第269話 出発
ウチナシーレへの聖騎士隊の出兵までの10日間
オレたちは、剣の稽古の時間を多めにとって身体が鈍らないように努め、
それ以外はリリィの応援と称して中央教会でのんびりと過ごした
クリスのやつも毎日とは言わないが、それに近いくらいの頻度で現れて、
剣の修行に付き合わしたり、教会で談笑したりした
そんなこんなで、ウチナシーレ出兵の当日となる
♢♦♢
「おぉ〜、壮観だなぁ」
オレは、整列した300人の聖騎士隊を眺めてそう言った
「これに同行するだねぇ〜」
「ピ〜」
オレたちは聖騎士隊駐屯地の中庭で端っこの方で待機していた
これから出陣の挨拶をクリスがやるらしい
それが済んだら出発だ
「なんだか、怖いですね、、」
とリリィ
今日はリリィも修行を後回しにして見送りにきてくれていた
「気持ちはわかるけど、戦争しに行くわけじゃないし、強いモンスターがいたらちゃんと逃げてくるから大丈夫だよ」
安心させようと笑いかけるが
「はい、、」
と不安そうな顔のままのリリィ
正直、オレもリリィと離れるのがめちゃくちゃイヤだよ
むしろそれが一番辛いよ
なんて、この場の空気に合わないことを考えていたが、黙っておく
そんなことより、リリィをどうやって安心させてあげるかだ
「コハルが暴走しても、私がチョップで黙らせますので大丈夫ですよ♪」
「すぐ帰ってくるわよ」
みんなそれぞれリリィを励ましてくれる
「はい、絶対、危ないことはしないでくださいね?」
「そうじゃな、ほれ、コハルも約束せい」
「うん、、戦いになったら助けに入りたくなっちゃうかもだけど、、
うん、、みんなの、家族のことを優先するよ」
「はい、お願いしますね
あ、ミリアはライ様たちのいうことを聞いていれば大丈夫ですからね」
「うん、、ミィもがんばる、、」
「お、そろそろ演説が始まるっぽいよ」
オレが聖騎士隊の隊員が向いている正面のお立ち台を指さすと、
みんな口を閉じて前を見る
まもなくクリスがやってきた
中庭に設置された台座に上がって、聖騎士隊を見渡す
「勇敢なる聖騎士たちよ!
今回はウチナシーレへの出兵に志願してくれてありがとう!
しかし!出兵と言っても主な目的はあくまで視察である!
他国民との戦いは絶対に避けるように!
聖騎士として!
誇り高い行動を期待する!」
大きな声でしゃべった後、クリスが大剣を抜き、両手で持って顔の前に掲げた
整列していた騎士たちも抜剣し、同じ姿勢を取る
「アステピリゴス聖騎士隊の誇りにかけて!」
「アステピリゴス聖騎士隊の誇りにかけて!」
「我らは守るために剣を振るう者なり!」
「我らは守るために剣を振るう者なり!」
「よし!誓いの言葉を忘れるな!」
「おぉぉ!!」
クリスの呼びかけに騎士たちが大きな声を上げた
士気は上々のようだ
クリスが壇上から降りると、すぐに指揮官らしき人物が交代で台座に上り、出発の音頭を取り始める
それを横目にクリスはオレたちの元にやってきた
「おつかれ〜、カッコいいじゃん」
「全然褒めるつもりないだろ、むしろバカにされてる気分だ」
「そんなことないよ、パチパチ」
オレは両手を叩く
「イラッ」
「仲良いですね〜♪」
「ライ様、、まさか、、」
まさか?まさかってなにかな?リリィ?
ステラみたいなこと言い始めないよね?
「はぁ、、もういいや
えーっと、サンディアさんとは途中で合流するんだよね?」
小声になってクリスが聞いてきた
「あぁ、森の近くを通ったときにこっそり馬車に乗り込んでもらう手筈になってる」
オレたちの馬車は最後尾だから気づかれないだろう、という算段だ
「そっかそっか、もし国境沿いの砦にウチナシーレの人たちがいたら」
「うん、サンディアさんに頼んで話してきてもらう」
「おっけー
あ、今回の指揮官を紹介しておくね、彼には話通してあるから
ユーリ!」
「はっ!」
クリスが呼ぶと、出発の音頭を取っていた聖騎士が近づいてくる
「今回、協力してくれる冒険者のライ・ミカヅチさんだ」
「はっ!ユーリ・オハイエと申します!
