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 温泉にウィル様の名を掲げる事に了承をもらい、テンション上がった俺は、試作品としてアイテムボックスに入れていた果実酒を湯舟酒に見立てて振る舞った。

 ちなみに村には氷というものがないので飲物は全て常温だ。今では慣れたが偶にキンキンに冷えたビールが恋しくなる。

冷属性だか氷属性だかが込められた魔石があれば氷が作れるらしいので、『万能薬』のお金が入ったらレオンに魔石を扱っている店を紹介してもらおう。


 まぁそれはさておき、当然俺もウィル様達と一緒に果実酒を飲んでいるが、流石に温泉に入りながらだとアルコールのまわりが早い。

普段の飲酒時よりも饒舌になっている自覚はあったが話す内容には注意を払い、余計なことを言わない理性はあった。


 そんな中、俺がふと漏らした『日本酒』についてどんなモノなのかをきかれた。

 まさに願ったり叶ったり。

ここぞとばかりに『米』の話をして、その存在を聞いてみたけれど結果は不知。

ガックリ肩を落とした俺を不憫に思ったのか、ウィル様は機会があれば貿易商人にきいてくれると約束してくれた。

 ホント有難い。念押しの意味を込めて、後日俺のできる範囲でお礼の品(賄賂)を贈っておこう。


 その後も色々話をしたせいか、どうやら長湯をしてしまっていたようだ。

会話が一段落したところで、一瞬頭がクラっとする。


(あれ…?これもう出たほうが良さそうだな…)


 体の違和感からすぐに浴場から出る選択をした俺は「湯当たりしそうなので…」と、ウィル様に退場したい旨を伝えたのだが、返事がない。

視線は俺に向けているが、どこか上の空だ。

のぼせているようには見えないが大丈夫なのか…?

 高位な人を差し置いて勝手に湯舟に入った前科があるので、今回はきちんと了承を得てから…と思ったのが裏目に出てしまった。

この間も確実に俺の体温は上がっていく。


「ウィルさま?」


「あぁすまない、少し考え事をしていた。アルバンの検証は済んでいる、貴方が上がるのなら我々も一緒に上がろう」


 そう言い終わるやいなや、ウィル様が湯からザバッと立ち上がった。続いてテオ様、アルバン様と立ち上がったので、慌てて俺も後に続く。

 それが災いしたのか、急に目の前が真っ暗になりグラリと体が揺れる。完全に湯あたりしたらしい。


 ( あ、倒れる… )


 立ち眩みは思ったより重度でマズい状態だ。このまま湯の中へ卒倒ダイブかと思いきや、近くにいたウィル様が俺の体を支えてくれた。

 なんとか声を絞り出して謝罪したつもりだが、朦朧としていてうまくできたか自信がない。


「大丈夫か?とにかく湯から出るぞ。テオバルドはローブを、アルバンは外の者達に先触れを頼む」


 一人で立つことがままならない俺を、ウィル様は抱き留めていてくれた。

必然的に素肌が触れ合うわけだが、熱があるせいなのか人肌が心地いい。

だが、現状では体調が良くなる事はなく、ウィル様の腕の中で俺の意識は徐々に遠のいていった。





 意識がはっきりしてきたのは、おでこに置かれた濡れタオルを取り替えてもらい、少し経った頃だった。


(あぁぁ…完全にやらかしたぁ……)


 体に籠もっていた熱はだいぶ引いていた。

 薄っすら目を開けると、見たことのある天井が見える。どうやら脱衣所の床に寝かされていたらしい。まぁ、体を冷やすにはうってつけと言える。

 俺は体調を確認しつつ、ゆっくりと上半身を起こした。


「イツキ、起き上がって大丈夫なのか?」


 頭上から声がして、斜め上を見上げるとウィル様と目が合った。この姿勢でも頭痛や目眩は無いので、もう体調の方は問題なさそうだ。


 辺りを見回すと、脱衣場の出入り口付近でメイドや護衛の人達がピシッとした姿勢で待機していた。

少なからず彼等にも迷惑を掛けたのは間違いない。兎に角、謝らなければ…。

 俺は体にかけられていたローブをうまい具合に身に着けてから起立し、ウィル様達に頭を下げた。


「お陰様で体調は回復致しました。この度は王太子殿下、側近の御二方には多大なご迷惑をお掛け致しました事、心より陳謝申し上げます。

また、お付の皆様方にも大変なご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」


「貴方が謝る必要はない、頭を上げてくれ。貴方の話に夢中になり、無理をさせていたことに気付かなかったのだ。長湯をさせてすまなかった」


「日頃鍛錬している殿下やテオバルド、私とは違い、サトー殿は常人なのだ。気に掛けるべきだったの申し訳なかった」


「イツキ殿に非はありません。これは殿下と側近である我々の総意です。宜しいですね?」


 テオ様の “宜しいですね” は、俺に向けたのではなく、配下の方々に向けてのようだった。

彼らは了承の一礼をして再び待機の姿勢に戻る。心做しか俺を見る目が、初めて紹介された時とどうにも違う気がするのは何故だろう…?



「本来なら私かアルバンが貴方を運ぶべきところを、殿下が自ら()()()されてこの場に連れてきたのです。それによりイツキ殿の立ち位置が認識されたのでしょう」



俺が感じる違和感を察したのか、テオ様がその原因となりそうな出来事を教えてくれた。

そりゃ、『万能薬』の所持者だから重要視されるのは分かるが、何故姫抱き??

肩に担ぐとか、背負うとか他に方法があっただろうに、よりにもよって姫抱きとは…。


そもそもの原因は俺にあるのだが、姫抱きされた屈辱を感じるとともに、どうにも頭を抱えたくなった。


イツキのアイテムボックスには旅の準備として日用品等が詰め込まれています。

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