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32 ウィリアム視点


 テオバルドが転移した先は、イツキが滞在している宿とよく似た造りの部屋だった。恐らくここも宿屋の一室だ。

イツキの一人用の部屋よりも広めな造りで質素なベッドが2つ、部屋の左右の壁にそれぞれ設置されていた。


「ここはコンウォリス家の息のかかった宿屋ですので、いかなる心配も無用です」


 テオバルドはそう言うと部屋から出るよう私とローガンを促し、一緒に宿屋の1階へ向かった。

1階に降りると入り口付近で清掃をしている男に声を掛けて、家紋入りの懐中時計を見せてから先刻の光について質問した。


「少し訪ねたいのですが、今しがたこの付近で正体不明の発光があったと思います。光の出所は判りますか?」


「はい、テオバルド様。恐らく光は街外れにある教会付近から発したと思われます。ここを出られて…というか、私がご案内いたしましょう。お急ぎかと思いますので屋根伝いでも構いませんか?」


「ウィル、ギルマス、構いませんか?」


「「 ああ 」」


理に適った提案なので断る理由がない。

了承を受け、男は私達を宿屋の屋上へと案内してくれた。そしてある一点を指差す。


「皆様、この先の城壁付近に見える尖塔が(くだん)の教会です。では参りましょう」


 そう言うやいなや屋根の上を颯爽と駆けていった。身のこなしからして王家の影と同じような類だろう。

私達も遅れを取らぬように後に続いた。入り組んだ道を進むのとは違い、ほぼ一直線なので予想以上に早く到着することができた。

 

 野次馬がいることを予想していたが教会の周囲には既に衛兵がいて、一般人を寄せ付けないようにしている。恐らくコンウォリス家の計らいだろう。

 宿屋の男に礼を言って屋根の上で別れ、私達は地上へと下りた。

 するとテオバルドが何故か後方を気にする素振りを見せた為、何事かと彼に尋ねた。


「テオ、どうかしたのか?」


「いえ、私の気の所為でした。気にしないで下さい」


 恐らく何かあったのだとは思うが、テオバルドがなんでもないと言うのだからそういう事にしておく。必要があれば改めて報告があるだろう。


 本題に戻り衛兵に状況を確認する。屋根から下りる際に認識阻害の指輪は外しておいたので、衛兵はすぐに返答してくれた。

 彼等が近隣の者に聴取したところ、目の前の教会から光が発せられたとの事だった。

見た所この教会はかなり老朽化が進んでいるようで、建物の壁には蔦がびっしり這い、敷地内は草木が生い茂っている。


 このような状態だが運営はしているらしく孤児も数名いるとの事だった。

 教会の運営は大半が献金や寄付で賄われるが、ここはそれが乏しいのだろう。

在籍している孤児の育成も気になる為、一度運営がどうなっているかを調べる必要がありそうだ。

 それは後日にするとして、とにかく教会内部を調べることにする。

孤児がいるのなら光の影響を受けているかもしれない。無事だといいが…。

衛兵達には一般人が近寄らぬようにこのまま待機させ、私達は教会の敷地内に足を踏み入れた。


 ( !! )


 その瞬間、私は魔力の暴走を感じ取った。テオバルドとローガンも然り。

どうやらここにいる孤児が魔力を発現したと考えられる。但し発現したまではよかったが、その力を制御しきれていないようだ。

その魔力から其処らの貴族の魔力持ちよりも魔力が高い事がわかる。奇っ怪なのはこれだけ魔力が暴走しているが、周囲のマナには乱れが一切ない事だ。


「テオ、これはあの光と関係あると思うか?」


「どうでしょう?」


「あんたら何呑気なこと言ってんだ!結構デカイ魔力だからこのままだと不味いぞ!!」


「「そのようだな(ですね)」」


 私はローガンに教会周辺の人々を避難させるよう命じ、テオバルドと共に教会内部へと走った。入ってすぐの礼拝堂には誰も居なかったが、横の扉を抜けると子どもたち数名が身を寄せ合っていた。


「あんたら誰だ!あいつの仲間か!?」 


「あいつ?」


「黒髪の、薬師の見習いの!」


年長と思われる男子が私に突っ掛かってくる。

その言葉に私はものすごく嫌な予感がして、思わず子供に問いただしていた。


「その人は今どこに居る!!」


「っ、そ、その、奥の部屋だよ、ユウの部屋に、いる…」


 男子は私の剣幕に慄いたようで言葉が尻窄みになる。

怖がらせて申し訳ないとは思ったが、今はそれどころではない。テオバルドに子ども達を任せ、私は奥の部屋へと走った。

秒で該当の部屋まで来たが、開け放たれた扉から室内の光景を見て私は言葉を失った。


 黒髪の人物が、寝ている子供を庇うようにベッドの上で覆いかぶさっていた。

 私が目を疑ったのは、彼らの上…空中で揺らめく大きな水塊だ。それは今も留まることなく大きさを増していっている。

水属性の魔力持ちの子は、魔力発現当初は精々がコップ一杯の水を出せる程度だと聞く。

明らかに常軌を逸した光景は私の判断を鈍らせていた。本来なら事が起こる前に適切な行動を起こしていたはずなのに…


   

  バシャアァァァーーーーーーン!!!!!



 目の前で前触れなく水塊が落ちた。

 咄嗟にベッドの上と私の前に障壁を張ったのだが、水塊の真下にいた二人には衝撃を和らげるくらいしかできなかった。

黒髪の人物はかなりの水圧をその身に受けたと思うが、体の動きを確認でき無事なようでホッとする。


「ウィリアム!!大丈夫ですか!!」


突然大量の水が部屋から流れ出てきたのだから誰しもが驚くだろう。テオバルドも例に洩れず焦ったように私に駆け寄ってきた。


「少し濡れた程度だ、心配ない。それより子供達は?」


「全員無事です」


「そうか、よくやった」


ふぅ…と、一息ついて室内に視線を戻すと、ベッドの上の二人は何やら話をしていた。

ドア枠に寄り掛かり彼らに話しかけるタイミングを図っていた時、黒髪の男が上半身を起こしてこちらを振り返った。


 やはりと言うべきか何と言うべきか…。

 そもそも何故貴方がここにいる?



「はぁ…正体不明の光を調べに教会に来てみれば…。イツキ…、これは一体どういう事だろうか?」



ふつふつと怒りが湧き上がるが、感情を抑える為に無理やり笑顔をつくる。

イツキにはそれが分かっているようで、私の表情を見て顔を引き攣らせていた。


 本当は今すぐ彼を問い質したい。


だが、濡れ鼠状態のイツキと子供をこのままという訳にもいかず、今はその気持ちを心の奥に押し込んだ。

そんな私の気も知らず、イツキはベッドから降りて「これには色々と理由がありまして…」と上目遣いで私を見てくる。


 この人は今自分がどんな顔をしているのかわかっているのだろうか?


 更には濡れて艷を増した黒髪から水滴が滴り、色をなくした衣服が体に張り付いて肌の色と体のラインを顕にしている。

それは男と分かっているのにかなり煽情的な姿だった。

私は思わず舌打ちし、身に付けていたマントでイツキの体を包んだ。


「え、えっと、…ありがとう、ございます…」


私の気遣いにイツキはヘラッと笑う。

その笑顔を間近で見た私は、不覚にも固まってしまったのだった。


誰かさんはアバタもエクボが発症しつつあります。

それから水の音のオノマトペは難しいですね…。

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