29.任務依頼
憲人の知能テストの結果はかなり良かった。成長速度が早いので、知能面が心配だったがIQ113と、良いスコアを出している。
と言っても、ここに現在揃っている4人も、かなりIQは高めなので、そう特別な事ではないが。
「まあ、会話が成立しやすいのは楽で良いな」
『IQが10以上違うと会話が成立しにくくなるのよね』
譲の独り言に、ふわりと現れた真維が応える。
「そうだな。これならスキップできるレベルだから、教科を絞れば年齢との誤差は少なくて済みそうだ」
『英語をメインに、国語・算数が優先かしらね』
「社会は現代史から入った方が良いかもな」
『理科は丁寧にやらないと、麻里奈ちゃんについて行けなくなりそうね』
「そうだな。その方向で、時間割を組んでくれ」
『わかったわ』
真維は楽しそうに時間割を組んで、譲へ見せる。譲はそれをざっと見て、OKを出した。
「麻里奈と憲人に送っておいてくれ」
『りょうかーい』
手紙がふわりと浮かび、飛び去る。今日は妙にパフォーマンスが多い。
が、それについて譲が特に何か言うことはなく、そのまま克己のトレーニングに視線を戻した。
2日後、予定通り敵が進軍しているとのことで、正式な任務のメールが譲の元へ届いた。
メールには、明日の午前9時に陸軍と合流し、同行するよう書いてあった。
どうやら今回は、ESPセクションがメインで動くわけでは無いらしい。陸軍の補佐、兼敵に能力者が居た場合の対処が主な仕事だ。
となると、わざわざ全員で出る必要はない。
必要になるであろうスキルは、シールド、透視、テレパシー、加えて相手を捕らえる能力だ。
となると、譲と克己で事足りるだろう。
克己と麻里奈で出ても良いが、結局どの組み合わせでも、指令塔として譲は行かなくてはならないので、それなら譲で対応出来る部分は譲がやれば良いだけだ。かといって、1人というのも角が立つし、任務の失敗は避けたい。それに、今のうちから軍部と顔見知りになることも重要だろうと、譲は考えたのだ。
夜の10時を回っていたが、譲は克己に通信を繋いだ。すると、克己はすぐに出た。が、後ろが部屋ではない。
『おつー。なんか用か?』
「お前は今どこにいるんだ?」
思わず聞いた譲に、克己は気を悪くするでもなく答えた。
『農場。流星群が見られるって親父さんが教えてくれてさ』
「ほう」
『さっきまで、麻里奈と憲人も居たんだけど、さすがに寝るって帰ったとこ』
「もう夜遅いしな」
『そうそう。んで、なんか用か?』
「ああ、明日の任務だが、俺とお前の2人で行くことにした。9時に陸軍と待ち合わせだから、8時には出たい」
『OK。陸軍がメインってことだな』
「そうだ」
『相手は解ったのか?』
「まだだ。そのあたりを探るために、念のため俺らが招集されたんだろう」
『あー、なるほどね』
「用はそれだけだ。お前も程々にしろよ」
『わかってるって。んじゃ、おやすみ』
「おやすみ」
通信を切って、譲はベッドに転がると、ウィンドウを立ち上げた。
「真維、本部のデータに明日の任務の詳細はあるか?」
『あるわよ。こっちに流れてない情報がいくつか』
「出してくれ」
『はーい』
複数のウィンドウが一気に開く。それをざっと見て、譲は少し考えた。
「中華統一軍の可能性が高そうだな」
『そうね。その可能性が86%と一番高いわ』
「中国語は久々だな。ざっと聞き返しておくか」
『北京語で良い? 広東語も?』
「念のため、両方頼む」
『わかったわ』
そう言うと、譲は能力のトレーニングをしながら、聞き流し学習を始めた。
翌朝、るいざが朝食の準備をしようとテラスに行くと、そこにはすでに譲が居た。
「おはよう、早いわね」
「おはよう。任務の出発が8時になったからな」
「早いわね。朝ご飯は食べていくの?」
「ああ」
譲はテラスに座って、ぼーっと何かを聞いているようだ。
「そういえば、今回も全員で行くの?」
「いや、俺と克己だけだ。るいざは憲人の勉強を見てやってくれ。教える方は真維がするから、特にする事は無いが」
「解ったわ。じゃあ、急いで食事を作るわね」
「いつも通りで良いぞ」
答える譲はどこか上の空だ。多分何かを聞きながらだからなのだろう。
それを特別気にすること無く、るいざは朝食の準備を始めた。8時に出発するなら、少しでも早い方が良いだろうと思い、朝食はハンバーガーにすることにした。これなら、間に合わなければ持っていけるし、パティは冷凍の物がある。後はパンを温めるくらいで、手間はかからない。
「ポテトくらいはあった方がいいかしら?」
つぶやくと、るいざは冷凍のポテトを熱した油へ勢いよく投入した。