表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/311

33.変わらないこと、変わったこと

 一方その頃、譲は神崎の部屋で調べ物をしていた。

 ウィンドウを複数開いてあれこれしている譲に、神崎は呆れた顔で話しかけた。


「いつものことながら、俺の部屋を便利に使いすぎじゃないか?」


 唐突にやってきては、部屋を占領していく譲に、いつ来ても構わないとは言え、体よく使われている気はしないでもない。


「こっちに俺の部屋が無いんだから仕方ない」

「そう言う問題か?」


 確かに、所属が本部ではない譲の部屋はこちらには無い。だが、度々部屋を訪れては占拠していく頻度を考えると、部屋の申請をしても良いのではと思わないでもない。


「別にただで居座っているわけでもなし」

「それはお前のメリットじゃないのか?」

「利害の一致だろ」

「よく言う。調べ物が終わる前に襲うぞ」

「どーぞ」


 どうやら簡単に終わる調べ物では無いらしい。

 譲の許可も出たことだし、神崎は譲の腰を抱き込んでベッドに押し倒した。

 ウィンドウが一緒に雪崩てきて、うざったいので神崎が腕を振ってすべて消す。


「あんまり首を突っ込むと、消されるぞ」


 神崎が譲に忠告する。

 が、譲は笑って言った。


「いまさらだな」


 確かにその通りではあるが、神崎としてはあまり危ない橋を渡って欲しくは無い。その程度には、譲の事を気に入っていた。

 ひねくれた女王様だけどな。

 譲は部屋の明かりを落とすと、神崎の首に腕を回した。


「それより、集中しろ」

「ああ」


 とりあえず、我が儘な女王様を満足させるべく、神崎は唇を重ねた。






 翌日、夕食が終わっても譲は帰ってこなかった。


「まーた、アイツは、いつ帰ってくるんだか!」


 克己がマグカップをテーブルにドンと置き、言った。


「ちょっと、克己。こぼれたわよ」


 今回は冷静な麻里奈が言う。


「譲の事だから、どうせ調べ物に夢中になってるんでしょ」


 るいざが言う。


「そうだろうけどさー。だから、連絡のひとつも寄越せっつー話よ」

「そんなに気になるなら、克己から連絡すれば良いじゃない」


 麻里奈が言うと、克己は驚いた顔をした。


「確かに。なんで思い付かなかったんだろ……」

「思い付いて無かったんだ」


 るいざはてっきり、連絡を入れないよう言われているのかと思っていた。


「さあ、バカはほっといて、私たちは寝ましょう」

「うん」


 麻里奈は憲人を連れて、早々に部屋へと戻っていった。譲が帰ってこようが来まいが、我関せずといったところだ。

 まあ、ここに来た当初とは違うから、克己とて、譲の外泊が何泊になろうとどうでも良い。どうでも良いはずなのに――。


「なぁんか気になるんだよな」


 机に突っ伏して、克己が言った。

 その様子をしげしげと眺めて、るいざが言う。


「克己は変わらないわね」

「そーか?」

「うん。根本的なところが、変わらないなって思う」

「それって、成長してないって事?」

「それとは違うかな」

「ならいいや」


 克己はようやく、零したコーヒーを拭くと、マグカップに口をつけた。


「それにしても、本当にいつ帰ってくるんだか」

「そうねえ。食事の都合があるから少しははっきりして欲しいわね」


 るいざの言うことはもっともである。

 克己と違ってこっちは実害があるのだ。


「連絡取ってみるか」

「珍しい。でも、譲が出るかしら?」

「……。やっぱ止めた」

「あら。どうしたの?」

「いや、譲は本部に居るだろ?」

「そうね」

「てことは、神崎さんの所に居る確率が高い」

「でしょうね」

「邪魔したら怒られそうじゃね?」

「そもそも最中だったら、連絡入れても出ないわよ」

「さらっとすげー事言うな」

「だって事実じゃない」

「なんか、むしろ邪魔したくなってきたわ」

「何バカなこと言ってるのよ」

「るいにまでバカって言われた……」

「本当の事だから仕方ないわね」


 容赦なくトドメを刺して、るいざは席を立った。


「私もそろそろ部屋に戻って寝るわ。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 ここに来たばかりの頃は、譲の外出にみんなでやきもきしていたのが遠い昔のようだ。

