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2-1話_Prominence

お盆で太りました


「...」


日はすっかり傾き、涼しい風が部屋の中を吹き抜ける。

松の木目調のダイニングテーブルに生徒が4人座っている。

まるで、通夜の時の静けさのようで、壁掛けの時計の秒針の音が鮮明に聞こえる。


沈黙を破る様に、とある女子生徒が口を開いた。

明るい夕陽色のボブヘアーの彼女は、向かいに座る奏をチラチラと心配そうにみている。


「ま、今日は...ね?色々あったけど、コレからもこの4人で授業頑張っていこうよ!ね?ね?私班長とかリーダーとか向いてないから、えーっと...誰かに頼んじゃおっかな!ウツキ君...とかどうかな...?」


その女子生徒は隣に座る男子生徒に目配せした。『ウツキ』という名の男子生徒は早速制服を着崩し、パーカーの上にブレザーを羽織っている。パーカーを深く被る彼の顔はあまり見えない。


「ども、『空木 綴(うつぎ つづり)』と言います。綴って呼んでね。よろしく〜。でも俺もリーダーとかそういうの性に合わないからパスでいいよね?...てか、言い出しっぺのアイマさん?聞くところによると、中学時代では1年生にして生徒会副会長を勤め、入試の筆記試験も5本の指に入るって噂も有るし、アンタがやった方がいいんじゃないかな?」


ツラツラと、息継ぎもしないまま言葉を発し、彼は彼女を突き放した。またしても沈黙が訪れた。


-遡る事数時間前


-1年D組教室


御手洗先生は少々疲れた様子で教壇の前に立っていた。教室の生徒の机も、何席か空いている。そう、屋内運動場での騒動の最中、奏のクォーツが放つイデアの影響で体調不良を起こした生徒は医務室に運ばれていた。


「えーそれでは、コレから部屋分けの発表をする。と言いたいどころだが、不在の生徒もいる為、教室前の掲示板の張り出しておく。各自確認して、寮に移動する様に。」


御手洗先生は手元に書類をペラペラとめくる。何枚かのペースで難しい顔をしている。


「保護者の方々はコレにて解散となります。お子さんと暫く会えなくなりますので、宜しくお願い致します。しかし1ヶ月弱したら大型連休も有りますし、その約3ヶ月後には夏季休暇も始まります。今生の別れという訳でもございませんので、ご安心下さい。」


教室の後ろの方や廊下にいる保護者は心配そうに我が子に目を配っていた。奏の母親も寂しそうな表情をしていた。



御手洗先生はチラチラと腕時計を見る。時間を気にしているのだろうか。


「ではコレにてホームルームを終了します。保護者の皆様、改めて、ご入学おめでとうございます。えー、ではこの後緊急職員会議があるので失礼します!」


御手洗先生はそそくさと教室を後にした。保護者のもとに駆け寄る生徒もいれば、中学からの同級生か定かではないが、すでに生徒同士で歓談している様子もあった。


(...完全にコレはやっちまったヤツだ...!逆高校デビューってヤツなのか...ぼっち確定か...それとも最悪いじめに?)


奏は頭を抱える。周りの様子を伺いつつ、ホームルーム時に配られたプリントや、教科書を整理していた。席を立ち、廊下に張り出されているであろう寮の部屋割りを確認しにいくタイミングを計っていた。早めに自室に逃げ込みたい。


「おい。」


隣の男子生徒が声をかけてきた。獅子のタテガミの様な黄金色のメッシュが黒髪に入ったオールバック。頭部の頂点から襟足にかけて金髪の占める割合が多くなっていく。綺麗な緑色のクォーツがピアスにぶら下がっている。おそらく入学前から召喚獣を所持していたのであろう。

彼に対して声をかけて来たという優しい表現は間違っているかもしれないが、奏と友達になりたそうな雰囲気では無いのが声色から察する事ができた。


「お前無視すんな!」

「『カスミ』絡むなって...すまんな天宮、こいつ友達少なくてファーストコンタクトの距離感がゼロ距離なんだ。こいつ天宮と友達になりたいってさ。」


少し荒ぶった声は奏の真横から正面に回り込んできた。

声をかけてきた生徒は『カスミ』という名前の様だ。

そしてもう一人、その取り巻きの様な、男子生徒が彼を落ち着かせようとする。


「お前は黙れ『ケイ』。」


その取り巻きの男子生徒は『ケイ』呼ばれていた。ほぼスキンヘッドに近い髪の短さ。首掛けチェーン付きの銀縁のアンダーリムレスグラスは知的なイメージに加えて、少しヤバそうな空気感を漂わせている。チェーンにはクォーツと思しき装飾がワンポイントで施されていた。彼も所持済みだと見て取れる。類は友を呼ぶというのだろうか。強面の友達は強面である。


「お前、班対抗の実技実習の時俺の班と手合わせしろ。拒否権は無い。逃げるなよ。」

(!?)


教室が少し騒ついたのを肌で感じた。

他の生徒のヒソヒソ声が嫌でも耳に入ってくる。


「だってあの二人って...」

「あの不良達とは同じ部屋になりたく無いわよね...」

「例の男子に喧嘩売ってるのヤバすぎ...」

「実技実習って事はほぼ決闘じゃん...」


奏は居た堪れなくなった。しかもこの二人、揃って入学前から召喚獣を所持している。ただものじゃ無いのは確かだ。彼らに返す言葉を慎重に選んだ。どう言ったら事が穏便に済むのだろうか、と。


(受けて立つ、そっちこそ逃げるなよ...は売り言葉に買い言葉だな...。てか名前は何?...コレは相手を刺激しそうだ...。よし...)


奏はカスミの方をじっと見る。なるべく目を逸らさない様に。そして、奏が思う、この状況で一番無難な言葉を発した。


「俺も、君らとは仲良くなれそうだ。」

シルバーウィークの旅行で太るために、今から痩せます

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