第162話 村人と村長の関係
魔法勉強会5日目
勉強会の前にいつもの畑仕事だ
毎朝の剣の稽古をおえたオレたちは身支度をして、畑道具を持って出かけようとしていた
「、、、」
しかし、いつになくミリアの顔が暗い
なにか、嫌なことがあったのか、畑仕事に行きたくないのか
でも、仕事はオレたちがやるしな、なんだろう?思い当たることがなかったので優しく話しかけてみることにした
「ミリア?」
「、、うゆ、、」
「お仕事行きたくないなら、オレが代わりにやってあげるよ?
お留守番にする?」
「、、それは、だめ、、」
ぶんぶんと首を振る
「えっと、ミリアがイヤなことは、なるべく無くなるようにしたいって
オレは思うんだ
だからさ、イヤなことはなんでも相談してほしいな?
仕事はイヤじゃない?」
こくこく
首を上下に振るミリア
「じゃあ、、今日会う人が苦手、とか?」
「、、、」
こくり
正解だったようだ
「そっか、ならオレが代わりにその人と話すよ
ミリアは案内だけしてくれればいいから」
「、、いい、、の?」
顔をあげて、オレの方を見るミリア
「もちろん!オレに任せてほしい!」
「、、でも、、」
「いいんだよ甘えても!ミリアのことはオレが守るから!」
「、、甘えても、、いい、、のかな、、」
「うん!むしろ甘えてくれると嬉しいな!」
「そう、、なの?」
「うん!すごく嬉しい!」
「な、なら、、あまえりゅ、、」
ぎゅっとオレの服の裾を握るミリア
でも、まだ少し不安そうにしているので、ゆっくりとなるべく優しく頭を撫でた
すると、少しずつ安心したような、緊張がとけていくような、いつものミリアの表情に戻ってきた
「大丈夫そう?」
「うん、、いこ、、」
「わかった、ミリアは案内だけでいいから、離れたところからどの畑なのか、どの人なのか教えてくれればいいからね」
「うん、、」
そう答えたミリアは、畑に着くまでオレの服の裾を離すことはなかった
よっぽど不安なのだろう
どんなやつが畑にいるのか
すごく腹が立った
こんなにミリアを苦しめて、許せない
オレは怒りを表情に出さないように、静かに目的地に向かった
♢
「あなたたちがミリアちゃんのところに泊まっているっていう冒険者?」
「はい、そうです」
ミリアが遠くから指をさした女性に近づいて話しかける
まずはオレだけが近づいた
おかしなやつだったら妻たちと接触させたくなかったからだ
「畑仕事なんて手伝ってくれてるの?
お金払って村に滞在してるのに?」
その女性は30才手前くらいの奥さんで、ミリアがイヤがる割には全然邪悪そうな
雰囲気はなかった
奥さんだといったのは、その女性の近くに小さな子供がいて、その女性のスカートをつまんでいたからだ
「はい、ミリア一人では大変そうでしたので」
オレは警戒を解かず、しかしミリア一人にあれだけの作業量をやらせていた村人たちへの怒りをあらわにするように、その女性を睨んだ
「そう、、よね、ごめんなさい、、こんな村で、、」
「え?」
予想と違う反応だった
この女性は、ミリアに大量の畑仕事をやらせていたことに罪悪感を覚えているように見えた
「あの、こう言ってはなんですが、ミリアにあの仕事量を任せるのはおかしいと思います
さきほど謝ったってことは、本意ではなかったんでしょうか?」
「、、ええ、他の方はともかく、、私は、申し訳なく思っているわ、、」
「ではなぜやめないのですか?」
少しムっとして強い口調になってしまう
申し訳ないと思うなら作業量を減らせばいいだろう
「、、村長の命令、だから、逆らえないんです、、」
ここで理解した
あのジジイだ
村に入ったとき、宿代を請求してきた村長、ミリアのことを妻だとほざいたあのジジイが黒幕だったのだ
「そうですか、教えていただきありがとうございます
ミリアのことは大丈夫です、オレが守ります」
「あなたが?そんな、会って数日なのになんでミリアちゃんを、、」
「好きだからです」
「好き?好きって、その、恋愛的な意味で?」
「そうです」
「、、おかしな人ね」
ふふ、と少し笑う女性
スカートを握っていた子どもは飽きたようで家の中に入っていった
そのときに優しい顔で手を振るのをみて、
この女性は邪悪な人物ではない、そう感じた
しかし、じゃあ、家を出るときなんでミリアはあんなに暗い顔をしていた?
オレはその真相につっこまずにはいられなかった
「あの、失礼ですが、あなたは悪い人には見えないので、
オレも正直に話します、不快にさせてしまったらすみません」
「はい、なんでしょうか?」
女性は真面目な顔で向き合ってくれる
「ミリアは今朝、あなたに会うことをすごくためらっていました
なんというか、すごく辛そうでした
なにか心当たりは?」
「、、、」
女性は言いずらそうにする
「答えれませんか?」
それによってはあなたもオレの敵だ
「いえ、、その、、たぶん、、いえ、それはうちの母が薬屋で、、
ミリアちゃんのお母さんを、、助けれなかったからだと、、思います、、」
その女性も辛そうだった
なるほど、そういうことか
ミリアは去年お母さんを亡くした、と教えてくれた
そのときのことを思い出すから、この人は会いたくなかった
ということだろう
「わかりました、教えていただきありがとうございます
では、畑仕事手伝いますので、作業内容を教えてください」
「はい、、お願いします」
オレは女性から作業内容を聞いて、みんなのもとへ戻ろうと踵を返す
でもさっきの会話で気になったことがある
あの女性、ミリアのお母さんの話をしてから、オレと一切目を合わせなくなった
なにか、まだ後ろめたいことがあるのか、、
なんだかイヤなものを感じ取って、オレは憂鬱になる
でも、あの可愛らしい少女を、笑顔を取り戻しつつある女の子を
オレが絶対に守るんだ、そう、ミリアのことを見ながら改めて誓うのだった




