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短編集

もういっそこのまま

作者: 秋川千夏

大好きな人が消えてから、私は浮かれた街並みの中、1人でイルミネーションを眺めていた。


本当は大好きな人が隣にいて、たあいのない話をしながら2人で眺めるつもりだった。

でも、彼はクリスマスイブの日、私を残して消えていった。

別に、死んだとかじゃない。ただ、彼はこの街を出て行っただけ。


もう真夜中もいいところなのにイルミネーションと、その周りを囲む眩しいくらいに飾られた街路樹を私を含め多くの人が眺めている。


ある人は家族と、ある人は友人と、またある人は恋人と、みなそれぞれ誰かと共に眺めている。

そんな中、私は1人寂しく、ただ1人の愛しい人を思い、小さくため息をついた。


「君に、クリスマスプレゼントとして、これを」


ふと私の近くで、1人の男性が彼女さんと思わしき人物に指輪を渡した。

彼女さんは驚きのあまり目を見開き、口元を手で押さえて固まっている。


「僕の人生を全て君にあげるから、君の人生も、僕にくれないだろうか」


男の人はそんな一言と共に片膝をつき、彼女さんのすぐそこまで指輪を近づける。

彼女さんはそんな姿を見て、幸せそうな笑みを浮かべそっと指輪を手に取った。


「あたりまえじゃない」


指輪を受け取ると同時に彼女さんがつぶやいた一言を合図に、周りの人は一斉に拍手をした。

私もそれに乗り拍手をし、一応祝っているふりする。


ただ本当は、自分の目の前で1組のカップルが新たな夫婦になる瞬間を、羨ましく思ってしまう。

もし彼がまだここにいたら、この拍手を浴びるのは私だったのかもしれない。

そう思うと、妬ましさすら覚える。


スマホを見ると、あと少しで25日になるところだった。

それと同時に友達からメールが来た。


内容はこうだった。


「ねぇあんた、そろそろ新しく恋でも探したら?なんなら私が男は紹介するし、明日やる予定の合コンにでもきたら?」


私の友達は、たまにこういう話を持ちかけてくれる。

でも、私はいつもそれを断っている。もちろん今回もだ。


最初は、新しい恋を探そうと、彼のことを忘れようとしたこともあった。

でも、その新しい男とのホテルで、大人の階段をまた一つ登ろうとした時、私の頭の中に、ある考えがよぎった。


このまま、この人と残りの人生を過ごすのも、悪くはないのかもしれない。

でも、何年も何年も思い続けけていた彼を、本当に忘れてもいいのだろうか?

こうした生活中、彼と過ごした時間を忘れてしまってもいいのだろうか?


忘れてしまった後の私は、辛くはないのだろうか?

このまま残りの人生を今までの全てを投げ捨てて過ごして、本当に幸せになれるのだろうか?


この考えが出た時、すでに私の中で答えは決まっていた。


忘れていいわけがない。忘れられるわけもない。忘れた後、辛くないわけがない。幸せになれるはずもない。

そうなるくらいなら、もういっそこのまま一生彼を引きずるのもいいかもしれない。

いや、そうする方が正しいと、わたしは思う。


初めてがなくなる直前、私はその人にストップをかけた。

事情を話してみる。怒られると思っていた。


でもこの人は「そっか…じゃあ、この関係ももう終わりだね」と寂しそうに窓の外を眺めただけだった。

結局、あの後は何もせず、お互い沈黙の時間を過ごしホテルを出た。

罪悪感がなかったわけじゃない。けれど、その罪悪感以上に私は彼を思い続けたかった。


私はそんな昔のことを思い出す。

私は、中学時代からずっと思い続けていた彼の姿をまた思い出す。

片時も忘れたこともないあの姿。だからこそ、彼がいなくなってから四年経った今でも、見間違うことなどなかった。


いい加減帰ろうと立ち上がり、後ろに振り向いた瞬間目に飛び入ってきた、1人の男の姿。

四年前とほとんど変わらない姿。


私は、驚きのあまり声も出なかった。

ずっと思い続けた、大好きで、愛している彼が、私の目の前に立っていた。


「まだ、僕が君を好きでいる権利はあるかな?」


四年前のいなくなる直前の彼の顔とは、ずっと違っていた。

あの時は、寂しそうで、辛そうで、泣きそうだったけれど。今は、どことなく嬉しそうで、どことなく幸せそうな顔をしていた。


その姿に、ほんのり浮かべた笑顔に、私は嬉しさのあまり涙をこぼす。

声がまだ出なかったけど、なんとか体を動かして、頷いてから彼に飛びつく。


彼に抱きついているから、彼の顔は見えない。けど、彼から聞こえる咽び泣く音が、私と同じ気持ちなのを教えてくれる。

私はさらにキツく抱きしめ、もう2度と離れないよう力いっぱい抱きしめた。

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