第298話 恋する聖剣様
-クリス視点-
「それで?あたしたちに相談ってなによ?」
「えっと、、」
僕はもじもじしながら、みんなの方を見る
リビングのテーブルにみんな集まってくれて、僕の言葉に真剣に向き合ってくれていた
だから、そんな優しい彼女たちを裏切ることになってしまう相談を僕はなかなか口に出せずにいた
「なにか、話しずらいことなのでしょうか?」
「うふふ♪なんでも話してくれて、いいんですよ?」
チラリとステラさんのことを見る
両頬に手を当てて、肘をつきながらニヤニヤしていた
僕がこれから言うことを察しているかのように
「その、、」
「クリスにしてはなんだかハッキリしないね?聖剣様のときはカッコいいのにー」
「ピー」
「コハルちゃん、、めっ、、そんなこと、言っちゃだめ、、だよ?」
「あ、ごめんね!悪気はなかったんだ!」
「ううん、ハッキリしないのはホントだし、、
すぅ、、」
僕は息を吸い込む
せっかく集まってもらったんだ
話さないわけにはいかない
それに、こんな気持ちで彼女たちに、
ライのやつに、顔を合わせ続けるのは無理だ
そう思って口を開いた
「あのね、、
僕、ホントは女だったんだ、、
びっくりしたよね?」
「そうじゃのう
しかし、それももう慣れてきたことじゃぞ?」
「そうですよ〜♪
クリスさんはもともと可愛らしいところがありましたし♪
私はもしかしたらって思ってましたよ♪」
「ほ、ほんとに?」
「ええ♪」
「え、えっと、、
それで、、僕は長い間、男の姿だったし
その、諦めたことがあったんだ、、
みんなには、そのことで相談があって、、」
「それはなんでしょうか?」
「、、れ、、」
「れ?」
「れん、あい、、とか、、」
「、、恋バナ!恋バナよこれ!!」
ソフィアさんが目を輝かせてテーブルに乗り出してきた
「ソフィアちゃんも、、めっ、、クリスちゃんのはなし、、ちゃんと、、きこ?」
「そうね!うんうん!ちゃんと聞くわよ!」
「えっとね、、
それで、数年ぶりに女の身体に戻って、、
最近、すごくドキドキすることがあるんだ、、」
「そうですか♪それは素敵ですね♪うふふふ♪」
「そうなのかな?
僕にはもう、、よく、、わかんなくて、、」
ポロッ
「あれ?」
左目から涙が溢れる
「え?なんで?」
ポロポロ
「ご!ごめんね!泣くつもりなんてなくって!」
「ゆっくりでよいぞ?」
隣のティナさんが背中をさすってくれる
優しい手だ
でも、その優しさに、余計に申し訳ないという気持ちが強くなっていく
「あ、ありがと、、
でも、僕に、、僕なんかがキミたちに優しくしてもらう資格なんて、、ないんだ、、」
「なんでだよ!ボクたちは仲間だろ!優しくするのに資格なんて必要ない!」
「ピー!ピー!」
「で、でも、、
、、最近、胸がドキドキする相手が、、」
「ん?もしかして、このパターンって?」
「うふふ♪」
「そうことじゃろうと思った、、」
「やっぱり、、クリスちゃん、、」
「ん?なになに?」
みんながジッと僕のことを見る
これは裏切りだ
みんなの大切な人のことを好きになってしまうなんて、、
「クリスさん、それは、、」
「うん、、
僕は、、たぶん、、好きなんだ、、
ライのことが、、」
シーン
その場が静かになる
そうだよね、、
だって、みんなの旦那さんのことを好きになるなんて、許されないことだ
ごめんなさい
引っ叩いてくれていい
だけど、出来ることなら、みんなと、もっと冒険がしたい
楽しく笑いあっていたい
そう思いながら懺悔を繰り返し、
黙って処罰のときを待つ
「はぁ、、また嫁が増えるわね、、」
「うふふ♪そうですね♪私は歓迎しますよ♪」
「え?」
顔を上げると、呆れ顔の子や笑っている子、表情は違うが、怒ってる子は1人もいなかった
「な、なんで?
僕はみんなの旦那さんを好きになって、、」
「私はこうなるかもって思ってましたし♪
だって、クリスさんと話してるライさんったら、私たちの誰と話すときよりも無邪気で、遠慮がないんですもん♪
それって、クリスさんのことをすごく信頼してるってことですよね♪」
「たしかに、いいコンビじゃと、わしも思うぞ」
「ミィは、、クリスちゃん、、カッコいいし、可愛いと思う、、
たぶん、おにいちゃんも、そう思ってる、、よ?」
「、、ええ!?
