12.第2回懇親会
「で、あの後克己はどこへ行ってたの?」
るいざは麻里奈に注いで貰ったお酒を手に、克己に聞いた。そして、お酒を一口呑むと、目を輝かせた。
「麻里奈、このお酒も美味しいわ!」
「でしょう!」
「昨日のも美味しかったけど、今日のは……なんて言うのかしら、フルーティーな味わいが良いわね」
「わかる?」
「分かるわよ! ラベルが無いけどどうやって手に入れたの?」
「実は自家製なのよ。私が可愛がって育てた子たちよ!」
「自家製? そりゃすごい」
「ちょっと待って。自家製ってことは、もしかしてこの施設でも……?」
「材料が揃えば造れるわね。時間はかかっちゃうけど」
るいざがガシッと麻里奈の手を握った。
「ぜひ造って!お願い!」
「良いけど……そんなにお酒が好きなのね」
るいざがコクコクと首を縦に振る。
そして、再びグラスを持つとうっとりと酒を見つめた。
そこに、克己が声をかけた。
「そろそろ俺の話してもいいか?」
「ああ、忘れてたわ。どうぞ」
「どうぞってお前……。まあいいや」
お酒が絡んだときのるいざのノリには慣れている克己は、るいざのぞんざいな扱いを早々に諦め、今日の出来事を2人に話した。
「つーワケ」
一通り話した克己に、るいざが少しトロンとした目で言う。
「盛り沢山ね」
「情報が多すぎて何が何やら」
麻里奈はハテナを飛ばしている。
「白石さんは、結局味方なの? 敵なの?」
「分からないな。るいざはどっちだと思う?」
こういう時のるいざの勘は大概当たる。それを知ってる克己がるいざに聞いた。すると、るいざは複雑そうな顔をして答えた。
「分からないけど、私はあの人、苦手だわ」
「そう? 優しいし良い人じゃない」
すかさず言った麻里奈に、るいざも頷く。
「親切な人だし、譲より気が利くとは思うんだけど……。でも、私が男の人苦手だからそう感じるだけかもしれないわ」
るいざが男の人が苦手な事を知らなかった麻里奈は驚いた。
「譲と普通に話してたから気付かなかったわ」
その言葉にそう言われてみればとるいざも思う。
「譲はなぜか平気なのよね。不思議なことに」
「顔のせいじゃね?」
「それもあるけど、……なんか、こっちに全く興味が無い気がして、それで平気な気がする」
るいざの言葉に克己が納得する。
「確かに。アイツ、俺たち……つか、恋人の神崎サンすら眼中にない気がするもんな」
うんうんと麻里奈か頷く。
「この先、工事が終わったら、この大きな施設に私たち4人だけになるのよね?」
「そう聞いてるけど、今日の白石さんの話し方だと、研究員は残りたい感じだったな」
るいざがグラスを両手で持った。
「この大きな施設をたった4人で維持できるものかしら?」
その問いに、麻里奈が楽観的に答えた。
「農場のロボットみたいな人?も居るし、なんとかなるんじゃない?」
「つか、譲の事だから出来ないことはしないだろ。多分」
「譲とも懇親会したいわよね。会話が足りてないと思うの!」
「るいざに賛成。明日は譲も誘いましょうよ」
「一応今日も誘ったんだけど、忙しいって断られたんだぜ?」
「何それ初耳」
「失敗したから言わなかった」
「ちょっと! 他に黙っている情報は無いんでしょうね!?」
「ナイナイ」
両手をヒラヒラとさせて克己が言った。
「あ、でも白石さんが妙に譲に固執してる気はしたかな」
「譲に?」
「あ、いや。譲にっつーか、権力にかな?」
「そう言えば譲って、ここの所長兼特殊能力課の課長なんだっけ」
「課長じゃそこまで偉く無くない?」
麻里奈の問いに克己が答える。
「普通の課長だったらそうかもしれないけど、ここは特殊能力課なんだぜ?」
「それに――」
るいざが神妙な顔をして言った。
「組織図を見ると、特殊能力課は日再の長の直属なのよ」
「つまり、軍部の頭と同じ権力を持ってるって事か」
ちなみに軍部長の下に、陸軍、海軍、空軍がある。特殊能力課は名前こそ『課』であるが、日再の中での優先順位はかなり高いと言える。
すると、るいざはそれを訂正した。
「いいえ。軍部の防衛官長よりも一段上よ」
「え、そんなに?」
それに、不思議そうな顔をして麻里奈が聞いた。
「なんで譲が課長なんだろう? もっと他に、それこそ白石さんとかいるのに」
「そうなのよね。白石さんの話ではコネがあるって言ってたんでしょ?」
「後は能力持ちな事とかな」
「改めて考えてみると譲も相当怪しいわよね」
麻里奈がズバリと言った。
その切り口の良さに、思わず克己が吹き出した。
「まあでも、今回はアイツは狙われる側だろうから、犯人じゃ無いと思うぜ?」
「それもそうね。譲がやっても何の徳も無いものね」
「分からないのは神崎サンだな。まだマトモに話したことがない」
「譲の恋人なら、譲の味方なんじゃない?」
「それも、白石さんに聞いた情報で本当かどうか謎だからなぁ」
麻里奈のように考え方が真っ直ぐなら楽なのだが。
「そう言えばるいざたちは、あの後ずっと農場に居たのか?」
「そうよ」
2人揃って首を縦に振る。
「何か面白い話でもあったのか?」
「私は新しい料理のレシピを聞けたわ」
「麻里奈は?」
「農業の話を思いっきりしたわ!」
「お、おう」
凄い勢いで返ってきた声に、克己が後ずさる。
「そもそも農業って言うのはね、元来地上で発生して発展してきたもので、今も被害が少ない地域は地上で細々と作物を育てたり家畜を飼ったりしているけど、それが地下でどう適合させていくかっていうのが課題で――」
思い切り早口でまくし立てている麻里奈の目に、克己やるいざは既に入っていない。
「まあ、楽しそうだし……」
るいざの囁きに、麻里奈のマシンガントークが終わるまで付き合ってあげる年上2人であった。