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11.ナイフの切れ味

 一方コンソールルームでは、まだ譲と創平が話していた。


「通常トレーニングのメニューも随分変わっているね」

「以前は個々の能力を制御する方に特化してたが、ある程度使いこなせるようになったから、能力を伸ばす事と、実践を意識した連携をメインにしている」

「連携は重要だけど、トレーニング内容に悩まないかい?」

「今のところ特に困ってないな。そっちはどんな事をしているんだ?」

「連携は、複数人でチームを組んでの模擬戦をしているね。必ず怪我人が出るのが悩みどころだ」


 その言葉に譲は呆れたような顔をした。


「模擬戦で怪我をしてりゃ世話ないな。確かに模擬戦は一番効率的な方法だが、もっと他に平和的な方法もあるだろうに」

「例えば?」

「うちは、宝探しやチェックポイントラリーをメインにしている。一応一覧がここに入っているから、見ておくと良い」

「成る程ね。軍から訓練方法を持ってきたのが良くなかったな。譲の発想の方が柔軟で面白そうだ」

「まあ、能力にもよるけどな。あ、そこのフォルダだ。課題とデータが纏まってる」

「Great」

「ちなみに、ここでも模擬戦もやることはあるが、基本的に相手は人じゃない」

「コンピューターかい?」

「ああ。真維をフル活用している。敵にAIを組み込めば、かなり実践に近い戦闘ができる」

「人数が少ないから、そう言う方法を思いつくのかな」

「それはあるかもな。俺も、人数が揃っていたら紅白戦とかやりたくなりそうだ」

「君が居るチームの勝ちだから、やる意味が無いんじゃないかい?」

「経験値にはなるだろ」


 勝ちの部分は否定せずに、譲は答えた。


「さて、そろそろ昼飯にしよう」

「ああ、もうこんな時間か」


 気付けば既に、12時半を回っていた。


「午後も憲人のテストがあるからな。時間をずらしたく無いんだ」

「ああ。憲人の事も聞かせてほしいな」

「後でな」

「ああ。後でゆっくりと、ね」


 創平が意味深に言うのを無視して、譲はコンソールルームから出る。それを追って創平もゆったり歩いてきた。身長差があるため、創平がゆったり歩いても、譲にすぐに追い付けるのが何となく悔しい。


「ところで、相談なんだが」


 創平が歩きながら言った。


「1日、早いうちに、君の時間を貰えないかな? システムの更新が早すぎて、通常業務の間に追い付くのは難しそうだ」

「アンタがか?」


 意外そうに聞いた譲に、創平は苦笑する。


「僕は君が思うほどコンピューターに特化していないよ」

「でも、ドイツ軍の能力研究の特別顧問だろ?」

「一応は。だからといって、君のレベルと比べないで欲しいな」

「……。まあ、そう言うなら明日は空ける」

「感謝するよ」


 創平は、譲の髪を一房取るとキスをして感謝を示した。

 譲は鬱陶しそうに、首を振って逃れる。


「少しは隠れてやってくれ」

「おや、バレると困る相手でも?」

「困るのはアンタだろ。麻里奈はどうする?」

「麻里奈は僕を信じてくれているから大丈夫だよ」

「ああそう……」


 げんなりとした譲をよそに、創平はいつもの胡散臭い笑みを浮かべると、先にたってテラスへと向かった。






 午後は午前と同じで、克己のトレーニングをしながら憲人のテストをして、創平に解説をする。

 テストも全科目終わる頃には、さすがに憲人も疲れたようで、処理速度が落ちていた。

 普段の勉強時間より少し長かったせいもあるかもしれない。


「はい、終わり。おつかれさん」

「わーい、終わったー!」

「結果は明日……、いや、明後日だ」

「そうなの? すぐ解るものじゃないの?」

「マークシートならすぐだが、これは俺が採点しなきゃならないから、時間が少しかかるんだ」

「ふーん?」


 よく分からない様子で、憲人は言うと、立ち上がった。


「まあいいや。それじゃ、僕は農場に行っても良い?」

「良いよ。気を付けてな」

「わかってる! 行ってきまーす!」


 元気良く憲人はコンソールルームを出て行った。それを見送ると、譲はトレーニングを横目に採点を開始する。


「いやはや、まるで学校だね」

「生徒は1人だけどな」

「憲人君は随分成長が早いようだけど、脳と情緒はどうなんだい?」

「今のところ問題はないな。ただ、学習速度がどうしても成長に追い付けないが。こればっかりは、時間が必要な物だから仕方ない」

「ふむふむ。それから、譲が慣れていることの方が驚いたんだが」


 その言葉に譲の動きが一瞬止まる。が、すぐに採点を進める。


「以前似たようなことをしたことがあるからな」

「それはいつ?」

「いつでもいいだろ」


 そう言い、話を終わらせてしまう。

 創平はやれやれと言った様子で、トレーニングルームを見た。

 しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのは譲だった。


「それより、アンタは遺伝子工学に明るかったよな? 憲人の成長について、何か解らないのか?」

「そう漠然と問われてもね」


 創平は譲を見て、言った。


「どうせ基本的な事は、全部君が調べているんだろう?」

「一応な。拾った手前、放置は出来ないだろ」

「優しい事で」

「解ってると思うが、憲人については日再には言ってない。アンタも漏らすなよ?」

「解ってるさ」


 笑って答えた創平に、譲は答案を見たまま言った。


「やっぱり何か知ってるんだな」


 創平が驚いて、目を見開く。


「どうしてそう思うんだい?」

「アンタが、何の裏もなく、即答するわけが無いからな」


 どうやら、譲の頭の切れるのは変わっていないらしい。こんな所に引っ込んでしばらく経っているから、鈍っているかとも思っていたが。

 創平は愉しげに笑う。ナイフの切れ味は相変わらずらしい。


「やっぱり君は興味深いね」

「嬉しく無いな」


 譲は淡々と答える。と、トレーニング終了の音声が鳴った。

 譲は答案のウィンドウを一旦消すと、トレーニングルームへと足を向けた。

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