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 発光体は柔らかい光を放ちながら俺の周りをふわふわと飛んでいる。

 俺がこの世界に転移した時に、大樹と共に寄り添ってくれた光の玉もこんな感じだった。明確な違いは大きさくらいか…こっちのほうがひと回りデカい気がする。

 そういえばあの時は光の玉が俺の中に入ったふうに見えたが、今までこれと言って何も無かったので多分見間違えたんだろう。


(…というか、ぶっちゃけコイツはなんなんだ?俺が知らないだけでこの世界の生き物とかなのか…?)


 なんとなく発光体に向かって手を伸ばしてみれば、俺の手のひらにちょこんと乗ってきた。手、濡れててごめんな。


(あん時の玉もだけど、人懐っこいというかなんというか…)


 自我を持っているふうに見えるので、やっぱり生き物なのか?

元の世界でもホタルなどの光る生物はいたからありえなくはない。


(あ。そういえば俺、鑑定できるんじゃん!)


 短期間で色々ありすぎて、生えた能力の事を忘れてたわ。

 早速鑑定してみようと思ったら、それを察したかのように発光体は俺の手の上から飛び立った。

そして突然ブワッとバランスボールくらいの大きさになったかと思ったら、今度は一気に収縮してそのまま消えてしまった。


〝 パチッ 〟 


(…ん?)


 発光体が消えた瞬間、俺の中で何かが爆ぜたような気がした。

ベタだがつい首を傾げてしまう。

 湯の中で揺らめく自分の体を見るが、特に変わったところはない。湯船から立ち上がってみたが、やっぱり異常はなさそうだ。

 最近『気の所為』が多い気がするが、今回もやっぱり気の所為なんだろう…うん。

気を取り直してそのまま湯から上がり、洗い場で髪と体を洗ってから脱衣場に戻った。

 勿論戻る前には浴場の整理整頓清掃を遂行する。この後領主様御一行が入浴予定だからだ。


 服を着た後、持ち込んだ荷物の整理を済ませて手持ち無沙汰になる。

 御一行が戻ってくるのはもう少し後だと思うが、彼らが脱衣場でわちゃわちゃしているところに居るのは遠慮したい。

 かと言って、野営テントにお邪魔させてもらうのも気が引ける。


(よし、散歩でもして時間を潰すか!)


 今夜は月夜なのでランタンを持っていけば明かりは十分だ。

 宿屋にいるときは、女将さんやご主人が心配するので夜に出歩くことはなかったから実はちょっとワクワクしている。

序でにフラワースタンド用の花でも見つけられたら御の字だ。

一応外出している旨の書き置きを脱衣場に残してから、自前のランタンを持って外に出た。


 温泉の周辺は篝火のおかげで結構明るい。

 まずはこの近辺を散策しつつ村へ戻り、それから向こう側の森を歩くルートで行こう。

早速村へ続く一本道から逸れて、道沿いの森へと足を踏み入れた。

温泉が湧く以前から、森のめぐみ(食料)目当てで村の人が出入りしていて、危険視するような大型の動物は居ないと聞いている。

 月明かりの下、元の世界で流行った月をモチーフにした歌を口ずさみながら奥へと歩いた。


「♪〜〜…ん?」


 なんてことだ。

 ランタンで照らされた数歩先の地面に『いい感じの棒』を見つけてしまった。

男のロマンの欲求には抗うことはできず、俺は棒を拾う。長さ、重さ、太さ、実にいい感じだ。

 俺は嬉々として棒を振り回しながら道なき道を進んでいく。

すると今度は根元に何かが生えている木々が目に入った。遠目で大体の予想はできたが、実物を見て俺は絶句した。


(いや、おかしいだろコレ…)


 花の名前は詳しくないが、ユリやバラ…更には胡蝶蘭、その他名前は分からないが見たことのある花が群落し咲き誇っていた。

元の世界じゃこの状況はまずあり得ない。異世界すごいわ…。

 ともあれこれだけの花があれば、かなり立派なフラワースタンドを贈れそうだ。

 俺はアイテムボックスから携帯用のハサミを取り出して、一輪ずつ丁寧に摘んでいった。勿論花はすぐにアイテムボックスに仕舞い、劣化するのを防いでいる。


(あとはフラワースタンドを調達だな。明日、手先が器用な村の人を当たってみるか…)


 花を摘み終わり、足取り軽く散歩を再開する。


 この時の俺は、この花が一騒動起こる原因になるとは全くもって思っていなかった。


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