4.ティータイム
るいざはお皿に温めたスコーンと、クロテッドクリーム、ジャムを乗せ、テーブルに運んでいった。
「わあ! 豪華だね!」
「紅茶も今持ってくるからちょっと待っててね」
「うん!」
ニコニコしている憲人に、なんとなく癒やされると、るいざはティーポットと、カップ、砂糖とミルク、砂時計を持ってテーブルへ置いた。
「温かいのだけど、良かったかしら?」
テラスはそこまでの暑さは無いが、今は9月初旬。住居ブロックなどは、外と変わりない暑さで、まさに夏といったところだ。
るいざはともかく、憲人は冷たい方が良かっただろうかと思ったが、憲人は素直に頷いた。
「ポットから淹れた温かいのが一番美味しいから、大丈夫!」
「そう? なら良いんだけど」
意外と舌が肥えているらしい憲人に、るいざが驚いた。
そして、カップを置くと、ちょうど砂時計の砂が落ちきる。
ティーポットを傾け、カップに紅茶を注ぐと、るいざも椅子に腰掛けた。
「それじゃ、ティータイムにしましょ」
「これ、食べて良い?」
憲人がスコーンを指差して聞く。
「それはスコーンって言うのよ。食べて食べて。少しパサパサしてるから、こっちのクロテッドクリームを付けても良いし、ジャムをつけて食べても美味しいわよ」
「わかった」
憲人はスコーンを半分に割ると、クロテッドクリームとジャム、両方をたっぷりつけて、かぶりついた。
「美味しい!」
「そう? 良かったわ」
るいざは紅茶を一口飲むと、スコーンに手を伸ばした。冷凍のスコーンを軽くトースターで温めただけだが、意外と美味しい。
そうして、憲人はあっと言う間に1つ食べ終わる。
そして紅茶を半分ほど飲んで、次のスコーンに手を伸ばした。
「そう言えば、創平さんってどんな人?」
「どんなって?」
「麻里奈が、昨日説明してくれたんだけど、良くわからなくて」
「あー……」
麻里奈の説明は、普段から主観的でわかりにくいが、創平の説明に至っては誰の話かと思うレベルである。
まさにあばたもえくぼ、恋する乙女は夢見がちなのだ。
「どんな……ねえ。私もあんまり良く知らないのよね」
「でも、前にここに来てたんじゃないの?」
「来てたけど、仕事で一週間居ただけだったし、何より、麻里奈には悪いけど、私はあの人苦手だから、あまり接点を持たなかったのよね」
「るいざは創平が嫌いなの?」
「そう言っても差し支え無いわね」
「そうなんだ」
「でも、麻里奈には秘密ね。気にすると思うから」
「うん、わかった」
憲人は素直に頷いた。憲人としても、麻里奈を悩ませたいわけではない。
「でも、僕もあんまりあの人好きじゃないかも」
憲人の言葉に、るいざが驚いた。
「だって、麻里奈とずっと一緒にいるんでしょ? 恋人だし」
可愛いやきもちに、るいざが思わず微笑んだ。母親を取られた感情によく似ているそれに、微笑ましさを感じてしまう。
「でも、西塔さんは譲とも知り合いみたいだし、仕事面では譲との接点が一番多いはずだから、そこまで麻里奈と一緒なわけじゃないと思うわよ」
「そうなの?」
「ええ」
憲人は2つめのスコーンを食べ終わると、椅子の背に身体を預けた。
「譲も謎だよねー」
「そうね」
「何でも知ってるし、何でも出来るし、偉い人で、すごい人なのに、普通な感じ」
「普通かなぁ?」
さすがにアレを普通と言うのは、無理がある気がする。
でも確かに、偉ぶったりはしないので、ある意味では普通なのかもしれない。多分、本人に頓着が無いだけとも言えるだろうが。
「僕は、譲みたいな人になりたいなー」
その言葉には、さすがにるいざが反応した。
「あれを目指すのは止めておいた方が良いわよ」
「そう?」
「そう。悪いことは言わないから、どうせ目指すなら克己にしなさい」
気遣いが出来て大人な対応ができる克己こそ、見習ってほしい。まだ子どもの憲人は、スーパーヒーローに憧れる感じで譲に憧れるのだろうが、大人から言わせてもらえば、克己のような人間の方が男前だと思う。これはるいざのひいき目では無いはずだ。
「克己かー。運動とかはすごいよね」
「そうね。毎日トレーニングしてるものね」
「やっぱり、毎日トレーニングしないとダメ?」
「そうね。何を目指すにしても、毎日の積み重ねが大事になるわね」
「料理とかも?」
「もちろん」
「そっかー」
「でも憲人は今は、勉強と農場のお手伝いを頑張るのが大事だと思うわよ。基礎が大事なのは、全部に共通するから」
「そうなんだね。じゃあ、僕、勉強とお手伝いがんばる!」
さすが、麻里奈が育てているだけあって、憲人は素直である。るいざはちょっと羨ましい気持ちになるが、きっと憲人も大人になれば素直なだけでは居られないだろうし、今だけなのだろう。
と、憲人が背もたれから身体を起こして、るいざを見た。
「ところで、スコーン、もう一つ食べても良い?」
るいざが持ってきたスコーンは4つだったため、半分ずつだと思い、聞いたのだろう。
ちゃんと麻里奈の躾が行き届いている。
「良いわよ。足りなかったらまだあるから」
「わーい。ありがとう!」
「でも、夕ご飯が入らないほど食べちゃダメよ?」
「うん!」
憲人は良いお返事をすると、スコーンへと手を伸ばした。
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