11.夕食
「おっじゃまー」
「克己!」
るいざと麻里奈が夕食を食べていると、そこにちょうど克己が現れた。
「どこに行ってたのよ?」
「それは後でな。俺も飯貰ってくる」
そう言うと克己は食堂のオバチャンのところへ行った。
「そう言えば譲も居ないわね」
るいざが見回すと、麻里奈がデザートのメロンパフェを食べながら言った。
「譲が物を食べて居るところって、なんか想像出来ないわ」
「でも朝はカフェオレ飲んでたわよ」
「そうだけど。でもあの顔じゃない?」
「どの顔? 俺がイケメンって話?」
不意に現れた克己が話に乱入してくる。それに、驚きもせずにるいざが答えた。
「はいはい。確かに克己も格好いいけど、今は譲の話よ」
「ああ、あの顔には負けるわ。るいざも美人だけど、あれは別格。俺最初天使かと思ったもん」
「確かに黙ってれば天使にも見えるわね。髪色も相まって」
「……て、私はどうなのよ!?」
一切触れられなかった麻里奈が、スプーンで克己を指した。
「麻里奈は美人っつーよりかわいい部類だな。なんかこう、小動物みたいな感じ?」
「それ褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
雑に褒めて、克己は椅子に腰掛けた。トレイには大きなステーキと山盛りのマッシュポテトが乗っている。
「いただきま~す」
そのメニューを見て、麻里奈が克己に聞く。
「食事は洋食派なの?」
「こだわりは無い。けど、昼に牛見たらステーキが食いたくなってさ」
「短絡的」
「何とでも」
しばらく克己の食べるのを見ていたるいざだったが、思い出したように口を開いた。
「そう言えば、火災のアラームのこと、何か知ってる?」
「ああ、現地までお邪魔してきたぜ」
さすが、行動力のある男である。
「それなんだけどさ、今日も懇親会しねぇ?」
「私は良いけど、麻里奈は?」
「私も大丈夫よ。今日は別の瓶を持って行くわね」
「お前どれだけ持ち込んでるんだよ……」
あきれた顔で克己が言った。
「3本だけよ。だから明日で終わっちゃうわね」
「そうなのね……」
あからさまにガッカリした様子のるいざを、麻里奈が励ます。
「ま、まあ、今日はまだあるから」
「そうよね! 後でコンビニでお菓子持ってこなくちゃ」
機嫌が急浮上して、るいざはウキウキと食べ終わったトレイを返却へ行った。
まだ食べていた麻里奈は、克己を見る。
「何か良い情報掴んだんでしょうね?」
「面白いヤツがいくつかね」
そう言ってウインクした克己は、悔しい事に麻里奈から見ても様になっていた。
真夜中、午前3時過ぎ。
いい加減五月蠅くなって端末のアラームを切って作業していた譲の左手のウィンドウが、非常事態を告げた。
「後少しだっつーのに」
1人ごちてウィンドウを閉じ、端末の音声通話を繋ぐ。
「俺だ」
『すみません、またです』
「今夜は騒がしいな」
昼の処理棟に始まり、夜にコンピュータールーム、トレーニングルーム、処理棟と、既に3件、同様の爆発騒ぎが起こっている。
「今度はどこだ?」
『住居ブロックの1階、連絡通路です』
「すぐ行く」
通話を切る部屋を出る。同じ住居ブロックなら中央回廊へ回るよりブロック内の階段の方が早い。
面倒で、PKを使い階段を一気に降りる。
と、連絡通路方面に煙が見えた。
「まだ火がついているのか?」
現場に居たのは、非番の職員が1人だけだった。
「所長! どうやら不発弾らしく、煙だけ出て火はチョロチョロと、たまに吹き出す感じで、いつ爆発するか分からなくて近寄れないんです」
「なる程。非番に第一発見者とは災難だったな。コイツは俺が回収する」
「え、しかし……」
「その代わり、この件については他言無用だ」
譲が、すっと爆弾へと手をかざす。
「シールド展開。酸素をゼロに」
薄く青い四角形のシールドに包まれた爆弾がふわりと浮いて、内部の酸素が無くなり火が消えた。それを回収して、譲は現場を確認する。
煙は排気が稼働しているからすぐに無くなるだろう。火の被害も、パネルが焦げているだけだ。
とりあえずシールドで包んだまま、小型爆弾をポケットへ入れる。
と、そこへ研究員と共に白石が到着した。
「処理が終わったところかな?」
「ああ」
「被害はこれだけか?」
「所長の到着が早かった為、被害を最小限に食い止められました」
「いや、発見が早かったんだ。お手柄だな」
「ありがとうございます」
「それじゃ解散」
ポンと発見した職員の肩を叩くと、譲は部屋へと戻ろうとした。その背に、白石が声をかけた。
「譲君。神崎は今はどうしている?」
「自室で謹慎中――が、解けた頃だな」
「言いにくいが、彼を疑うべきだと考える。以前、軍であった事故のことは君も聞いているだろう? その一件で日再を恨んでいたとしても不思議じゃない」
「神崎が現役を退く原因となった事故の事なら聞いている」
譲は振り向いて白石を見た。
「……何か勘違いをしているようだから言っておくが、俺は自分以外の誰も信用してはいない。もちろん神崎も……お前もだ」
白石が驚いたように目を見張る。額には青筋が浮いて、拳がきつく握り締められた。
その様子に構わず、譲は背を向け自室へと足を向けた。
部屋に戻った譲は、早速小型爆弾を解体していた。仕掛けは簡単な物で、被害を与えるよりも煙が多く出る配合になっている、時限式の日再の最新式の爆弾だ。
時限式と言うことは、その場に居なかった人間も犯人になりうるということだ。
もっとも、譲には犯人の予想が既に付いていたが。
「後はどうやって炙り出すか……」
再びウィンドウを立ち上げて、作業を始める。このシステムが完成すれば、この爆弾騒ぎの一件は終わるだろう。基地の工事はもうほとんど終わっている。このシステムが完成し、起動する時こそが、本当の特殊能力課の稼働する時になる。
「後少しで逢える、……真維」