2-2話_Strategy
回想が終わり、再び奏の寮の部屋
「って他人事の様に見てたけど...はぁ...こういう時の嫌な予感って当たるのよね...。フラグ回収だけは昔から早いって言われてるんだけど...流石に彼らの班とやり合うのは嫌ね...」
そう頭を抱えて、金髪ロングの女子は呟いた。頭髪は、うなじが見える様に束ねている。彼女もまた、奏のルームメイトである。
「とりあえずお互いの召喚獣の属性を把握しておこうか。後アイマさん、訂正すると、俺は『ウツギ』ね。んで俺の召喚獣は【クサビ】、属性は風。持ってる武器は小型ナイフ。アンタは?」
綴は口を開くと、自分の事を軽く説明した。そして奏に話を振る。考えてもしょうがないので、奏は自分の情報を普通に答えた。
「俺の召喚獣は【アビス】、属性は水、らしい。武器は、拳銃です。この度はご迷惑をお掛けしております。」
「硬いな〜なんで敬語なんだよ!ルームメイトなんだから砕けて行こうよ。宜しく奏。」
「...そうだな。」
綴は椅子から立ち上がり、奏の顔を覗き込みニヤリと笑った。
少し奏の気が和らいだのを見て、アイマと呼ばれていた女子生徒が喋り出した。
「一応もう一度自己紹介するけど、私の名前は『逢麻 岬』。召喚獣は【プロム】、属性は土。私の武器は短剣。あと空木君、私はアイマじゃなくて、『オウマ』だから、宜しくね。」
「オウマサン宜しく〜。」
「なんかイントネーション悪意がある気がするけど...。次はハナゾノさん、お願いできる?」
冒頭で頭を抱えていたもう1人の女子生徒が、嫌そうな顔をして口を開いた。
「ええ...私は『華園 后』。召喚獣の名前は【クロッグ】、属性は火よ。武器は、マシンピストルってとこね。皆さん、どうぞ宜しく。あと、いくらルームメイトだからと言って、情報を蔑ろにしないことね、空木君。今回はやむを得ない状況だから話すけど。」
后の名前を聞いて、綴が何かにピンと来た様子で尋ねた。
「華園って事はアンタ、あの武器製造・販売で有名な、『華園重工』の娘ってこと?日本を中心に、東洋での銃火器製造のシェア率独占してるって。」
「別に、関係無いでしょ。」
「確か、奏とアンタが見せてくれた銃に、『PGHI(Petals Garden Heavy Industry)』って刻印してあるでしょ?それ、」
「パパの会社は関係無いから!」
綴の言葉を遮る様に后が少し声を荒げる。少し和んだはずの空気が元に戻った様だ。岬が間に入って2人をなだめる。
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。とりあえず、207号室と実技実習する時に、誰と誰がやり合うかだけでも決めておいた方がいいかもしれないね。多分、天宮君は、彼とかもしれないけど...」
「貴方、『御三家』と手合わせ出来るなんて光栄じゃない。せいぜい死なないことね。」
「死っ...?」
奏は不安でしかなかった。『御三家』というワードを聞いて、ピンとも来ず、危機感も湧かない。他のルームメイトと温度差を感じる。自分がいかに情報弱者か分かった。この学園に入学する時点で、普通の生徒など一人もいないのだと。なんとか相手方の情報を抑えなければ、授業の一環とはいえ、多少の対策を練らないと最悪の事態が起きる。
「その、ごめん華園さん。ゴサンケについて、基本的な情報を教えてくれないか?やばい組織か何かか?」
「下の名前で良いわよ。御三家って言うのは、代々『召喚騎士』を輩出している3つの名家の事を言うの。『獅堂』『篠亀』『双鳶』、この家系の宗家と分家を総称して御三家というわけ。召喚騎士って言うだけ、小さい頃から様々な剣術の英才教育を受けているからその点に関しては他の追随を許さない程長けているわ。」
召喚士界隈では常識事らしい。
后はつらつらと喋り、そして続ける。
「彼らは齢14を迎える年に召喚獣を与えられるわ。この学園の入学式で皆が召喚獣を授かる1年以上前から召喚獣との連携を深めているわけ。そして貴方が御三家から絡まれた後、部屋割りを確認したわ。その御三家全員が固まってる訳。完全に想像だけど、大人か何か別の力が働いて、その様な部屋割になったかもしれないわ。天宮君、今回の件、ことの重大さが分かったかしら?」
奏は后の方を首だけ向けたまま、目を逸らした。昼間突っかかってきた二人の男子生徒は、まさかの御三家の人間だった。実際聞いただけで、手合わせもした事が無い上に、奏自身は戦闘経験も技術も御三家とは比べものにもならないはず。
岬が后に続いて喋り出す。
「そ、そんなに気を落とさなくても大丈夫だと思うよ。空木君、207号室のメンバーで他に何か情報は無いかな?私もこの業界については、そこまで情報載ってるわけじゃ無いし...。今の話を聞く感じ、空木君と華園さんはそういう事情に詳しそうだから、もう少し教えてくれる?」
岬は自室からノートとペンを取り出した。
―しばらくして
「...なるほど、彼らの属性と御三家の戦闘スタイルからして...ふむふむ...。いや、これは...こっちかな?あーでも、こっちの方が被害が少ないかも...うーん...よし!」
岬はノートを広げて綴と后から得た御三家の情報を書き留めた。207号室のメンバー、属性、召喚獣の名前、武器...。
「私は『双鳶 霹』さん、華園さんは『双鳶 靂』さん、御三家の双鳶家の双子姉妹を相手にお願いしよう。どちらも女の子だから、何かとフェアかもしれないね。空木君は『篠亀 箒』君、天宮君は『獅堂 霞』君だね!楽しみだね!」
そして、新しいページをめくり、何やら殴り書きを始めた。結構筆圧が強めで、文字の上から何重にもなぞる。
(彼女、凄いわね...。確実な情報だけでなく、憶測の域の要素も考慮してここまで作戦を構築できるなんて...。唯の入試上位だけじゃない、現状把握能力と情報精査能力も凄い...。地頭が良いのレベルを超えてるわ...。)
「作戦名は『なるべく怪我せず怪我させない作戦!』」
凄いドヤ顔で他の3人の顔を見る。
沈黙が走り抜ける。
綴が口を開く。
「凄そうじゃん!コレなら勝てる!御三家と訓練出来るんだ、コレはまたと無いチャンス!腕がなるよ!」
(はぁ...いきなり同級生と喧嘩か...作戦名も良く分からんし...)
綴は目を光らせて岬を見る。それとは対に、奏の表情が曇る。岬が書いたノートを何度読み返しても、『天宮×獅堂』と書いてある。特に力を入れて書いてある...見間違えでは無い。
綴と目を合わせた岬はエヘヘ、と少し照れ臭そうにはにかんだ。
(この班、本当に大丈夫かしら...)
后は他の3人の様子を俯瞰的に見つつ、不安を積もらせていった。