第215話 シスター、故郷に帰る
レウキクロスの門の前では、
先着の馬車が数台とまっていて、門番に検問されているようだった
「入れない、なんてことはないよね?」
「えぇ、通行料さえ払えば入れます
危険物が積まれていないかはチェックされますが」
「なるほど、でもアイテムボックスの中は見られないよね?」
「はい、そこまではしてなかったと思います」
ならザルだなぁ〜、と思う
大量の爆弾をアイテムボックスに詰め込んで持ち込むことは出来るからだ
そう考えていると、オレたちの順番がやってきた
門番は騎士団員なのだろうか、高そうな鎧に身を包んだ人が担当していた
その横には神官のような白いローブを着た人物も一緒にいる
「ようこそ、レウキクロスへ、こちらへはどのようなご用件で?」
「え〜と、妻の帰省です」
「そうですか!おかえりなさい!
申し訳ないのですが、規則ですので荷台を改めさせてもらっても?」
「もちろんです」
みんな荷台から降りて、別の騎士団員らしき人が中を確認する
その間にリリィが門番に通行料を払っていた
例のごとく、わたしのワガママなので、ということでオレは財布を出せない
「問題ありません」
と馬車の中を確認していた騎士が下りてきて、門番に報告していた
「ありがとう
では、最後に神官による検査をお願いします」
門番さんは、彼にお礼を言ったあと、オレたちの方に向き直ってそう言った
「検査?」
「はい、この町で悪事を働かないか?
と質問されますので、はい、と答えてください」
「わかりました」
神官が身の丈ほどの杖を構えて、先ほどの質問を1人ずつしていく
「大丈夫です、ようこそレウキクロスへ
それにおかえりなさい」
質問を終えたさわやかな若い女性の神官さんがにっこりと微笑んでくれる
もう中に入ってもいいですよ、と言われたので馬車に戻ってそのまま町の中に入った
「今のってさ、嘘ついたらバレるってこと?」
「そうね、嘘をつくと魔法をかけた術師にはわかるのよ」
「そしたら騎士団が取り押さえるってことですね
しっかりした検問です」
ステラは感心しているようだった
なるほどなるほど、仮にアイテムボックスに大量の爆弾を隠していても、先ほどの神官とのやりとりであぶり出せるってことか
ザルな検問だなんて思ってすみませんでした、と心の中で頭を下げた
「さっそく、例のお師匠様のところに向かう?」
と隣のリリィに確認する
「いえ、まずは宿をとりましょう」
「わかった」
リリィが馬車を操作して宿に連れていってくれる
宿の駐車スペースに馬車をとめて、みんな下車した
「ありがとね!オニキス!」
「ヒヒン!」
「アルテミス、おぬしもお疲れ様なのじゃ、人参を食べるとよい」
「、、ヒン、、むしゃ」
コハルとティナはお馬さんたちを労っているので、
他のみんなで先に宿の受付に向かった
キィ
木の扉を引いて中に入る
壁は石造りのようだが白く塗られていて、床は木材で落ち着く雰囲気の宿だ
受付には頭巾を被った奥さんらしき人が雑誌を読みながら座っていた
「マイラおばさん、こんにちは、お久しぶりです」
「んん?、、、リリィちゃん?」
「はい、お久しぶりです、帰って参りました」
「リリィちゃん!久しぶり!元気にしてたのね!良かった!
ユーシェスタさんがリリィは破門ですなんて言ってたから心配してたのよ!」
「、、はい、おかげさまで元気にしています
仲間もたくさん出来ました」
破門、という言葉が引っかかるが、そこには触れないようだ
リリィの知り合いらしきそのおばさんは、とても好意的で、すぐに椅子から立ち上がってリリィを抱きしめてくれた
「仲間?」
「はい、みんなにここまで連れてきてもらったんです
紹介しますね
夫のライ
それと、友達のステラ、ミリア、ソフィアです」
順番に紹介されたので、みんなペコリと頭を下げる
リリィに夫と紹介されたのは初めてだったので、すごく嬉しかった
鼻高々である
「アホ面やめなさい」
「、、、」
ソフィアに小声で小突かれたので真面目な顔に戻ろうと努める(キリッ
「それと仲間があと2人、馬の世話をしてから来ますので」
「夫?え?リリィちゃん、結婚したの?」
「はい、自慢の夫です」
自慢!自慢の夫!!
聞きましたか!自慢の夫ですって!
またアホ面に戻りそうになったが我慢した
にっこり
「えぇ!?そんな!ならお祝いしないとじゃない!
今夜はご馳走様ださないと!おばさん腕を振るうわよ!」
「ありがとうございます、でも、いつものおばさんのご飯で大丈夫です
大好きなので」
「リリィちゃんは相変わらず可愛いわねー!
おばさんもっと張り切ってきちゃったわ!
あ!泊まっていくのよね!?」
「はい、7人なので2部屋になるのでしょうか?」
「そうね!4人部屋を2部屋にしましょうか!」
「あなた、1ヶ月でいいですか?」
あなた?
ツンツン
ソフィアに小突かれて気づく、オレのことか!
「うん!とりあえずそれくらいにしよっか!」
リリィの修行には時間がかかる
1ヶ月では足りないと思うが、ひとまずそれだけの家賃を支払った
「夜ご飯の準備しなくっちゃ!お祝いよー!」
奥さんはオレたちに鍵を渡した後、楽しそうに奥に引っ込んでいった
今晩はフルコースでも出てきそうな勢いだ
「あの人とは仲良いんだね?」
「はい、マイラおばさんは教会によくお祈りにきていて、小さいころから遊んでくれたんです」
「そっかそっか、それにしても、あなたって?」
「あ、すみません、、
旦那様を様付けで呼んでいると変に思われるかと思って、、」
申し訳なさそうにするリリィ
「ううん、なんかね、すごく嬉しかった
また、そう呼んでくれてもいいよ?」
「ふふ、では、またの機会に」
笑ってくれた、よかった、それにイイ雰囲気だ
とりあえず、部屋に入って、のんびりする
雪国というだけあって、各部屋の中に暖炉が備え付けられていて、その横に薪が置いてあった
なので、他の町の宿と比べて部屋が広い
暖炉の使い方についてリリィに教わっていたら、お馬さんの世話が終わった2人が合流した
そして、マイラさんが腕を振るう夕食まで、もう少し時間を潰すことにした
♢
その後の夕食は想像通り豪勢なものが振る舞われた
食べきれないほどの料理が宿の食堂に並ぶ
オレたちが着席した長いテーブルの上がお皿で埋め尽くされるほどだった
マイラさんが腕を振るった料理はどれも美味しくて家庭的なものでなんだか安心する
夕食の最中、マイラさんは同じテーブルについて、リリィとオレの出会いについてや、どんなところがお互い好きなのか、なんてことを興味深そうに質問してきた
そんな質問に対して、
恥ずかしがりながらも、しっかりと答えてくれるリリィ
リリィから優しいところや強いところが好き、なんて説明されてテンションが爆上がりしていく
なので、オレもリリィの大好きなところをつらつらと述べていたら、
マイラさんは大満足したようですごく嬉しそうにしてくれた
食後のデザートは、オレだけ2倍くらい盛られていた
それを見て、恥ずかしそうにしていたリリィもクスクスと笑ってくれて、
レウキクロスでの初日は楽しく過ごすことができたのだった




