表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/64

31 ウィリアム視点


 父上、もとい国王陛下との謁見があのように波乱に満ちたものになるとは思っていなかった。

国宝級の“万能薬”の製作兼所持者故に、陛下をはじめ国の重鎮達に引き合わせておく必要があった。

 イツキは私との話し合いの中で万能薬を我が国に売ると約束してくれた。

私も王太子という地位に就いてはいるが、イツキをこの国の最高権力者である国王陛下に拝謁させる事により、彼が約束を反故にすることはまず無くなるだろうと思ったからだ。


…などと、もっともらしい理由を付けて陛下に謁見を申し込んだがこれは建前だ。


 魔道具の効果がなく、聖女の恩恵が考えられるとはいえ“万能薬”を作り、謁見直前に空間収納(アイテムボックス)のスキルを持っている事が判明した男を『()()()()()()』という事を宣言し、承認されることが目的だった。

 だが陛下を甘く見ていた。

恐らくイツキがアイテムボックスのスキル持ちという事を把握していたのだろう。この短時間で知り得たとなると…、だいたい予想はつく。

息子の執務室を探るなど悪趣味この上ない。


 以前イツキに関しての報告をあげた時は「その者は王太子に任せる」と仰せだったのに、その(じつ)彼に興味をお持ちだったようだ。

現に『私が後見になった方が…』と、魔術師団統括と競い合って主張し始めたものだから、私は頭を抱えたくなった。

 陛下が“(われ)が後見となる”と宣言してしまえば、私はそれに従うしかなくなるのだ。


 そんな時、イツキが「後見人はウィル様がいいです」と陛下や統括に向かってきっぱり言い切った。

この時の私の感情は驚き、歓喜、優越感…様々なモノが入り混じっていた。未だなんと表現したらよいかわからない。


「彼は私のものですので諦めてください」


 男女間なら誤解を招きそうなセリフだが、陛下と統括を牽制するにはこのくらい言っておかないと引かないだろう。

 イツキと私の言動が功を奏したようで、お二人は渋々()()()()()後見人から身を引いてくれた。


(恐らくお二人はイツキの後見を諦めてはいない。私もイツキを引き抜かれないように気を配らねばな…)



 ― 後見人はウィル様がいいです ― 



そう言ってくれたイツキを失望させるまいと私は心の中で密かに誓ったのだった。



 謁見を終えてイツキをレオンに任せた後、私とテオバルドは王都内の冒険者ギルドへ向かった。

途中、王都内を巡回している衛兵の配置を確認しておく。私服衛兵の増員と配置を指示する為だ。

青薔薇やマナの浄化など現状を鑑みると聖女は王都内にいる可能性が高い為、この機会を逃すこと無く確実に保護したい。


 実のところ謁見の間を退出する際、陛下に「薬師を気に掛けるのもよいが聖女を疎かにするな」と苦言を呈された。

 イツキを手に入れられなかった腹いせもあるだろうが、私も少しばかりこの指摘には心当たりがあった為「肝に銘じます」と陛下に頭を下げておいた。


 聖女捜索に決して手を抜いているわけではない、寧ろどのような事案よりも重きを置いておこなっている。

ここ最近は“イツキ・サトー”というとても興味深い人物が現れた為、少しばかりそちらの比重が大きくなっていただけだ。

取り敢えずはイツキを後見という鎖で繋いだので、比重を元に戻すとしよう。


 冒険者ギルドに到着して中に入ると、受付嬢が私達の顔を見て何時ものように応接室へと案内してくれた。

王都冒険者ギルドマスターであるローガンもまた、私達を何時ものように出迎えてくれた。

この王都のマナの変化を感じる取ることが出来る元Sランク冒険者なら、私達が来ることは予想できただろう。


「来られると思っておりました、ウィルさ…、テオ」


 ローガンに冷ややかな笑みを向けると私の意を察し、敬称は飲み込んだようだ。毎回このやり取りをやっている気がするが、指輪で姿も変えているのでいい加減慣れろと思う。


「その敬語も何とかしてもらいたいところですがまあ良いです。率直に聞きますが、マナの状態以外に王都内で何か異変の報告は上がっていますか?」


 かくいう私もローガンへの口調はレオンから見れば『クソ丁寧』らしい。

 レオンのようにフランクに話せなくもないが、一冒険者からすればギルマスは立場が上なのでこれでよしとしている。


「手の空いてる冒険者を王都内に差し向けてますが、今のところはマナ以外の報告は無いです。

それにしてもこの状況は…やはり聖女様ですか?」


「その可能性が高いです。どんな些細なことでも構いません、何がありましたら直ぐに連絡を、っ!!」

 


突然眩い光が窓から飛び込んできて、私達の視力を奪った。

反勢力の襲撃や他国からの攻撃の可能性が脳裏を過る。

視力が回復するまで数秒を要したが一般人よりは遥かに早く、もちろんそれはテオやローガンにも当て嵌まった。

 私達は応接室の窓から屋根に上り、周囲を見渡した。何らかの襲撃なら何処かに煙が上がるはずだが、何処にもそのような光景は無い。

私達は屋根から地上に飛び降り、そのままギルド内へ駆け込んだ。


「おい!今の光がどっから出たのか見た奴ぁいねえかっ!!」


 ローガンがフロアで叫ぶとゴーグルを着けた男が前に出た。


「多分東の街外れの方すっよ、光の発生源。俺、メガネしてたから見えたっす」


「おう、ありがとな! だそうだ、ウィル!!」


「テオ、王都東側に行けるか?」


「問題ありません」


「よし、行こう」


「え、俺も?」


 テオは私と困惑するローガンの腕を即時掴み、転移魔法で彼がマーキングしてある王都東側の何処かへ転移した。


次話もウィリアム視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