第274話 リリィを助けに
「ライさん!これを!」
「ありがとう!」
全員から全てのエリクサーを受け取り、ありったけのポーションをアイテムボックスに詰め込んで出発の準備を整えた
エリクサーは4本
心許ないが足りることを願う
「ミリア!ぽかへい!頼む!」
「うゆ!」
「思いっきりやるからのう!
数日は動けなくなること覚悟せい!」
「上等だ!全力でやってくれ!」
ティナが中級精霊たちを呼び出し、ぽかへいの周りを旋回させる
そして、
「うー!!」
っと、小さな杖を持ったミリアが両手を前に出して、集中を始めた
ぽかへいも同じポーズをして、2人に光が集まって行く
いつもはぽかへいだけに集まる光が、ミリア自身にも集まってきていた
「がんばれ、がんばれ、がんばれ、、
おにいちゃん!!
リリィちゃんを助けてー!!」
ミリアの叫びと共に、ぽかへいとミリアの光が全てオレに注ぎ込まれてくる
「ぐっ!?」
とてつもない力の本流に身体がふらつく
しかし、グッと歯を食いしばって耐えきった
「はぁ、はぁ、、」
ミリアがクタッと座り込む
「ありがとう、ミリア、絶対リリィを助ける」
「うゆ、、がんばって、、」
「ソフィア!いけるか!」
「準備万端よ!何本いくの!」
「10本だ!!」
「死んだら殺すからね!」
「ああ!!」
「紫電!!招雷!!」
詠唱を終えていたソフィアの神級魔法が炸裂する
オレの頭上
キルクを構えた剣先に紫色の雷が直撃した
バーン!!
轟音が鳴り響く
「ぐっ!まだまだ!」
2本、3本、、5本
何本もの雷を吸収していく、今までにない数だ
7本目くらいから、キャパオーバーを感じはじめる
「はぁ、はぁ、、ぐっ!」
「あんた!大丈夫なの!?」
「いける!オレを信じろ!!」
こんなのリリィの恐怖に比べたら序の口だ
オレがリリィを助けるんだ
そう思いながら、爆発しそうな魔力を身体に抑え込み、
10本の紫電を吸収した
身体が爆発しそうだ
「すぐに出る!あとは任せた!」
「待て!この子を連れて行くのじゃ!」
ティナが緑色の中級精霊をオレの前に差し出してくれる
「走っているときの風よけじゃ!」
「ありがとう!」
「じゃあ!行ってくる!瞬光!!」
バツン!!
オレは両足の裏に溜めたライトニングを一気に放出した
身体が砲弾のように前に進む
目が霞む、息が、、できない、、
ミリアの強化魔法とソフィアの神級魔法のおかげでいつも以上の速度が出ていた
だから、あまりのスピードに息ができない
ファ
「ぷはっ!?息が、、できる?」
前を見ると、緑の中級精霊が顔の周りに風の膜を作ってくれていた
「ありがとう!」
そう声をかけてから、瞬光を使い続けた
ここまで3日の馬車の道のり、ほぼ一本道だ
迷うことはないはず
そう考えていると、目の前に木が、ぶつかりそうになる
「うわっ!?」
身体を捻って避ける、そのままゴロゴロと転がってしまった
「くそっ!!もう一回!瞬光!!」
足に力を入れて走り出す
こんなことしてる場合じゃない
すぐにコツを掴め!
オレは何度も転びながら、それでも何時間も走り続けた
体力と魔力を少しでも節約するために、走りながらポーションを飲み続ける
何本飲んだかわからない
そして、半日ほど走っただろうか
レウキクロスのすぐそばまで辿り着いた
前方にはレウキクロスの美しい白い城壁
その城壁の向こうからは何本もの煙が上がっていた
燃えている、レウキクロスが
「ぜぇ!ぜぇ!、、んぐ、、うっ!?」
レウキクロスの現状を見た狼狽と今まで走ってきた体力の衰えのせいで、嘔吐してしまう
「ぐっ!よし!スッキリした!
今行くからな!リリィ!」
オレは袖口で口を拭いて、冷や汗を無視し、正門に向けて走り出した
「瞬光!」
正門前に着く
そこはもう、ひどい有様だった
鉄製の門は粉々に破壊され、周囲の城壁にまでヒビが入り、
そして、その周りには鮮血
なにかに吹き飛ばされて、壁にぶつかり、潰れ、城壁にへばりついた聖騎士たちが何人も見てとれた
悲惨だった
町の中を見る
正門を入ったところにやつらがいて、ボロボロの聖騎士数人と戦っているのが見えた
オークだ
赤黒い体表に、下半身に布だけを巻いた二足歩行の豚が、
斧を振り回して聖騎士たちを袋叩きにしようと取り囲む
「瞬光!!」
オレはすぐにそいつらに突進し、
2体を同時に、そしてそのままの速度でさらに3体、
ステップを踏んで残りの5体を切り刻んだ
「クリスはなにやってんだ!!」
聖騎士たちを怒鳴りつける
動けていたのは3人
近くに2人が倒れ、1人はまっぷたつだった
「ポーションはあるか!?」
「え、、いや、、」
「とりあえず人数分!これ以上は渡せない!」
上級ポーションを5本渡す
聖騎士の1人が戸惑いながら受け取り、仲間に渡して倒れている2人に飲ませに行った
「クリスは!?避難民はどこだ!?」
「クリス?聖剣様なら、神殿を守っておられる
あの、化け物から」
「避難民は!?」
「レウキクロスの住人は中央教会か、クロノス神殿内に避難させた
しかし、逃げ遅れた者も多く、、」
「すまんがそれは任せる!
オレは妻を助けに来た!がんばれよ!
瞬光!」
オレはそれだけ言ってその場を後にした
ここから近いのはクロノス神殿だ
クリスがそこにいるなら、リリィもきっと近くに
あいつが守ってくれているはずだ、リリィのことを
そう思って先を急いだ
クロノス神殿前に到着する
何十人もの聖騎士が倍以上のオークたちに囲まれて戦っていた
そこら中に血が飛び散り、
オークの死骸と人間の死体が折り重なっている
男は八つ裂きに
女は服を剥ぎ取られ、獣くさい体液を浴びて息絶えていた
地獄だった
「この豚どもがー!どけー!!!」
リリィがこんな目にあったかもしれない
そう考えてしまったオレは
頭に一気に血が上り、前面にいる豚の群れに切り込んで行く
たまに斧があたりそうになるが、そのままキルクで受けて、斧ごと叩き切ってオークの身体を切断した
「ライトニング!!」
「ギィィ!!」
魔法も使いながら、豚が焦げる声を聞いて次々に切り刻んだ
30匹はやっただろうか、そこまで数を減らしてやったら聖騎士たちが巻き返して攻勢に出た
それを見計らって神殿の扉に近づく
「ご助力感謝します!あなたは!?」
「クリスの友達だ!中に入れてくれ!」
聖騎士を押しのけて、神殿の中に入る
誰も止めなかった
リリィ!リリィはここにいるのか!?
オレは爆発しそうな不安を押し込めて、神殿の中を見渡した