クリスってライのこと好きなの!?
うーん、、ライって、めちゃくちゃえっちなやつだけど大丈夫?」
「ええ?大丈夫、、だと思う、、」
「あんたが想像してるより、100倍すけべなやつよ」
「えっと、、」
なぜかみんなが僕を受け入れてくれる
「なんで?」
「クリスさん」
「はい、、」
リリィさんが僕のことを真剣な顔で見る
今度、ライと結婚式を挙げる人で
ライが命懸けで助けに来た人だ
彼女とはパーティを組んでないから、彼女のことはよく知らない
だけど、きっと怒られるんだろう、、
でも、真摯にその言葉を聞かないといけない
「クリスさんは、ライ様のこと、心から愛していますか?」
「う、うん、まだ気持ちの整理はついてないけど、、
男だったときから、ライと話してるとめちゃくちゃ楽しくって
戦ってるあいつはカッコいいじゃんって思って、、
女に戻ったら、目も見れないほど、、
恋してた、、
うん、ライのこと、心から愛してる」
「、、そうですか、でしたらわたしたちからは何も言うことはありません」
「え?」
「クリスさんはわたしたちに咎められる覚悟をしていたようですが、
そんなことはしない、ということです」
「でも、なんで?」
「ライ様はとても魅力的な方です
これからもたくさんの女性と関係を持つことを覚悟しています
でも、誰でも良い、というわけではありません
わたしは、クリスさんとは短い付き合いですが、みんなから話は聞いていますし
なにより、
わたしとライ様を命懸けで助けようとしてくれました
手脚を斬られても立ち向かってくれました
わたしは、そのときの勇姿をしっかりと覚えています」
「、、いい、の?
ライのこと、、好きになっても?」
ポロ
ポロポロ
「ええ、もちろんです
好きになる気持ちを止めることは誰にもできません」
「うう、、」
ポロポロ
僕は下を向いて泣いてしまう
怒られると思っていた
拒絶されて、嫌われて、もう来るなって言われると思ってた
久しぶりにできた友達みんなに嫌われるかもって
でも、みんなは受け入れてくれた
こんな、後から出てきて、男のふりして近づいた僕なんかのことを
「ご、、ごめんね、、みんな、、」
「あんた、いつもは飄々としてるくせに可愛いところもあるじゃない!」
「ソフィアは本当に意地が悪いのう」
「クリスちゃん、、こういうときは、、ごめんね、、じゃない、、よ?」
ミリアさんに言われて、もう一度顔をあげる
みんな微笑みかけてくれていた
「、、みんな、、ありがとう、、」
こうして、僕はライの家族に受け入れられた
「、、、」
しんみりと心地の良い沈黙を味わっていると
「じゃあじゃあ!
次はどうやってあいつを落とすか!作戦会議しましょう!!」
なんてことをソフィアさんが言い出してしまう
「ええ、、
僕は、みんなに許してもらえただけで、嬉しくって、、」
「嘘おっしゃい!
恋してるんだから、ライとイチャイチャしたりしたいんでしょ!」
「い、イチャイチャ、、」
最近考えないようにしてきた、あいつとの触れ合い
だめだだめだと抑圧してきたそのイメージが、彼女たちに許されたことで膨らんでいってしまう
「クリスちゃん、、真っ赤、、」
「これは楽しくなりそうですね♪」
そして、ライのお嫁さんたちによる
ライを誘惑して落としちゃえ作戦
の会議の幕が切っておろされた
僕はずっと赤くなってた思う
恋愛を諦めてた僕にとっては、デートの仕方や男がドキドキする仕草の話なんてすごく新鮮で、聞いているだけでドキドキしてきた
でも、こんなこと、ホントに僕がやるの?
でもでも、ライのやつ、僕にドキドキしてくれるのかな?
みんなが
「絶対ドキドキするわよ!」
なんて言うから、
僕はどんどんと乗せられていってしまった
みんなの話を夢中で聞いて、これからのことに想像を膨らませる僕には、
「また発情したメスが増えたのだ
人間は交尾ばっかしててばっちいのだ」
と言いながらドーナツにかぶりついている雷龍様の呟きなんて気づくことができなかった




