第276話 死闘
中央教会の前の大通りに到着する
しかしそこは、先ほどまでの激しい戦闘音が全く無くなっていて、
静寂に包まれていた
教会の前には巨大な影
オレは、そいつの姿しか確認できないことに不安を覚え、仲間の名前を大声で叫んだ
「クリス!クリスどこだ!?助けに来てやったぞ!」
さっきまで戦っていたはずだ、どこにいるんだ、あのバカは
焦るオレの声を遮るように
「あ〝〜、やっとぐたばったが〜」
あぐらをかいて座っていた巨大な影から醜い声が聞こえてくる
人間のような言葉を化け物が発していた
こちらからは背中しか見えない
黒い鎧に上半身を包み
巨大な、禍々しい気配を纏った剣を地面に置いている
オレは、キルクを構えたまま、ゆっくりと回り込んでいく
教会の入口が見える位置まで
すると、
教会の扉のそばに
見知った金髪のイケメンが座り込んでいるのを見つけてしまった
血まみれだ
それに、足が、、腕も、、
ぐったりと壁にもたれかかっているクリスは
右腕と左脚を失って
頭から血を流していた
「く、クリス?」
し、死んで、、
「あ〝〜戦いのあどはやっばごれだ〜
メスを壊すにかぎるぅ〜」
なんだ?
巨大なしゃべるオークが身体を震わせていた
キルクを構えて、警戒しながら、さらに回り込んで行く
そこには
オークの左腕に掴まれた
女性が
オークに陵辱されていた
その子は
金髪で
シスター服を着ていて
え?リ、、
声が出なかった
頭が働かなくなって倒れそうになる
「あ〝あ〝〜
うう〝!よ〝っと!」
オークが震えたあと、体液を吐き出して
満足したように女性を放り投げた
「り、、リリィ!?」
すぐに駆け寄る
抱きしめる
「リリィ!?」
虚な目をして焦点が定まっていないその子は、
リリィではなかった
「ち、ちがう、、
あっ!?」
安心しかけて、それはダメだと気づく
その子に、すぐにポーションを飲ませて、布を被せ、建物の影に座らせてあげた
彼女からはなんの反応もない
目は開いているが焦点が合っていなかった
「あ〝〜もっとやりでぇな〝〜
この中のメスを何匹か~
お〝れも犯してやるかぁ〜」
「おい!このクソヤロー!!」
キルクを構え直し、豚に向かって声をかける
「あ〝〜?」
巨大な鎧を着たオークが黒い剣を持って立ち上がった
身長はオレの倍、いや、もっとありそうだ
横にも太いのでかなり巨大に見える
あきらかに他のオークとは質が違うそいつと対峙し、恐怖を感じた
「その教会には手を出させない!どけ!!」
虚勢を張るために声を上げる
恐怖を感じていようが、立ち向かわなければいけない相手だ
「あ〝〜?教会〜?
あ〝〜?こごか〜?
いまは部下た〝ちのお楽しみ中だ〜」
「は?」
教会の方を見ると
扉が、、
扉が半分、存在しなかった
それに、なんで今まで気づかなかったのか
教会の中から、子どもや女性の悲鳴が聞こえてくる
「瞬光!!」
オレは迷わず駆け出した
すぐに行くから!!すぐに助けるから!!
「なんだぁ〜?」
ズバッ
肩口から腰にかけて、斜めに切られた
「グボッ!?」
見たこともない量、吐血する
「ぐっ!?」
ステップを踏んで後退し、エリクサーを半分、傷口にぶっかけた
傷口が消え血が体に戻っていく
残りの半分は飲み込んだ、体力が戻ってくる
「はぁはぁ、、くっ、、」
致命傷だった
エリクサーがなければ死んでいた
「あ〝〜?死んでない〝〜?」
怠惰なしゃべり方とは裏腹に、そいつの剣はとても鋭かった
教会の中に入ることを優先したとは言え、警戒していたはずだ
なのに、やつの剣を受けることすら出来なかった
集中、集中しろ、、
まずはあいつを殺す
それからリリィを助ける
そうしないと全員死ぬ
そう言い聞かせ、不安な気持ちを押し殺し、目の前の化け物に集中した
「キルク、力を貸してくれ、、」
オレの呼びかけに答えるように、空が暗くなっていく
「いくぞ!!」
バーン!!
落雷だ、魔力を吸収する
「ライトニング!!」
キルクを構えたままライトニングを繰り出し、オークめがけて放った
やつはそれを剣で受ける
ガン!!
ライトニングを受けている隙を狙って、そのまま剣を叩き込んだ
しかし、当たり前のように受け止められる
「くそっ!!」
「あ〝〜また〝めんどうなやつ〝がき〝たなぁ〜」
言いながら弾き返された
「クソ!まだまだ!!」
実力差は感じた、かなりの
だからなんだ、立ち向かわないなんて選択肢はない
なんども、なんども落雷を受け、魔力と身体能力を強化して斬り込んだ
しかし相手にはダメージすら与えられない
こっちもなんとか避けれてはいるが、落雷が終わったら避けれなくなる
焦りがつのり、体力が削られていくのを感じた
教会からは、もう、悲鳴が聞こえない
もう、、
いや!まだ大丈夫だ!きっと誰かが!
