31.陸軍第6部隊との任務
車の中を見回し、克己は譲に言った。
「任務っつーわりに、和やかじゃん」
車はトラックのような形をしていて、荷台の箱の中の両側に椅子がついていて、そこに座りきれない人間は床に座っているが、そこそこの人数が乗っているせいで、賑やかだ。
「今回は、そこまでドンパチしなさそうだからだろ」
「ふーん」
「実際はどうか解らないがな」
「だな」
一応克己と譲は椅子に座っているが、クッションがきいてなくて座り心地は悪い。
できれば早く到着して欲しいところだ。
小一時間程走ったところで、車は停車した。
ここで、相手を待ち構える作戦だ。
主に陸軍が担当しているので、特殊能力課の出番は、敵に特殊能力持ちが居た場合と、陸軍が押された場合のみだ。
克己は他の兵士と一緒に車を降りたが、譲はそのまま椅子に座ってのんびりしている。
「降りないのか?」
「ここでいい。お前も離れすぎなければ、好きな場所に居て良いぞ」
「そう言われてもなー」
顔見知りが居ない上に、他の兵士は仕事がある。無駄口をたたいているわけにもいかないので、克己も車を降りた場所でストレッチしつつ待機することにした。
しばらくすると、敵を迎え撃つ準備が出来たようで、車周辺はほぼ人が居なくなる。
近くに本陣があるので、情報はそこに行かないと入ってこない。が、それはあくまで本来ならの話だ。
「譲、敵の動きは解るか?」
「もうすぐ、こっちの部隊とぶつかる」
やはり、透視で様子を覗いていたらしい。
と、譲が入り口付近の椅子まで移動した。
「帰りに試したいことがあると言ったが、今でも構わないな?」
「は? まあ、暇だけど?」
克己はトラックに背中を預けて、譲のそばに立つと、譲が克己の肩に手を当てた。
「目を閉じてみろ」
「ああ」
言われて素直に克己が目を閉じる。当然なにも見えない。
それにかまわず、譲が言った。
「映像をそっちに流すぞ」
「へ?」
言われた瞬間、目の前に景色が広がった。
視界全部とはいかないが、見る分には問題ない広さだ。
その映像は、空から俯瞰で車の走る様子を捕らえている。
「これ、もしかしてお前の透視してる映像か?」
「ああ。接触テレパシーでお前の方へ流し込んでみた」
「すげー。メッチャ便利じゃねーか」
映像では、もうすぐ陸軍が仕掛けた地雷群に車がさしかかるところだ。
「これ、麻里奈も出来るのか?」
「透視+テレパシーが必要になるから、麻里奈とるいざの組み合わせなら、もしかしたら出来るかもしれないが、難しいだろうな」
「なるほど。お前が両方持っているから出来るだけってことか」
「ああ。それと、接触していないと出来ないから」
「から?」
「お前が余計な事を考えると、それまで見えてしまうな」
それは結構な問題なのではと思いつつ、克己は朝のハンバーガーの事を思い出してみる。と、譲に怒られた。
「腹が減ることを考えるな」
「怒るとこ、そこかよ」
映像では、先頭車両が地雷でタイヤがパンクし、立ち往生したところだ。
地雷と言っても、出力は抑えられており、人が死ぬような事にはならない。
「上手く足止め出来たようだな」
「ああ。この分だと、俺たちの出番は無いな」
「ひょっとして透視だけじゃなく、テレパシーも飛ばしてるのか?」
「ああ。今のところテレパシーを使っている気配も、それっぽい会話もない。こっちの無線の傍受の方が騒がしいくらいだ」
そう言って、譲は耳を指した。
どうやらピアスをスピーカーモードにして、無線の傍受もしていたらしい。
「まさか、真維はここでも使えるのか?」
「簡単な機能だけはな。お前のも無線の傍受くらいなら聞けるぞ」
「マジか。そういうことは早く言ってくれ」
克己は一旦目を開き、ウィンドウを起動すると日再の無線にチャンネルを合わせる。
目を開くと映像がダブってちょっとクラクラしたため、すぐに目を閉じる。
無線では、作戦が第二段階へ移行したことを告げている。
車から降りてくる敵に対し、防護盾を持った兵士が前を固め、鶴翼の陣形を取り敵を待つ構えだ。
「早く終わるかな?」
克己が早くも飽きて、譲に聞いた。
「時間の問題だろうな」
譲は克己から手を離すと、車から降り、本陣へ向かって歩いていく。
「シールドだけは張っておけ。俺は一応顔だけ出してくる」
さすがに本陣に顔も出さないで、車に乗っているだけと言うわけにはいかないらしい。
克己は少し考えたが、暇だったので譲について行くことにした。
結果的に、少々時間はかかったものの、敵のほぼ半数以上を捕虜として捕らえることができ、味方の損害も想定より少ないという、上々の結果になった。
相手は予想通り、中華統一軍で、能力持ちは居なかったようだ。
帰りの車に揺られながら、克己がうとうとしていると、譲から急にテレパシーが送られてきた。
『おかしいと思わないか?』
『へ? 何が?』
『偵察にしても、やり方が雑すぎるだろ』
『ああ。そうだな。これじゃ捨て駒扱いだもんな』
『何か引っかかるな』
譲はそう言うと、考え込んでしまう。
そこまで深く考えていなかった克己は、言われてみて、確かに違和感を感じたが、考えても解らないし、そもそも考えるのは自分の仕事でも無いので、早々に考えることを放棄した。
『お前なあ……』
譲からツッコまれるが、克己はしれっと答えた。
『考えるのは課長のお前に任せる』
『こういう時だけ持ち出しやがって』
実際、ESPセクションではほぼ上下関係は無い。譲が課長で所長という事も忘れられがちだ。なんなら、胃袋を握っているるいざの方が強いまである。
『それより、夕食に間に合うかな?』
『……間に合うだろ』
譲は諦めたように返事を返した。