この度はご協力感謝致します!」
オレたちと同年代くらいの男が礼儀正しく挨拶してくれた
「一応確認だけど、ユーリさんは平和主義者なんよね?」
「もちろんです!」
「彼は昔から僕と一緒に修行してきたし、優しい男だから大丈夫だよ
砦付近に近づいたら彼の方からライたちに接触してもらうから」
「わかった、じゃあ、よろしく」
ユーリさんに手を差し出す
「こちらこそよろしくお願い致します!」
ガッチリと握手してくれた
「じゃ、おまえとも、リリィのこと、本当に頼んだ」
言いながらクリスにも握手を求める
「、、うん、任せて
あとごめん、、この小手も聖剣の一部だから人に触れれないんだ」
両手に装着された肩近くまでを覆っている小手を見ながら、罰が悪そうに言うクリス
「あ、そうなんだ?エクスカリバーさんは気難しいねぇ」
「だねぇ、ははは、、」
「じゃ、どうだろ?
行って帰ってくるだけだから、2週間はかからないと思うけど、行ってきます」
「いってらっしゃい、気をつけて」
「あぁ」
「ライ様、、」
「うん、リリィ、おいで」
「はい」
声をかけて抱き寄せる
「こんなに長い間離れるのははじめてで、オレ寂しいよ」
「わたしもです
この寂しさをバネに修行に励みますね」
「うん、がんばって
毎日、意識共有でお話ししような」
「はい、楽しみにしてます」
「愛してる」
「わたしも愛しております」
そっとキスをする
そんなオレたちに対して、
「、、あんたたち、、恥ずかしくないわけ?」
顔を赤くしながら、ジト目で見てくるソフィア
「はわわわ、、」
両手で顔を隠し、指の間からオレたちを見てるミリア
そして、行進しながら馬車に向かう騎士たちの何人かにも呪詛がこもったような目を向けられた
「おぉ、、人がたくさんいたんだった、、」
「ライ様、、恥ずかしいです、、」
「ごめん、、でも、本当に心配だから、毎日連絡するね」
「はい、承知しました」
「もうよいかの?ゆくぞ」
ティナに促されて、自分たちの馬車に乗り込む
御者の席にはティナとコハルが座っていたので、荷台から身を乗り出してリリィのことを見た
「すぐ!すぐ帰ってくるから!」
「はい!お待ちしてます!」
ゆっくりと動き出す馬車から、リリィに向かって叫ぶ
「愛してる!!リリィ!!」
「わたしも愛しております!」
馬車が無情にも前進し、リリィの姿がどんどん小さくなっていく
寂しい、、
そして、手を振るリリィの姿が路地の向こうに消えていった
「帰りたい、、」
「出発したばかりでしょ」
「2週間なんぞすぐじゃ」
「リリィのいない分は私がたくさん癒やしてあげますね♪ぎゅー!」
後ろから頭を掴まれ、おっぱいの中に引きずり込まれる
倒れるようにソファに座った
「リリィ、、いない、、しゅーん、、」
「あらあら、これは重症ですね」
「おにいちゃん、、かわいそう、、よちよち、、」
後ろの座席からミリアが顔を出して頭を撫でてくれる
「ありがとー、、」
それでもオレの元気は回復しなかった
カタカタと馬車に揺られ、ゆっくりと進んでいく
正門を出て、レウキクロスを離れていく
リリィがいるレウキクロスから、どんどん離れていく
そう思うと、すごく寂しくなって、ステラのおっぱいに抱きついた
「うふふ♪しばらく独占できそうですね♪」
とか聞こえてくるがしんなりと抱きつく
早く帰ってきたい、リリィのところに
オレはそれしか考えていなかった




