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2

 人が通れそうもない獣道などを迂回しながら歩いていると、然程時間が掛からず森を抜けることができた。

 俺の勘がヤバすぎる件。

 異世界に来る前に発揮したかったよ、主に宝くじ方面で…。


 それはさておき、森を抜けてホッとしたのも束の間、俺はひとりで歩いている金髪美少女と出会(でくわ)していた。

 見た目から多分小学生低学年ほど…7、8才くらいか?

 着ている服は見窄らしいが顔が半端なく整っていて、元の世界じゃ数年後には人気アイドルになれそうだ。

 少女は森から出てきた俺を見て驚いた表情を浮かべていた。いや、こんな所に美少女が一人でいるほうが驚きだわ。

 俺は怖がらせないように営業で培った爽やかスマイルを浮かべ、言葉が通じるかも兼ねて挨拶を試みた。


「こんに…」


「黒色の服…もしかして神父様ですか!?」


「え、ちがっ…」


「お母さんが!お母さんが!!神父様助けてください!!!」


「え、え、ちょっと待って!」


 

 このやり取りで言葉が通じる事はわかったが、少女は俺の話も聞かずに必死に俺の手を握ってどこかへ誘導しようとする。

 いや、確かに黒のスーツを着ているが俺の想像する神父の出で立ちには程遠い気がするが…。

 少女は切羽詰まっているようで瞳から大粒の涙が溢れている。察するにこの子の母親は重篤な状態のようだ。

 俺は医療の心得など無いただの会社員だが、今この子を見捨てるという選択はできなかった。きっと藁にもすがる思いなのだろう。

 社畜だった俺のカバンの中には急な体調不良に対応出来るよう胃薬、鎮痛剤、胃腸薬、整腸薬、風邪薬、栄養ドリンクが入っている。

 とりあえず母親の様子を見て必要なら薬を飲ませ、その間に本物の神父か医者を連れてくればいい。


「ほら、お母さんのところへ一緒に行くから泣かないで」


 俺は念の為カバンの中の薬を確認してからティッシュを取り出した。少女の涙と鼻水をそっと拭ってあげると彼女は少しだけ落ち着いたようだった。

 少女に名前を尋ねるとヘレネだと答えてくれた。

 ヘレネに連れられ彼女が住む村に到着すると、そこにはファンタジー感満載の村の風景が広がっていて俺は物凄く感激していた。


(うわぁ…!なんか魔王を倒す系のRPGで主人公が登場する最初の村っぽいな〜!!)


 キョロキョロする俺と、遠巻きに不審そうに俺を見る村人たち。まぁそうなるよな。

 多分母親の事で頭がいっぱいなヘレネはそれに気付いていない。

 脇目も振らず「神父様こっちです」と村の入り口からそこそこ歩いた場所に建っている小ぢんまりとした家に案内してくれた。

 どうやらここがヘレネの家のようだ。

 家に着くやいなや母親が臥せっている部屋へ通された。ベッドに横になっている女性の顔は青を通り越して白い。

 ヘレネの母親だけあり美しい容姿をしていて、それが逆に儚さを醸し出していた。

 人の気配に気付いたのか苦しげな表情をしながら母親は薄っすら目を開けた。


「ヘレ…ネ…」


「お母さん!神父様を連れてきたよ!もう大丈夫だよ!!」


「まぁ…この、ようなとこ…ろに、神父さ…」


「ああ!起きなくてもいいですから!」


 俺は無理に体を起こそうとする母親を慌てて静止したが言葉では止めることはできず、やむを得なく母親の肩と腕に触れベッドに横にさせた。

少し触れただけだが母親の細さに驚愕する。


「ねぇヘレネちゃん…お母さんはいつからこんな感じなの?ご飯は食べれてる?」


「えと…5…6日くらい前から病気になりました。ご飯もお母さんが病気になってからあんまり食べれなくて…森に木の実とか食べれるものを探しに行ってました」


 父親の話が出ない事でヘレネは母子二人暮らしだと察する。母親が病気で倒れたのではこの状況もなるべくしてなったと言える。

 きちんと食事を取らなければ治るものも治らないがそれは後で考えるとする。

 とりあえず母親の状態を診なければ。


「熱を確認したいのでちょっとおでこ触りますね」


 俺は声を掛けてから母親のおでこに手のひらを乗せると明らかに発熱している状態だった。


(うわ熱っ!これって38度越えてんじゃないの?確か鎮痛剤は解熱効果もあったよな、とりあえず飲んでもらって様子を見るか…。熱が下がればかなり体は楽になると思うんだけど…)


 回復を願いながら俺が母親のおでこに触れていると心做しか呼吸が落ち着き熱も若干引いた気がする。

 もしかして手当て療法ってやつかな。


「神父様…お母さんは元気になりますか?」


「ごめんね、今はまだわからないんだ。とりあえずお母さんにお薬飲んでもらって様子を見よっか」


 ヘレネの問に正直に、そしてこれ以上不安を抱かせないよう気を使いながら返事をした。

 持っていた鎮痛剤を渡して(もちろんPTP包装から取出し済)少し何かを食べさせてから母親に飲ませるように言うと、彼女はすぐに部屋を駆け出し木の実と水を持ってきた。

 ヘレネが母親の介助をしている様子を見守りつつ、手持無沙汰な俺は手のひらを合わせてこの世界の神に祈っておく。


(どうかヘレネのお母さんが元気になりますように。ヘレネとお母さんが幸せに暮らせますように)


 この世界の祈り方を知らないから元の世界方式なのは大目に見てもらおう。

 出会ってほんの数時間の関係だが、この世界で初めて出会った記念すべき第一異世界人には幸せになって欲しいと心の底から思った。

 

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