27.トレーニング
「今日のトレーニングは、午前が麻里奈、午後はるいざだ」
「りょーかい!」
「わかったわ」
「んじゃ、俺は自主トレでもするかな」
朝食の席での本日の予定発表に、ワッフルを食べながら克己が言った。
そんな克己を見て、るいざはふと思いだした。
「そう言えば、譲にお願いがあるんだったわ」
「なんだ?」
「この間の任務で、克己に銃を持たせてたじゃない? あれで、私たちも使えた方が良いんじゃないかと思ったの。だから、普通の武器の使い方も教えて欲しいんだけど」
「ああ。それもそうだな」
先日は突然だったから、使えそうな克己に銃を渡したが、全員使えるに越したことはない。いつ、能力妨害装置とぶち当たるか解らないし、それ以外にも必要とする場面が出てくるかもしれない。
「なら、今日は午前は麻里奈のトレーニングで、午後は全員で武器の使い方をやろう。場所は娯楽ブロックの射撃場だ」
「わかったわ」
「りょーかい」
「OK」
「……僕も?」
全員と言われ、憲人が困惑しながら聞くと、譲は頷いた。
「お前もだ」
「了解!」
憲人まで予定を決められるのはとても珍しいので、憲人は張り切って返事をした。
克己はそれを横目に、次のワッフルにレタスとチーズ、生ハムを重ねながら、譲に聞いた。
「なんか準備することあったらしておこうか? どうせ午前は暇だし」
「そうだな。なら、備品の準備を頼めるか?」
「OK。リストは?」
「今、回す」
譲がウィンドウを開いて、いくつか確認し、操作したあと、そのウィンドウを克己の方へ動かした。
「せっかくだから、一通りやろうと思う。衝撃を与えないよう気を付けて運搬してくれ」
「一応シールドも張って運ぶことにする。暴発したら怖い物もあるからな」
リストを眺めて克己は言った。
アメリカ育ちに加えて、警備員をしていた事もあり、克己は普通の武器の扱いに詳しい。
今回も、特に克己は学べることは無いだろうが、譲1人で3人に教えるのは効率が悪いため、手伝い要員として克己の参加を強制にしたのだ。
まあ、克己は克己で、一年半くらい現役から離れていた事もあり、新しい武器や道具があれば学びたいし、鈍っている勘を取り戻すためにも、今回のるいざの提案はありがたかった。
「つーか、射撃場って、普通に実弾で使って良いのか?」
娯楽ブロックにあったため、てっきりお祭りの射的のようなものかと思っていた克己が聞くと、譲はコーヒーに生クリームを入れながら答えた。
「あそこは普通の射撃場だから、実弾は勿論OK。好きに使って良いぞ。ただ、遠距離ライフルみたいな火力の強い物を使うときは設定を変えるのを忘れないようにしてくれ。壁に穴が空く」
「設定を変えれば空かないのか?」
「ああ。なんなら手榴弾の試しうちもできるぞ」
「そりゃすげえ」
相変わらず、この施設は規格外だ。
「武器も一通り揃っているのね」
克己のウィンドウを覗いたるいざが言った。
「俺が普段の戦闘で使うからな」
「最近はそうでもないような……」
譲の能力は主にPKで、確かに便利だが殺傷能力となると微妙である。過去の戦闘でも手榴弾を使っていた事もあった。
「能力だけでも、武器だけでも偏るからな」
そう言うと、譲はウィンナーコーヒーを飲んだ。
るいざが武器庫に行きたいと言うので、克己は朝食の片付けを手伝うと、2人で武器庫へ向かった。
武器庫は駐車場に隣接されているのだが、不正に利用されないよう、ドアのセキュリティーはかなり高い。まあ、克己とるいざのパスなら問題無く通過出来るのだが、今回はその後内部を運ぶこともあるため、違うルートで行くことにした。
「処理棟って、初めて来たわ」
「そうなのか?」
るいざの言葉に、克己が驚いた。
「だって、来る用事が無いじゃない?」
「それもそーか。俺もジョギングでたまに来るくらいなもんだしな」
後は宝探しなどのトレーニングで、チェックポイントになっている時くらいなものだ。
処理棟の4階にある、壁の一部がドアになっていて、そこを開くと広めの通路が現れる。そこを通っていくと、武器庫へ到着する。
「広っ!」
2人は初めて武器庫に入ったが、小さい倉庫を想像していたら、全然違い、かなり広く、しかも二階建てで一部は大型の物も収納出来るよう、吹き抜けである。
「すごーい……」
「この中から探すのか……」
克己がずらりと並ぶ装備を眺めた。
が、るいざはそこに貼られたプレートを見つける。
「あ、ちゃんとブロック分けされてて、ナンバーも付いてるみたい。これならすぐに探せるわ」
「本当だ。こういうところはしっかりしてるんだな」
「多分、備品だからじゃない?」
「ああ、なるほと」
譲は、自身の事に対しては非常に大雑把だ。だが、備品のことになると、キッチリしている。おそらく日再に届け出たり請求したりするときに、手間がかかることを嫌うからだろう。ただでさえ風当たりが厳しいESPセクションだ。どうでも良いところで重箱の隅をつつかれるのはごめんなのだろう。
「じゃあ、俺がケースを持つから、リストは任せた」
「はーい。不用意に触って爆発したりしない?」
「しそうなものは先に言うよ」
「ありがとう。それじゃ、銃からね」
こうして、2人は武器を探し始めた。