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 俺の祈りが通じたのか、特に俺の魔力に興味を持たれることもなく事情聴取(はなし)は進んでいく。


 あのボロい教会で生活している子ども達はマットやユウを含めて6人。共に生活している大人はおらず、数ヶ月に1度、神父が常備野菜やパンなどを持ってきていたらしい。だがその量はもって1ヶ月程度だったという。

後は近所からの差し入れや、マットが顔見知りの店の手伝いで貰う駄賃、ちびっ子の花売りでなんとか生活していたようだ。

 マット達はそれが()()()()であり、不定期な神父の来訪を心待ちにしているという。

 それを聞いたウィル様達は険しい顔をしたが、子供達の手前直ぐに表情を戻した。

子供達は純粋で疑うことを知らないのだろう。

だが、国にはこういう所への大まかな支援の報告は上がっていそうだ。ウィル様達の様子から…まぁ、大体予想はつく。


(十中八九どっかで中抜きされてんだろうなぁ…)


異世界…いや、元の世界でも多分あるあるだ。

ただ、この国にはそれをよしとせず、尚且つ正せる立場の人達がいる。今後関係機関に調査が入るのだろう。


 子供達の生活状況を一通り聞き終えて、話はいよいよあの光の件に移った。

ウィル様が最初に訪ねたのは教会への訪問者、特に女性の訪問者についてだった。恐らく例のチートな女性が光に絡んでいると考えているのだろう。


「ここ最近、君達の教会に見たことのない女の人が来なかったか?」


「女の人?うーん…近所のおばちゃんとかねーちゃん達はたまにお祈りに来るけど…。あ、そういえばこの前見たこと無いおばちゃんが来たっけ。食べ物をくれたいい人!」


「おばちゃん…だと?まあいい、兎に角どんな女性だった? 容姿は? 髪の色は? 行き先など言っていなかったか? 正確には何日くらい前だ?」


「えーっと…多分10日前くらい? 別にフツーのおばちゃんだ、でした。なぁユウ、お前も会っただろ?」


「うん、寝てる僕の部屋にも来てくれました。確か髪は茶色で、顔は…普通?ちょっと僕にはわかりません。でもこっちのおじちゃ、じゃなくてお兄さんよりももっと年上に見えました。行き先は知りません」


「そう、か」と、何故かホッとした表情のウィル様の横で、複雑そうな顔をするアルバン様が少し気の毒だった。

子供は正直で残酷だ。笑。

 しかしながらチート女性がオバサマの可能性…考えたことなかったな。大体そういうのは妙齢の女性だと思っていたわ。

その女性に関してもう少し詳しく子供達に聞き取りするかと思いきや、ウィル様は別の事を質問していた。


「それで話は変わるが、君達の教会から光が出た時のことを教えてもらえるか?」


「えっと、俺がユウの口に薬を入れた時に床が光っ、りました。そしたらユウの上に水が浮かんで…イツキにーちゃんから部屋から出るように言われました」


「ごめんなさい、僕はその時の事はよく覚えてません。ただ目を覚ましたらイツキおにいさんがいて、僕を庇ってくれてました」


「そうか、わかった。ではこの質問で最後にしよう。

ユウの魔力発現とマットが飲ませた薬との関連も調べたい。どこから薬を購入したのか教えてもらえるか?」


子供達の話は俺がウィル様に話したものとほぼ一致していた。俺は何となくホッとする。

そしてマットはあの毒々しい薬は裏町の自称薬師から購入したと話していた。

それを聞いたウィル様はテオ様に目配せする。小さく頷いたテオ様が一旦部屋から退出してすぐに戻ってきた。

恐らくここ数日で悪徳業者は捕まるだろう。


「二人共ありがとう。レオン、宿のものを呼んできてくれるか?この子達を部屋まで案内させてくれ。

それからイツキ、君には話があるからこのまま残ってくれ」


 俺とレオンはそれぞれ返事をしてウィル様の言葉に従った。

子供達は教会の調査が終わるまでの2、3日間はこの宿に滞在するとのことだった。子供達にとっては束の間の夢の暮らしだろう。

すぐに覚める夢とはわかっているが、その間だけでもお腹いっぱいご飯を食べて温かい布団で眠ってほしいと思った。


 ◆


「さて、ハジメリ村へ向かうとしよう」


子供達が退室した後、ウィル様が事も無げにそう言った。先程子供達から聴取した件を元に、仕事をしなくてもいいのだろうか?

かと言って、俺を王都に放置されても困るが…。


「えっと、私は村へ送ってもらう立場なので構いませんが、女の人と教会の件はよろしいのですか?」


「ああ、探している女性と教会の光の関連を疑ったが、どうやら違ったようだ。

10日前の出来事なら、その時の女性はただの一般人と思われる。一応足取りを追って裏付けは取るつもりだがな。

それに教会には既に魔術師団の調査が入っている。今は調査結果が出るまで待つのが最善だろう。

私がハジメリ村へ行くのは、アルバンが温泉の検証の協力を我々に求めてきたからだ。行かないわけにはいくまい」


「いや、殿下それは…」


アルバン様が何かを言いかけたところで、ウィル様が物凄いわからせ笑顔をアルバン様に向けていた。

テオ様に至ってはアルバン様に向けて小さく肩を竦めている。

なんか色々と察してしまったが、俺は村に戻ることができればそれでいいので首は突っ込まない。それに温泉に『王太子殿下が入った温泉』という“箔”がつくのは歓迎だ。


 今日は俺にとって怒涛の1日だったが結果オーライだ。

すっかり日は暮れ、当初の待ち合わせ時間だった【6時】はとうに過ぎたが、今から村に戻れば食堂のご飯には有りつけるだろう。

帰る前に預けた荷物と衣服を取ってくる旨を申し出ると、何故かウィル様を残してテオ様とアルバン様は一足先に村へと転移してしまった。

それでいいのか側近達?


必然的に俺はまた“王太子殿下”のお世話になるらしい。

こういうお世話は臣下の役目のように思うのだが、この世界は違うのだろうか…?


「イツキ、もう行けるか?」


荷物を抱えて戻った俺にウィル様は声を掛けてくれた。

俺は「はい」と返事をすると、ウィル様は徐ろに俺を荷物ごと抱き込んでくる。

王都へ拉致られて来た時と同様の体制なので、この人が他人と転移する際のスタイルなのかもしれない。


(変わってるよな…)


そう思ったのと同時に目の前の景色は見慣れた村の風景に変わっていた。


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