第266話 同行者の選定
「それは、、おそらく我が国の首都には例のモンスターがまだいるからだ、、」
ジャンは、ツラそうな、悔しそうな、なんとも言えない暗い顔でそう言った
なるほど、だから聖騎士隊の出兵をやめろと言ってくれたのか
「つまり、聖騎士隊がウチナシーレに近づけば、、」
「やつらに蹂躙されるだろう、、
そして、最悪なのは、聖騎士隊が蹂躙されたあと、次の標的がレウキクロスに向くことだ、、」
ウチナシーレが壊滅したときのことを思い出しているのか、ジャンたちは暗い顔をしている
「それは、、たしかに最悪のケースだ、、
あの、ちなみになんですが、聖騎士隊はそこそこ強いと思うのですが、300人では全く歯が立たないのでしょうか?
できれば、そのモンスターの特徴というか、どんな戦い方をするのか教えてもらえますか?」
「、、そうだな、、
聖騎士隊の力は、この前の戦いで見させてもらった
よく訓練されていたと思う
彼らならば、あいつらの下位個体、いや上位個体までなら対応できるだろう
しかし、、」
そこまでしゃべり、言い淀むジャン
「下位、上位、ということは相手は複数なんですね?」
「あぁ、、あいつらは、オークの群れだった、、」
「オーク?オークっていうと、あの豚人間の?」
「そうだ、二足歩行の巨大な豚だ
あの豚どもにウチナシーレは壊滅させられた、、」
オーク、オークか、、
ゲームとかでは中盤あたりで普通に倒すようなイメージがある
だから、あまり強い印象はない
いや、でも一部の作品では魔王を気取った特別なやつも出てきたような、、
頭の中で前世の記憶を思い出していると、ジャンが続きを話し出した
「一般的な下位のオークであれば、たとえ大群で来られても、リューキュリア騎士団は負けはしなかっただろう、、
しかし、問題はあいつらを操っていた、、
一際大きなオーク、、
あいつがいたせいで、、我が国は滅んだ、、」
「あいつ?その言い方ですと、一匹のように聞こえるのですが、、」
「そうだ、、
たった一匹の巨大なオークに城門を破壊され、名だたる騎士隊長は殺され、指揮系統を破壊された
それからは、、あっという間だった、、
城門から下位のオークどもがなだれ込み、、そして、俺は、、逃げることしか、、」
ジャンは辛そうに、テーブルに両手をついて下を向いてしまう
「騎士団長は素晴らしい働きをしたと思います!
我々を救ってくれたではありませんか!
ここにいる全員が!それをわかっています!」
サンディアがジャンのことをかばう
「ありがとう、、
しかし、国を守るのが騎士団長の務めだ、、それが出来なかった俺など、、」
どんどん凹んでいくジャン
これだと本題からそれそうだ
「あの、申し訳ないのですが、これからの話をしましょう
前向きな話を、どうやって皆さんを助けるか
という話です」
「あ、あぁ、、そうだな、、
すまなかった、それで、我々を助ける、というのは?」
「そうですね
皆さんが生きていくには
①ウチナシーレを取り戻す
②レウキクロスに受け入れてもらう
③別の町を作る
くらいの選択肢があるかと思います」
オレが指を順番に立てながら3つの案について話し出す
「そうだな、どれも難易度は高そうだが」
「ですよね
特に、【①ウチナシーレを取り戻す】は、件のオークをなんとかする必要があるので難しいでしょう
【③別の町を作る】もすぐには無理ですよね、ここにいる1000人じゃキツそうだ
じゃあ【②レウキクロスに受け入れてもらう】が1番簡単そうって話になる」
「いや、、とは言っても我々には過去の確執が、、」
「その確執を拭い去るくらいの恩を売ることはできないでしょうか?」
「というと?」
「うーん、、ウチナシーレに出兵する聖騎士隊がオークとぶつかったとき、撤退するのを援護するとか?」
「それは、、それくらいは出来るかもしれないが、、」
「難しいでしょうか?」
「我々はここにいる民を守らねばならぬ
だから、騎士たちをウチナシーレまで連れていくのは賛同しかねる
すまない」
いい案だと思ったがダメだったか
いや、でもこの案は聖騎士隊の犠牲を前提とした案だ、気持ちがいいものではない
「なるほど、、
あの、ウチナシーレには、もう生き残りの人たちはいないのでしょうか?
