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2-4話_haze me

1年が終わる?



怒涛の入学式から一夜明け、朝のホームルームが始まった。生徒たちの表情には期待半分、不安と昨日の疲れが半分見て伺える。ガラガラ、と教室の扉が開き、目の下に大きなクマを作っている御手洗先生が背筋はピンとしているが重い足取りで入ってきた。ツカツカと教卓の前に立ち、一呼吸入れた後、口を開いた。


「記念すべき第1回目の授業だが、屋外訓練場を使用しての戦闘実習とする。」


教室中がどよめいた。ザワザワと生徒たちの声が飛び交う。1人の生徒が挙手して質問をぶつけた。


「先生!実技実習は宿泊研修の時から、とカリキュラムに記載があります!他のクラスの同級生もそう言ってました!」

「順を追って説明するから静かにしろ。」


先ほどの雰囲気と打って変わった御手洗先生の声色に、教室は徐々に静寂に包まれていく。


「職員会議で決定した事だ。昨日の件もあったからな...」


御手洗先生は小さな黒いリモコンのとあるボタンをピッと押すと、ゆっくりスクリーンが降りてきた。教室中央の天井に吊られている投影機が作動すると、スクリーンに航空映像が映し出された。この学園の敷地の様子だ。


「今回の実習で使用する屋外訓練場はここだ。」


敷地の半分以上が破線の赤枠で囲われ、ゆっくりと画面中央にズームする。


「屋外訓練場は様々な平地での戦闘シーンを想定して、多彩なロケーションを用意している。山岳、積雪、砂漠、火山地帯などは気候及び物理的に無理な為、宿泊研修や修学旅行の機会にて当学園所有の離島や山、海域に赴いて戦闘訓練を行う。カリキュラムのレジュメに記載されている意味はそれに値する。」


スクリーン中央に映し出された屋外訓練場が細かくグリッドに分けられていく。


「屋外訓練場の各種ロケーションはおよそ1km四方にグリッド分割されているため、他組の戦闘の影響を受ける事は殆ど無いから心配するな。また、グリッドとグリッドの境目には不可視のイデア障壁、いわゆるバリアのようなものが張られている。ため、特例を除き外部からの影響は無い。」


御手洗先生は淡々と続ける。生徒の表情は、良いとは言えない。


「今からくじ引きを行う。同じ数字のものとペアになり、実技実習を行う事。ペアに不満があっても文句は受け付けない。あくまでも授業の一環であり、互いに切磋琢磨出来るよう心がける事。感情を殺せというと聞こえが悪いが。我々召喚士は戦闘に於いて私情を挟むと、良いことは無い。」


ガラガラと教室の扉が開き、一人の女性教員が入ってきた。


「御手洗先生、ダミー、持って参りました。」

「ありがとうございます。今副担任の先生が持ってきたこのダミーのクォーツ、コレを配る。配られた生徒は各自、ダミークォーツに込められた数字を読み取ること。」


ゼロクォーツとは逆に、白濁としたクォーツが生徒に配られる。奏はダミークォーツを受け取ると、しっかり握りしめて目を瞑る。ぼんやりと数字が頭の中に浮かぶ。


(どうしよう...6か9か判断が付かない...。)


ざわつく教室。番号を呼ばれた生徒は2人づつ席を立ち、教卓の横にある結晶に触れ、淡く白い光に包まれ、消えていく。刻々と奏の番が近づいてくる。


「次、5番の生徒前に。」

(ここは消去法で行くしか無い...。仮に6番で呼ばれた生徒が一人だったら行くか、二人だったら座っておこう。)

奏に緊張が走る。


「じゃぁ次は6番。」


(!?)


誰も生徒は席を立たなかった。それもそのはず、6か9か判別つかない生徒は奏だけでは無く、他に3人いたのだ。


(なるほど、他の3人も6か9か判別付かないのか...。ここで仮に自分が6番を名乗って席を立つとすると、その3人は昨日の件もあるし、牽制し合う可能性がある。でも万が一その3人の中に御三家のアイツがいたら最悪だ。絶対6番だと名乗りあげてくるはず...しかしアイツが6か9の可能性は極めて低いと信じるしかないのか...後出しで行く方がいいのか...誰か立ってくれ頼む...)


