2-3話_ encounter
聖召学園学生寮 207号室
「何でお前らと一つ屋根の下で暮らさにゃいけねぇんだ!!!」
そう声を張り上げるのは御三家の獅堂 霞だ。
寮の自室、霞は学園から与えられた勉強机の椅子に腰掛け、テレビを観る坊主の青年、ベッドに腰掛ける双子の女子生徒に向かって言う。
「別に良いだろ?御三家の道場に缶詰になってた時期はこの4人に加え、兄貴姉貴達と雑魚寝してたんだから、寝る部屋が別々なだけマシだろうよ。思春期過ぎるだろ坊ちゃん。」
「うるせぇ!1年間だぞ!道場は1週間我慢すれば良かったけど、1年間だぞ!?気が狂うわ!」
テレビを観ている坊主は御三家の篠亀 箒だ。霞の方を一切見ずに返事をする。
「かっちゃんは照れ屋さんなんだから〜。私たちみたいなJKと暮らすのが恥ずかしいのか〜?思春期か〜?」
「変な目で見るなよカス。霹、こいつは早めに通報するべき。」
「あぁぁぁ!?かっちゃんって言うな!」
ベッドに腰掛けて霞をおちょくるのは御三家は双鳶 霹と靂。
向かって左側の胸下まである銀髪ロングで前髪をかき上、そのままポニーテールのように後ろ髪と結っている女子は霹。左耳のイヤリングに朝焼け色のクォーツが埋め込まれている。
向かって右側の肩ぐらいまである銀髪セミロング前髪ぱっつんの女子は靂。右耳のイヤリングにこちらも朝焼け色のクォーツが埋め込まれている。
「お前らなぁ...」
霞は呆れた様子で、半ば諦めかけている。
「んで霞、あの群青頭に勝負挑んでどうするつもりだ?御三家とはいえ、入学早々あまり良い行いじゃ無いぞ。」
テレビを観ながら箒は霞を軽く咎めた。霞は椅子に座りクルクル回る。
「喧嘩するわけじゃねぇから心配するな。お前らは感じなかったか?天宮のクォーツのイデアの感じ。アレは普通の召喚獣のイデアにしては何か嫌な感じがした。」
「あー、お前の姉貴みたいな感じか?」
「確かに!かっちゃんとこの姉御と同じ感じがした!ヤバい感じ〜」
「私も感じた...」
箒と霹と靂は口を揃えてそう言った。
「同室の他の奴らは完全にとばっちりだろうが、近々の授業で手合わせするのは班交流での実技実習でしか無いからな。」
「ホントだよ〜206のメンツかわいそう〜」
「え?天宮の部屋って隣?」
3人は黙って首を縦に振る。
「え?お前ら知ってたの?」
3人はもう一度黙って首を縦に振る。
「...お前ら...」
ー
206号室
「夜の9時以降はお互いの部屋に入らないようにすること。特に男子、変な気を起こさないことね。聖召学園の寮が男女混合の理由はそういった情を制御する訓練のためでもあるらしいから、本当かどうか定かでは無いけど。あと、」
ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドンドンドンドンドン!
后の言葉を遮る様に、206号室の寮の玄関ドアを三三七拍子でノックする音が聞こえた。
「はぁ、誰よ...教師も見回りに来ないし、寮の規則はそこまで厳しくは無いけど、修学旅行とは違うのよ...。」
「俺が行くよ。」
奏が率先して席を立ち、玄関に向かう。
ガチャりと恐る恐るドアを開ける。
「お邪魔するよ〜。」
奏は視線を徐々に上げていく。足に負担を掛けなさい軽そうなスリッパ。細くて色白な生足、見るからにスベスベな太腿、いかにもイマドキなブランドの寝巻き。銀色の長髪とクォーツの埋め込まれたイヤリング。そして、殺気のこもった夜明け前の様な紫色の瞳。
206号室の玄関の前に4人の人影が見えたが、奏が名前を聞く前にズカズカと206号室に4つの影が押し寄せてくる。
「ちょっ...おわっ!」
勢いよく開く玄関ドアと壁に、奏は挟まれた。
4つの生徒の影は、リビングのドアを開けて開口一番箒が言う。
「群青頭はいるか?ウチの大将が用があってここに来た。何とか言ってやって下さいや。」
「おい箒、イジるなぶっ飛ばすぞ。」
206号室と207号室の生徒が、邂逅した。12畳ほどのリビングに、緊張感が走る。后と綴が、リビングの入り口側にいる207号室のメンバーを睨みつける。
「これはこれは御三家の皆様、ご機嫌麗しゅう。」
「何か用?」
綴がリビングの椅子に座ったまま、楽しそうに挨拶をする。后もどこか喧嘩腰だ。岬はアワアワとしている。奏は玄関ドアに挟まれている。
「篠亀 箒だ。宜しく。まず先に謝るが、うちの霞が無茶言って申し訳ない。俺らはしょうがなくお前らと実技実習をする訳だし、天宮以外には実質興味は無い。怪我させない様に手加減はするつもりだから心配するな。」
「周りの私たちは眼中にないって事ね。それはそれで良い気はしないわね。」
箒の何気ない一言は、后を挑発する。ピリピリとした空気がリビングに漂う。
「空気を読まない様で悪いけど、貴方達カリキュラムのレジュメ見た?」
靂が口を開くと、手に持っているのは先ほどのホームルームで配られた再生紙のA4のプリントだ。明らかに奏の部屋を物色してきた形跡がある。
「これから1週間は座学と戦闘基礎学のみよ。4月の中旬から敷地の外で宿泊研修があって、個別、班別での実技実習はその時に行われる、との事。大型連休明けから、この学園の敷地にある訓練場で実技実習を随時行なっていく、と記載があるわ。血気お盛んな年頃かもしれないけど、少しは大人になりましょう?お坊ちゃん達。」
数秒沈黙が漂った後、箒が口を開いた。
「...という訳だから、宿泊研修の時までお預けだな。群青頭はココに居ないみたいだから、宜しく伝えといてくれ。」
「俺に何か用か?」
「うぉ!?」
207号室のメンバーの背後に、鼻頭を赤くした奏が立っていた。
「(気配が全くしなかった...)なんだ居たのか、まぁ急ぎの用は無かったから、また来るわ。んじゃな。」
「奏、かっちゃんに泣かされないようにね。あ、てか奏もかっちゃん呼び出来るね。でも呼び方被るから別で呼ぶね。カナディールとかどう?」
「勝手に部屋に入って悪かったわ。その年頃で、変な雑誌とか置いてないのね。少し安心したわ。」
「おいもう行くぞ!」
霞は、他のルームメイトを摘み出すように206号室を後にした。