ユーシェスタさんが守ってくれてるはず!
そう信じて、斬り込み続けた
「あ〝〜、もうい〝いか〜?」
ズバッ
2度目の致命傷
突然早くなった剣筋に対応できず、2本目のエリクサーを使ってしまった
あと2本
やばい、このままだと、、
「なんで死なない〜?あ〝〜めんどうだ〜
メスを犯したい
あの、金髪の、いい匂いがするメスがいいなぁ」
「クソ豚ヤローが、、」
リリィのことを言われているような気がした
怒りが頭を支配していく
「キルク!!
対価はなんでもくれてやる!!
ありったけ力を貸せ!!」
バチバチバチ
オレの叫びにキルクが答えるように放電を始めた
そして
バーン!バーン!
続けざまに何度も雷が落ちてくる
頭が熱い、そしてなんだか頭の上がバチバチ放電してるような感覚があった
「あ〝〜?なんだぁ?その角はぁ〜?」
今の雷撃で十分な魔力が貯まったのか
雷龍キルクギオスの擬似的な角がオレの頭に顕現したようだ
「おまえを殺す、ブタヤロー」
「やって〝みろ〜」
「瞬光!!」
再度斬り込む
先ほどよりも早い速度で
「おお〝!?」
バン!
やつの剣を握る腕をはじめて弾くことができた
そのまま胴体を斬りつける
「こ〝の〝!!」
鎧に阻まれはしたが、たしかに肉を切った
血が飛び散って、そのまま上段に向かってやつの腕を斬る
「こ〝いつ〝!!」
焦った声を出すオークに弾き飛ばされるが、また接敵し、斬り刻み続けた
致命傷のようには見えない
浅い
すんでのところで身体をひねられる
しかし、いつかは殺せるはずだ
そう考え、斬り続けた
斬り続けていたら、魔力が抜けていくのが、
身体が重くなっていくのが、わかった
ズバッ
わかったときには3度目の致命傷をもらっていた
「はぁはぁ!ぐっ!」
3本目のエリクサーを使う
無理だ、1人じゃ勝てない
クリス、クリスに加勢してもらえば、、
クリスの方を見る
動かない
死んでないことを祈るが、どうやってクリスにエリクサーを
ふと、路地裏に目をやった
先ほど、陵辱されていたシスター服の女性が強い目でオレを見つめていた
彼女なら、、
そっと建物隅に近づき、エリクサーを転がす
「クリスに、聖剣様に、」
と小声で伝えた
シスターは、コクリと頷き、建物を回り込むように駆けていく
「おまえらの目的はなんだ?」
時間を稼ぐために豚に話しかけた
「あ〝〜?」
「なんで町を襲うんだ?食糧か?
食糧なら用意してやる、帰ってくれないか?」
「帰るだ〜?なんでだぁ〜?」
「だから、食糧を」
「こ〝んなに楽しいこと〝、やめられるかぁ〜」
そいつは言い終わると、ニヤつきながら斬りかかってきた
「くっ!?」
はじめて向こうから近づかれたことに驚き、対応が遅れる
なんとか受けるが
「ガッ!?」
そのまま剣を振り抜かれて建物の壁に叩きつけられてしまう
「ぜぇぜぇ、、」
「ニンゲンをいたぶるのは楽しいなぁ」
そいつはまだ笑っていた
「この、、クソが、、キルク!!」
バーン!!
落雷を浴びて走り出す
一本じゃ、、いや、まだやれる!
頭の上には、もう角の熱さは感じない
魔力不足で雷龍様の角が消えてしまったのがわかる
だから、だからなんだというんだ
ガンガンと剣戟を続け、
しかしまた同じように壁に叩きつけられた
前面に倒れ、地面に沈む
「ぐっ、グボッ!?」
立ち上がろうと手をつくと、大量の血を吐いた
右手で握っていたキルクがオレの血で染まる
あわてて身体を触った
切られてはいない
ならなんで?
限界だ
すっと、理解できた
理解した途端、身体が動かなくなった
目が、霞んでいく
立ち上がれない
地面は冷たいはずなのに、すごく熱く感じた
「リリィ、、」
リリィの、最愛の妻の名前を呼ぶ
彼女が、彼女さえ無事なら、それでいい
教会の方を見る
血まみれのクリス、壊れた扉
悲鳴は、、とうに聞こえない、、
、、リリィはもう、、
「リリィ、、」
意識共有で話しかける
声は聞こえない
「リリィ、、」
意識が飛びそうだ、、このまま眠れば楽になれる、、
もしあいつを倒しても、教会の中に入ったら
リリィが、、
リリィの悲惨な姿を見ることになるかもしれない
それが、それがなにより怖かった
だから、、もう、、
怖い思いをするくらいなら、もう楽になってもいいかもしれない、、
そう思い、
でも、諦めきれなくて、
霞む目を必死に開けて、
地面に這いつくばって教会の方を見続けた
ガラン
教会のもう片方の扉が壁から外れ、地面に転がった
その奥、教会の中に
いたんだ
ずっと探していた
ずっとずっと会いたかった、あの子が
金髪のシスター服をきたオレの妻が
そこにいた




