「そっか。作業しながらだと、片手で食べられるものが良いわよね」

「そうなのよね。パニーニとかでも良いんだけど、栄養バランスがね」

「そこまで気にするなら、普通に残りメニューを差し入れしちゃえば? 食べなかったら、明日食べれば良いし」

「まあ、おにぎりだけでも食べたら御の字くらいの気持ちでいこうかしら」

「じゃあ、私がおにぎりは作るわ」

「いいの?」

「うん。大好きな創平ちゃんの為だもの! るいざは他のメニューをお願い」

「ありがとう、助かるわ」


 女性陣2人が準備を始めてしまったので、克己と憲人は急いで食事を終えると、机の上を片付け始めた。

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