この奏の葛藤はわずかコンマ数秒。決心して重たい口を勇気を振りしぼって開く。


「(よし腹を括って行くか)俺行きます。」

「俺だな。」


そう言って同時に席を立ったのは、奏と御三家の霞だった。一部の生徒がざわつき出した。


「昨日喧嘩しそうになった2人じゃない?」

「良かった〜。あの2人とは当たりたく無かった。」


(!?...最悪だ。)

「お、天宮じゃねぇか。なんだよあからさまに嫌そうな顔するな。手加減はし、」

「先生、やっぱり俺9番かもしれません。」


霞の言葉を遮り、奏は御手洗先生に訴える。この人とだけはやりたくない。と言うのも、昨日の今日だからだ。問題だけは起こしたくない。

そんな様子を見た御手洗先生は、奏と奏の顔を交互に見て、ほんの数秒考えて言った。


「ん〜いやお前は6番でいい。それじゃ天宮と獅堂は前に。」

「えっ。」


奏は半ば諦めて席を立ち、教室の前に向かう。足取りは重い。


「んじゃ後がつっかえてるから、さっさと行ってこい。あと、お互い死ぬなよ。」


転送される間際に聞こえた御手洗先生の優しい言葉は、逆に奏を不安にさせた。転送クォーツに手をかざすと、体の感覚が薄れていく。淡い白色の光が奏と霞を包み込む。



屋外訓練場


ー湿地エリア


光が収まると、無意識のうちに閉じていた瞼を開ける。

ジメジメとした湿気が、無風の合間って、肌をじんわりと湿らせていく。足元には継ぎ目のないように水溜りが有り、微かに体が地面に引っ張られるのが分かった。


奏と霞は30mほど離れた場所にお互い立っている。

二人が立っている中間地点に、ホログラムだろうか、デジタル時計が空中に浮いていて、5:00と表示してある。


暫くの沈黙の後に、先に口を開いたのは霞だった。


「よう天宮。まさかこんなに早く手合わせできるとは思ってもいなかったよな?宿泊研修まで待ちきれなかったからな、ありがたいぜ。」


霞は腰に付けている剣をゆっくりと抜刀し、切先を奏に向ける。


「改めて、俺の名は獅堂霞。そして相棒は、」


話を続けながら霞は片手でピアスのクォーツに触れる。


「来い、【ラムダ】」


霞の言葉に呼応するように、ピアスのクォーツが緑色に光出だす。さっきまで無風だった湿地エリアに、鋭い風が吹き出した。風は次第に霞の足元から、体を包み込むように渦巻き集まっていく。渦巻く風と光が収束すると、召喚獣が現れた。

鷲の様な猛々しい翼、躯体は王者の風格漂う獅子、鋭い嘴と大きな鉤爪。伝説上の生き物、グリフォンの様な形態だ。


「俺は最強の召喚騎士になる。その為には、お前の様な奴を超えなければならない。俺の夢の糧となってくれ。」


『あー、マイクテスト、テステス。』


緊張の糸が張り巡る中、御手洗先生の疲れた声のアナウンスが屋外訓練場に響く。


『水を差す様で悪いが、軽くルール説明をする。そのエリア中央のタイマーが0になったら訓練開始。制限時間は45分。終業のチャイムが鳴ったら終わり。以上。勝ち負けは双方の同意の基に決めてくれ。膝をついたら負け、気絶したら負け、そこは好きにしてくれ。ただし生死に関わる勝敗の決め方はNGだ。お前らは大事な召喚士の卵だからな。じゃ、頑張ってくれ。』


プツリと放送が切れる。


「と言う事だ天宮。勝敗のルールはどうする?もちろん再起不能になったら、で良いよな?」

「分かった。」

「なんだ物分かりがいいじゃねぇか。すまんが手加減は出来ない。お前のクォーツは何かヤバい気がするからな。」


奏は霞と目を合わせないように、ゆっくりと、静かに拳銃にマガジンを装弾する。


(正直怖い...自分でコントロール出来るか分からない。このクォーツの力が底知れない力なのは感じる。限られた弾薬で獅堂にどう太刀打ちする?)

「怖気付いたか!?何か言ったらどうなんだ!?」


デジタル時計の数字は、1分を切っていた。


「【アビス】」


奏の声に呼応し、制服の胸ポケットが蒼く光出す。青より濃く、深く禍々しい光が奏を包む。クォーツの光に充てられた湿地エリアの水溜りが僅かに振動している。蒼い光は次第に、奏の左肩上部へと収束する。


《招んだか?》


光が収まると、奏の肩に、小さな翼の生えたトカゲの様な召喚獣がちょこんと乗っていた。


「はははははははは!!!!!なんだその召喚獣は!?トカゲか!?そんなサイズの召喚獣もいるもんだな。」


霞は、奏の召喚獣を見るや否や軽く笑い出した。


《油断はするなよ、霞。》

「分かってる。」


デジタル時計の数字がカウントダウンされていき、遂に0になった。

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