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 おばあさんと一頻り世間話をしてから、頃合いを見計らって御暇させてもらった。


 さて、次は村長宅だ。

今から村長に薬を届けて宿に戻れば、丁度いい時間だろう。

 絶品ニョッキに思いを馳せつつ村長宅に着いたのだが、家の前には見慣れない立派な馬車が止まっていた。


 一瞬ウィル様達かと思ったが、王太子の体で来るならもっと豪華絢爛な馬車で来そうなものだ。

馬車の近くに屈強そうな人達が馬と共に待機しているのを見ると、恐らく護衛だ。

 どこぞのお偉いさんが温泉目当てに来村したってところだろうか?


(お客さんが来てそうだし、薬は午後でいいか…)


 踵を返しそうとした時、家のドアが開いて中から出てきた村長と目が合ってしまった。

 その瞬間、何故か悪寒とともに食堂での会話を思い出した。


(なんか…フラグ立ってないかこれ?マズったな…さっさと帰ればよかった)


 嫌な予感がしたが無視するわけにもいかず、ペコリと頭を下げると「ちょうど良かった」と村長がちょいちょいと俺に手招きをした。


(めっちゃ行きたくねぇ…)


 そう思うが、元々薬の配達を頼まれていた手前、断る理由がない。

 俺が村長の傍まで行くと、家の中から50代前後の身なりの整った筋骨隆々なおっさんが出てきた。


「領主様、こちらが先程お話させていただきました薬師、イツキ・サトー様です」


「ほう…貴殿が噂の薬師殿か」


(げ、この厳ついおっさん領主なのかよ!それに噂って何??村長この人に何言ったんだよ!つかフラグぅ…)


 脳内がグルグルしているが、まずは跪くのが先だ。領主といえばお貴族様なのだから。


「お初にお目にかかります。この村で一月ほどお世話になっております、薬師見習いのサトーでございます」


「薬師殿、頭を上げてくれ。遠縁ではあるがバーデッド家の令嬢が世話になったと聞いている。恩ある薬師殿に膝はつかせられんよ」


 どうやら村長は宿屋の一件を話したようだ。


「とんでもございません。見習いではございますが薬師の端くれとして、ご令嬢には当然のことをしたまででございます。

ですので私は領主様にお気遣いいただくような者ではございません」


 宿屋の女将さんが体調不良のアメリア様を気遣って俺を呼び、不調に合った薬をアルバン様を通じて彼女に渡しただけだ。

 この場合恩があるのは俺ではなく女将さんだ。

 とにかく、領主には全力で “俺は平凡極まりないただの薬師見習いですよ〜” とアピールしておいた。


 このハジメリ村はジオニール王国の北西の端に位置していると聞いている。

王都からかなり離れていて、言っちゃ悪いが田舎の領地をアメリア様の親戚が治めているとは意外だった。


(そういやこの地は隣国に接しているとも聞いたな…)


 ラノベなんかだと、確かこういう場所の領主の事を『辺境伯』というんだっけか?

 他国からの防衛という重責を担っているから、王家が信頼を置く家門が治めるはずだ。

なるほど…。そうなるとアメリア様の親戚なら納得だ。


「ほら、そろそろ立ってくれ。薬師殿は村長に用があったんじゃないのか?私に構わず済ませるといい」


「サトー様、領主様もこう仰っていらっしゃるから…」


 二人から言われて頃合いかと思い、俺は立ち上がった。

 この領主、さてはいい人だな。

お言葉に甘えてカバンから頼まれていた胃薬を取り出して村長に手渡した。

 俺のカバンを珍しそうに見ている領主にヒヤヒヤしたが、何も言われなかったのでホッとする。

 今は万能薬になってしまった胃薬だが、この薬は俺もストレス性の胃痛になった時、大変お世話になった。

万能薬の服用時点は分からないので、胃薬にならい食間に飲むように説明しておく。

よし。村長への用事は済んだので、これで宿屋に戻れる。


「私の用件は以上となります。お二人のお邪魔してしまい申し訳けございませんでした。

それでは領主様、村長、私は失礼させていただきます」


「ああ。ま た な 、薬師殿」


「サトー様、薬を届けていただきありがとうございました」


 俺は「では」と軽く頭を下げてから、二人に向かってを満面の笑顔を向けていた。

社畜時代に身に付いた立ち振舞いが、無意識に出てしまったようだ。

 ピキッっと固まり惚けている領主をみてやらかしてしまったことに気付く。


(まったく厄介だなコレ!)


 正気に戻った領主に何か言われるもの面倒なので、俺はサッサとこの場から退散した。

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