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 村の入り口付近でウィル様と別れてから宿屋に戻ると、食堂が終了しているにも関わらずご主人が軽食を用意して待っていてくれた。

「明日の仕込みをしていたついでだ」とスマートな気遣いが嬉しい。

食欲がなかったはずなのに、ご主人特製のチキン(っぽい)サンドと熱々の野菜スープを目の前にすると途端にお腹が空いてきた。

 ありがたく食事を頂いた後に自分の使った食器くらいは洗おうとしたのだが、ご主人に「先生にそんな事はさせられんよ」と断られて宿泊部屋へ追いやられた。

そういえば結局お土産は買えず仕舞いだった。近々王都へ行く機会はあるので、次こそは忘れずに買ってこよう。

 怒涛の一日だったせいか、部屋へ戻るとドッと疲れが襲ってきた。体ではなく精神的に…。

 寝る前に王国へ納品する解熱鎮痛薬を用意しようと思っていたが、明日にまわすことにして俺はベッドにダイブした。



「サトー様起きてるかい!朝ごはんだよー!」


 翌朝、ルーティンの女将さんのモーニングコールで目が覚める。部屋の窓からは朝日が差し込んでいて今日も天気は良さそうだ。

 身支度を整えて食堂に行くと当然のようにジャックとカイロがいて、彼らと共に朝食をとった。

今此処にジャックがいるということは、昨夜は高貴な方々とトラブルは無かったようだ。クロックマダムの目玉焼きに齧り付いているジャックに、念の為昨夜のことを訊いてみた。


「昨日の夜は遅くまで見張りをやってたのか?」


「いや、そうでもない。サトー様と別れた後に小公爵様が冒険者を連れてきて、俺らと見張りを交代するように言われたんだ。

あ、そういやサトー様もその冒険者に会ったんじゃないのか?」


「あ、ああ、会ったよ。その時に貴族に依頼されて来たとか言ってたからそのまま行かせたけど、ジャック達の見張りの交代要員だったんだな」


 俺は目玉焼きにナイフを入れながら話を合わせつつ、何事も無かった事が確認できて胸を撫で下ろした。

ちなみに村長は帰り際に、アルバン様から『後日温泉について話し合いの席を設けたい』と言われたそうだ。

恐らく俺がウィル様に提案した件についてだと思うけどレスポンス早すぎ。

まぁ、トップダウンだから当然と言えば当然か。


「まさかこの村に公爵家の人が来るなんてなぁ…。まぁそんなわけで親父が胃痛に効く薬が欲しいってよ。サトー様、お願いできるか?」


 ジャックが苦笑しながら村長からの伝言を伝えてきた。

 うん、村長の気持ちは痛いほどよく分かる。俺も会社員時代は上司に呼び出されると胃がキリキリしたものだ。

 村長の胃を気遣って、話し合いの場に王太子殿下が同席する事はここでは黙っておく。


「村長さんも大変だな。他にも薬を届けるところがあるし、用意ができたら持っていくよ」


「そうか?取りに来るつもりだったけど、それならお願いしていいか?親父にもその旨伝えとく」


「了解。そういえば小公爵様達は還ったのか?」


「あぁ…なんか明け方に使いの人がうちに来て、検証が済んだから温泉は通常営業に戻していいって言ってたから多分そうじゃないか?

昨日温泉を早仕舞いした分、今日は開場を早める事にしたから俺とカイロはこの後様子を見に行くつもりだ。

いつも以上に客が多いだろうから手伝う羽目になるかもな…」


 すでにここの客達には伝えたようで、皆食事もそこそこに食堂を後にしていた。

 そんな周りの様子からのんびり朝食を食べている場合ではなくなったジャックは、「お前はゆっくり食べろよ」とカイロに言いつつ、自身は朝食をかき込んでいた。どうやら一足先に温泉に行く気らしい。

 しかしカイロはジャックと一緒に行きたいようで「僕も行く」と言い、パンやサラダを口いっぱいに詰め込んでスープで流し込もうとしている。

頬袋パンパンにしている小動物のようで可愛いが喉に詰まらせやしないだろうか?

 そんな俺の心配をよそにカイロは兄貴顔負けのかっ込み具合で瞬く間に朝食を完食してしまった。お前らフードファイターかよ・・・


「女将さんごちそうさま、んじゃサトー様お先」

「ごちそうさまでした!サトー様またね!」


「二人ともがんばってな~」


 慌ただしく出ていく二人を見送った後、俺は食事を再開した。

二人がいなくても顔見知りから話しかけられるので一人寂しく食事…というのには縁遠い。

 それに今日は会う人会う人「サトー様が居なくなると寂しくなるよ」と言ってくるので、俺の表情筋は愛想笑いで固定されていた。

 この分じゃ村人全員が、俺が村を出ることを知っていそうだ。


「そういや温泉…いや、この村の功労者のサトー様が村を出る前に、領主様から褒美の一つもあっていいんじゃねぇか?

村の温泉の事は領主様の耳に入ってねぇのかねぇ?」


「いやいや村長のことだ、いの一番に領主様に手紙を送ってんだろ。

この村から領主様の街までじゃあ、手紙が届くのにも日が掛かるってもんだ。それに、もしかしたらこの村へ向かってたりすんじゃねえか?」


(ちょ、フラグが立ちそうな話題はやめて!)


 功労云々については、温泉は自然現象なので個人がどうこう出来た範疇ではないという事、そして自分は薬師の端くれなので体に不調がある人を診るのは当然の事だからとやんわり否定しておいた。

この村の人達は俺を過大評価しすぎで困る。

それに本当の功労者は光属性持ちの女性である聖女だろう。


 それにしても領主様か…。


 右も左もわからないこの世界で、貴族との()()を作るのは有益かもしれないが、正直今は王太子殿下とのアレコレでそれどころではない。

領主と関わることは極力避けたい。


(そういや領主様とやらをすっ飛ばしてウィル様に温泉の後援頼んじゃったけど大丈夫だったんだろうか…?

 身分は当然領主よりも王太子のほうが高いけど、王族が領地内の出来事に関わるのどうなんだ?)


 今までこの国の身分制度など気にしたことはなかったが、ウィル様達と関わる以上、一度キッチリ確認しておく必要がある。

まずは村長に薬を届ける際に、領主様について教えて貰うことにしよう。

善は急げと俺も残りの朝食をかき込んで、席を立った。





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