第245話 もう1人の兄弟
ガサガサ、ガサッ!
「なんだおまえたちは!!弟から離れろ!!」
警戒していた草陰から、1人の男が現れた
そいつは、出てきた途端怒鳴って、剣を構えだす
しかし、剣士のオレたちはその構えで相手の力量をなんとなく測り、脅威にはなり得ないと判断した
だから、
「なんだー?」
と、そいつのことを観察することにする
中学生くらいだろうか
黒髪の男が真剣を両手で構えて立っていた
パッと見では、たいして強くはなさそうだ
そいつの近くにはステラがいる
だから、とくに慌てず、様子を伺いつつゆっくり近づくことにした
「兄さん!?」
リョクが叫ぶ
「リョク!兄ちゃんが助けてやるからな!」
こちらを見たそいつはまたでっかい声で叫んでいた
「あれがおまえの兄ちゃんなん?」
「はい、、すみません、、」
「なんで謝ってるん?」
そう聞いた途端、
「うおぉぉぉぉぉ!!」
その男はステラめがけて突進していった
「あいつはアホなのか?」
「あらあら?」
突進してくる男を見て、ステラはすぐに料理の手をとめ、その場から離れた
せっかくの料理を台無しにされてはかなわないからだ
そして、丸腰でヒラリヒラリと剣をかわす
あの太刀筋ではステラに当てることは不可能だろう
そう思いながら、すぐに取り押さえられるところまで近づいた
「落ち着いてください、リョクとショウのお兄さん?なんですよね?」
「うるさい!!うおぉぉぉ!!」
そいつは大ぶりで剣を振り回しながら大きな声で叫び続ける
もちろん、ステラにはかすりもしない
「なんであいつキレてるの?」
「えっと、、たぶん、、僕たちが人攫いにでもあってるとか、、
そんな勘違いをしているのかと、、」
「うーん?アホなのか?」
あいつには、リョクとショウが拘束されてたり、痛めつけられてるように見えているのだろうか?
こんなに仲良さそうなのに
「えっと、、思い込みが激しい人で、、」
「なるほど」
「クソ!クソー!!おまえなんか!!おまえなんか!!腹さえ減ってなければ!!
はぁはぁ、、」
一通り暴れ終わったのか、そいつは剣を地面にさし、苦しそうに息を吐く
「あの、お腹空いてるなら、一緒にご飯食べませんか?
今作ってるところなので」
「兄さん!この人たちは良い人たちだよ!
僕とショウにご飯を食べさせてくれるんだ!」
「嘘をつくな!こんな森の中でそんな良い人いるもんか!俺が助けてやるから!
うおぉぉぉ!」
立ち上がり、雄たけびをあげながら再度剣を振り回しだすリョクの兄貴
「あらあら、落ち着いて、落ち着いてください」
「くそ!くそ!なんで当たらない!俺が!弟を!家族を守るんだ!」
「まぁまぁ、とりあえず、ご飯食べませんか?」
ステラがにっこりと微笑む
たぶん、ステラは、リョクとショウの兄だというコイツを信用していたんだろう
「うるさい!この!悪魔め!」
は?
「な、なんでですか?私は悪魔じゃありませんよ?」
「嘘をつくな!そんな角はやしておいて!」
ステラはコイツを信用していた、だから腕輪の能力が発動しなかったんだと思う
だからなんなんだ?
オレの血液は一気に頭まで上っていった
「、、、」
そして、ステラの表情を見てしまった
辛そうな、苦しそうな顔だった
許せない
「おい」
バシ
オレはそいつの手首を掴む
「なっ!?なんだおまえは!?」
「こっちのセリフだ、なんだおまえ?今なんつった?」
「やめろ!離せ!グッ!」
オレは手に力をこめる
カラン
そいつの手から剣がこぼれ落ちた
「悪魔の手先め!」
「ぶち殺されてーのか?」
完全に頭に血が上っていた
ひさびさに味わうこの感覚に自分自身も戸惑う
でも、止まれない
左手に拳を作り、力を込める
「ライさん!私は大丈夫ですから!」
ステラの声が聞こえる
「ライ!相手は子どもじゃぞ!」
ティナがやめろと言う
「師匠!兄さんを!家族を殺さないで!」
リョクの必死な声が聞こえたが、オレはそいつの腹に拳を叩き込んだ
「ゴフッ!」
そいつはくらった一撃で吹っ飛んで湖の上をこえ、中心に生えている巨木に叩きつけられた
そして、ずりずりと地面に崩れ落ち、首をガクッと折って動かなくなる
まぁ、死んではいないだろう
知らんけど
「兄さん!」
「にいちゃん!」
リョクとショウが青い顔をしている
「ふぅぅぅ、、死んでないよ、たぶん、手加減したし」
「ライ!おぬし!鬼め!」
「ごめん、でも、許せなくって、、」
オレの謝罪を聞かずに、ティナとリョク、ショウが冷たい湖を渡って、
吹っ飛ばされたあいつの介抱に向かう
ここの湖は1番深いところで大人の膝上くらいだから、溺れることはないだろう
その様子をボーっと眺めていた
「ラーイさん♡
ありがとうございます♪私のために怒ってくれたんですよね?」
「うん、、ちょっと頭に血がのぼっちゃったかな、、」
「うふふ♪こんなこと言うとティナに怒られそうですが、私のためにあんなに怒ってくれて、私はすごく嬉しかったです♪」
「うん、、ステラはこんなに可愛くて、綺麗なのに、なんで分からない人がいるのかな、、」
さっきステラが言われたことを思い出し、自分のことのように辛くなった
「はう♡そんな♡大好きです♡
キスしてもいいですか?」
「うん、しよ」
ちゅっちゅっとステラとイチャついて、頭にのぼった血を下げるように意識した
落ち着け、落ち着くんだオレ
「あんたたち、、子どもがいるのよ、、」
ソフィアが引いた声を出すので、イチャつくのをやめる
「み、見てないじゃん、、」
「そうだけど、自重しなさい」
「あーい」
巨木の方を見ると、ぐったりしている男にティナがポーションを与えていた
男は目を覚まし、何かを言っている
なぜかティナには大人しく従っているようだ
「うーん、めんどうなことにならないといいけど、、」
とクリスが呟く
「だなー、あいつが大人に報告したら、、」
「うん、だよね、、」
オレはクリスがなにを懸念しているかすぐに察した
あいつがリョクとショウが森でおかしいやつらと会っている、なんて大人たちに報告したら、リョクたちとは二度と会えなくなるだろう
それどころか、大人たちがこぞってやってきて、今みたいに争いになったらそれはもうめんどうだ
だから、こればっかりは、
リョクとショウに説得してもらい、あいつを黙らせるしかない
もしくは、いよいよ2人を連れ出すしかないかもしれない
そう考えて、行く末を見守ることにした