 るいざの背を見送って、克己はテラスに植えられている木を見た。


「つーか、もう一年以上経ってるのか」


 シェルターの中で変化が乏しいとは言え、真維のおかげで四季があるから、外よりは時間の変化を感じる。ただ、メンバーがほぼ変わらない事と、毎日のルーティンに変化が無い事で麻痺しがちだが、意外と時は経っているのだ。

 と、パッとはじめが現れ、克己は驚いてまたコーヒーを零した。


「こぼれたわよ」

「わかってる。つか、るいなら部屋に戻ったけど?」

「知ってるわよ」

「じゃあ何か用でも?」

「克己君が1人で黄昏てて可哀想だから、話し相手をしてあげようかと思って」

「いや、特に、平気ですけど」

「まあまあ、遠慮しないで。たまには私にも付き合いなさいよ。まだ憲人君には認知されてないから、出番が少ないのよ」

「出番て。まあ、話し相手くらい、いくらでもしますが」

「じゃあとりあえず、敬語は無しね」

「OK。その方が楽でいいや。つか、何気にはじめさん、と2人で話すの初じゃ?」


 克己の言葉にはじめは手を打った。


「そうかも! わー、乾杯出来ないのが悔しいわ!」


 あのるいざにしてこの親?有りって感じだ。

 はじめは適当な椅子に腰掛けて、テーブルにひじを付いた。


「で、克己君は譲君を待ってるの?」

「まあ、そんなところ」

「つまり暇なのよね?」

「なんでそうなる。いや、暇だけど」


 思わずツッコんでしまう克己に、はじめが愉快そうに笑った。


「今日帰ってくるのかしらね?」

「どうだろうな。わかんね」

「克己君から見て、譲君ってどんな人?」


 唐突にはじめが聞いた。


「俺から見て?」

「そう」


 克己は少し考えると、言った。


「神経質なようで意外と大雑把、能力はチートで……」


 そこで言葉が止まる。


「一年以上一緒に居るけど、良くわかんねーや」

「そうなの?」

「関係も、近くなった気もするけど、踏み込まれたくない所には相変わらず立ち入らせてくれねーし」

「ああ。それはあるわよね」

「過去とか、何考えてるのかとかも謎だし」


 言葉にすると、意外と譲との関係は変化していないことに気が付いてしまった。

 克己はまたテーブルに突っ伏して、落ち込む。


「まあまあ。変化してるところもあるじゃない」


 はじめが克己を励ますように言う。


「例えば?」

「そうねえ。一緒に食事したりとか」

「……」


 言われてみれば、その通りだ。変化してないところもあるが、変化しているところもある。そしてそれは、克己も同じ事だろう。


「あ、エレベーターが動いたわ」


 はじめはそう言うと、パッと姿を消してしまう。

 見ると、エレベーターが下りてきて、譲が姿を表した。


「おせーよ」


 その姿を見て、思わず克己はボヤいてしまう。すると譲はしれっと言った。


「別に待ってろとは言ってない。寝ていて良いんだぞ」

「そうだけどさー」


 ぼやく克己を無視して、譲はキッチンに入り冷蔵庫を開けた。中にはるいざが作り置きしたサンドイッチが入っているはずだ。

 それと、コーヒーを持ってテーブルの方へ歩いてくる譲を見て、克己は思わず笑ってしまった。


「何、いきなり笑ってるんだ。気持ち悪い」

「いや、悪い悪い」


 確かに変わっている部分もあるというのを実感して、思わず笑いが出てしまったのだ。


「今日の夕食の残りが挟まってるから、豪華だぜ」

「そうか」


 譲はそれだけ言うと、克己の向かいに座りサンドイッチを食べ始めた。

 るいざの餌付けだけは、確実に成功してるな。

 心の中でそう思い、克己は譲を見ながらコーヒーを飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