28.憲人の勉強
武器の使い方講座は、結局、数日続いた。というのも、日本は元々平和な国であったため、るいざと麻里奈は武器の種類から覚えなければいけなかったからだ。
「とりあえず、銃が撃てれば何もかなるかとおもったんだけど、さすがにそう言う問題じゃないのね」
「最悪それだけでも何とかなるが、知識はあるに越したことはないからな」
るいざの言葉に譲が返すと、克己が言う。
「相手の出方もある程度解るし、覚えておいた方が楽だぜ」
すると、麻里奈が神妙に頷いた。
「そうね。前回はそれで誘爆しちゃったものね」
相手を気絶させる程度の火力でも、当たり所が悪ければ、爆発することもあるのは、経験済みだ。
「それで武器の講座なのか?」
「それもあるけど、一番はやっぱり、能力妨害装置があったときのためね」
るいざが答えた。
「そうだな。選択肢は多い方が有利だしな」
「使えるカードは多い方が良いって?」
克己が楽しそうに銃を構えて言う。
が、譲は表情を崩さず警告した。
「ただし、諸刃の剣だってことを忘れるなよ。当たり所が悪ければ、こっちが誘爆する事もある」
るいざと麻里奈は、こくりと頷いた。
「持っても危険だし、持たなくても危険ってことね」
「まあ、武器なんてどれもそんなものよね」
あっさりと割り切って麻里奈が言った。
そんな麻里奈に、克己がツッコむ。
「コケやすいお前は、手榴弾系のは持たない方が安全だと思うぞ」
「失礼ね! 誰かさんと違って脳みそが詰まってる分頭が重いのよ!」
「麻里奈、それ、否定してない……」
思わず言ったるいざに、克己が吹き出す。
それに麻里奈が怒って、克己に言い返している『いつもの図』が出来たところで、憲人がおずおずと譲に聞いた。
「それで、僕まで覚える必要があったの?」
憲人の疑問はもっともだ。憲人は非戦闘員で、ただの子どもだ。けれど、ここに居る限りは、戦闘と100%無関係でいられるかと言うと、難しいだろう。
「ここが戦場になる可能性もあるし、今後のためにも、覚えておいて損は無いはずだ」
なにせここは日本再興機関の第七シェルターだ。一般のシェルターとはワケが違う。
「それから、銃でも何でもそうだが、使いこなすにはある程度、練習が必要だ。各自、得意な武器でかまわないから、ある程度の命中率が確保できるようには、練習しておいてくれ」
「はーい」
異口同音で、返事が返った。
とはいえ、結局は銃が無難と言うことになって、全員銃を選択したのだが。
今の所、命中率は、譲がほぼ100%、克己は90%、るいざと麻里奈は的に当たらない状態だ。憲人は身体にかかる衝撃を考慮して、使い方を覚える程度に留めた。
「譲の命中率、すごいわね」
麻里奈が大きな目を丸くしながら感心して言う。
「今はフリーの状態だからな。実践だと、走りながらや、障害物を避けながらになるから、当然その分命中率は下がる」
「そっか。敵も黙って撃たせてはくれないわよね」
そう考えると先の長さに、麻里奈とるいざは気が遠くなるのだった。
「まあ、練習してればそのうち出来るようになるって。ESPと一緒」
克己が笑って、2人を励ました。
「時間を見つけて、反復練習だな」
譲も、特に今すぐ完璧を求めてはいない。
そもそも、メインはESPなのだ。武器はあくまでサブに過ぎない。
「武器は、使うのは自由だが、使用履歴と使用した球数の入力、それと返却は忘れないように」
譲が、珍しく管理者らしい事を言って、トレーニングは終わった。
そこから数日は、銃の練習とともに筋肉痛と格闘するるいざと麻里奈だった。
「そーいや、そろそろ、憲人に勉強を教えた方が良くないか?」
朝食の最中、克己がふと言い出した。
ちなみに今日の朝食は和食。塩鮭の焼いたものに、キュウリとワカメの酢の物、出汁巻き玉子、納豆、海苔、ご飯にあさりの味噌汁。加えて昨晩の残りの根菜類の煮物と、デザートにリンゴと梨がある。
「そうなのよね。でも、何をどう教えたらいいのか悩んじゃって」
麻里奈が出汁巻き玉子を食べながら言う。
「一気に教えるわけにもいかないものね」
るいざが、鮭をほぐしながら言うと、麻里奈も頷いた。
「そうなのよ。成長が早いから、ある程度絞って教えないといけないかなって」
ちらりと麻里奈に視線を向けられて、譲は言った。
「とりあえずは、小学校の国語、算数、理科、社会、英語あたりで良いんじゃないか?」
「体育は?」
「農作業で十分」
「ああ」
譲の回答に、克己が納得する。
「教える方は真維に任せれば良い。トレーニングの時間にあわせて午前と午後で、コンソールルームでやれば、俺も見ていられるし」
その言葉に麻里奈が驚いた。
「譲が見ていてくれるの?」
「他に居れば任せるが?」
「ううん、お願いしたいわ。ありがとう」
「どうせトレーニング中は俺もやることはないからな」
リンゴを食べて、譲が憲人を見た。
「憲人、今日からお前も予定が入るから」
「うん、わかった!」
とりあえず今日は、知能テストをやる予定を入れ、最初の一週間は半日にしておく。
午後に麻里奈の身体を空けたいので、午前に集中させて……と、タスクを整理していた譲のところに、メールが届いた。
緊急メールだ。
そのまま緑茶を片手にメールを開くと、出動要請のメールだった。だが、すぐではない。
「3日後に、出動要請が来た」
「3日後? また実験か何か?」
るいざが聞くと、譲はウィンドウを閉じてリンゴを食べた。
「いや、敵が来るらしい」
「なんで3日後なんだ?」
克己がもっともな事を聞く。
「所属不明の部隊が、日本海側から上陸したらしい。現在の進軍速度から予測して、3日後くらいに都内近辺に来ると思われる」
「また、大雑把ね」
麻里奈もリンゴを食べながら言う。
「距離があるから予想が難しいんだろ。相手は車らしいし、そんなに人数も居ないとのことだ」
「日本のレジスタンスの可能性は?」
克己の問いに、譲が答える。
「ゼロじゃない。まあ、当日になれば嫌でも解るだろ」
「そりゃそうだ」
遭遇しても解らなかったら、それはそれで凄い。
「ま、今日は通常通り、午前は麻里奈、午後克己のトレーニング、憲人は午前はコンソールルームで俺と勉強だ」
「OK」
「りょーかい」
「わかったわ」
「はーい」
いつもの返事に、憲人が加わった。