今日のもともとの目的は、
もしウチナシーレの人たちが首都にいるなら、聖騎士隊と無用ないざこざを起こさないようにジャン騎士団長をつれていけないかって相談に来たんです」
「そうか、だからわざわざここまで
そうだな、生き残りは、、いるかもしれないし、いないかもしれない、、
少なくとも町の中にはいないだろう
生き残りがいるとすれば、周辺の森の中か
もしくは、数日離れた町まで逃げたか、のどちらかだと思う
いや、それか国境付近の砦か、、」
「砦?」
「あぁ、リューキュリア教国とアステピリゴス教国の国境の街道には、それぞれの国が建設した砦が向かい合うように並んでいる
もしかしたら、そこに生き残りが逃げ込んでいるかもしれない」
「なるほど、とすると、レウキクロスから出兵すれば、まず、その国境の砦とぶつかりますよね?」
「あぁ、そうなるだろう」
「そのとき、もし砦に避難民がいて、指揮を取っているのがアステピリゴスに恨みを持つ人物なら」
「絶対に国内には通さないだろう
最悪、死に物狂いで攻撃してくる」
「はぁ、、」
国同士のいざこざは本当にめんどくさい
憎しみあってて疲れないのか、と思ってしまう
「じゃあやっぱり、敵じゃないですよって証言してくれるリューキュリアのそれなりの地位がある人が同行してくれないと困りそうですね」
「そうなるな、、」
「で、さっきの話からして、ジャンさんが同行するのは難しいですか?」
「あぁ、申し訳ないが、俺にはみなを守る使命がある」
「じゃあ、サンディアさんですかね?」
「私、ですか?」
「そうだな、サンディアが同行すれば、争いは避けれるだろう」
「じゃあ、サンディアさん、ついてきてもらえる?」
同世代ということもあり、ラフに聞いてみる
「それは、、はい、もちろん大丈夫です
私も無用な血が流れるのは見たくありませんので、私が力になれるのでしたら、つれていってください」
「ありがとう
なら、10日後の出兵に備えて準備しておいて下さい
なにか連絡があれば、リョクに伝えてもらえれば魔道具で伝わります
こちらからも前日までには合流する場所について連絡するので」
「わかりました、よろしくお願いします」
「うん、こちらこそよろしく」
頭を下げるサンディアにオレも会釈する
当初の目的であったジャンの同行は実現しなかったが、代わりになる人物は確保できた
帰ったらみんなにいい報告ができそうだな、と考える
「それにしても、、ライ殿たちには、本当に頭が下がる
かたじけない」
ジャンが武士みたいなことを言いながら頭を下げた
「なにがですか?」
「祖国でもないリューキュリアのために、ここまで尽力していただいていることだ」
「んー、リューキュリアのためっていうよりは、リョクとショウの、友達のためですね」
ティナとステラを見ると、だよね、という笑顔を浮かべてくれる
「それは、、我が息子たちは、大変素晴らしい友を得たのだな
何にも代え難いことだ、、」
「大袈裟ですよ、まぁ気軽に考えてください
息子の友達がたまたま大変なときにお手伝いしてくれてるみたいな感じで
あ、あと食糧補充しておきますので、アイテムボックス持ちの方、いいですか?」
「ふふ、照れておるのう」
「そういうところも素敵です♪」
嫁たちが何か言ってるがスルーしておこう
こういうときは黙って行動するもんだ
わざわざ自慢するようなもんじゃない
こうして、サンディアと司祭たちに数日分の食糧を渡し、オレたちは町に戻ることにした
帰る前にユウとショウにも会わせてもらい、リョクもあわせて3人と少しだけ話す
別れ際には
ティナとステラに頭を撫でられたショウが名残惜しそうにずっと手を振っていた
♢
帰り道の森の中
「やはり子どもは可愛いのう」
「ティナとの子どもも可愛いだろうね」
「な、なんじゃ急に、、恥ずかしいやつじゃ、、」
「ライさん!私は私は!」
「ステラとの子どもももちろん可愛いだろうね」
「うふふ♪そのときが楽しみですね♪」
オレは2人と将来について話しながら、レウキクロスまでの帰路を進んだ




