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ジオニール王国には第一と第二魔術師団があります。第一は実践が主、第二は魔道具制作など裏方が主。

それぞれ団長がいますが彼等の上に、第一第二魔術師団を統括する【魔術師団統括】がいるという設定です。


 俺がやらかしてしまったその後に一悶着あった。


 食い入るように俺を見ながら魔術師団統括に手を握られ、魔力について調べられた。アルバン様がカイロの魔力を見ていたのと同じようなものだろう。

 俺は自分に魔力があることを期待していたのだが、結果は魔力無し。

これには魔術師団統括も頭を捻っていた。

アイテムボックスの機能を持った魔道具…というか、魔道具全般には製作時に魔力を込めることが必須なので、魔力無しでアイテムボックスを使う俺は奇妙このうえないようだ。やはり俺固有のスキルなのだろうか。


 そんな俺を、国王陛下と魔術師団総括が『自分が後見人になったほうが…』などと言い始めたものだからマジで血の気が引いた。

魔術師団の統括団長は俺を研究対象にしそうだし、タヌキな国王陛下にはいいように使われそうだ。

どう考えても言質をとったウィル様が無難…。

 俺は「後見人はウィル様がいいです」ときっぱり言い切ると、ウィル様も「もう、彼は私のものですので諦めてください」とタヌキと魔術オタクを諌めてくれた。

言い方がアレだが、ホント頼りになる後見人様だ。


 色々あったがなんとか謁見も終わった。いやはや精神的に疲れた。

 やっと俺を村に帰してくれるのかと思いきや、これからウィル様とテオ様は案件があるとかで王都内に行くらしく『執務室(ここ)で待っていて欲しい』と言われた。

 いやぁ…流石にまたこの部屋で缶詰めは勘弁してほしい。そして王都に行くのなら俺も行きたい。

この人達はどうか知らんが、俺は昼食を食べ損ねているのだ。

ごはんの催促するのもどうかと思うのでこの機会に腹を満たしたい。


「あの、お二人が仕事をされている間、私は王都を見て回りたいのですがよろしいでしょうか?

流石にまたこの部屋で時間を潰すのはちょっと…。

私、王都に来たのは初めてなので何卒外出の許可をお願いします」


「そうか…。許可を出してもよいのだが万一城下で貴方の身に何かあったらと思うとな…」


「私が可愛い女の子ならウィル様の心配も頷けますが、こんなアラサー男をどうこうしようとする輩もいないでしょう、心配は無用です」


「あら…さ?」


 そっちに食いつくのかよ…と思いつつも適当に説明し、「王都観光が出来ないのなら、もう村へ帰らせてください」と少し強気で言うと、ウィル様はしぶしぶ承諾してくれた。

ただ、条件として護衛を付けることになった。

どちらかといえば俺よりも【万能薬】の為なんだろう、まだ納品してないから致し方ない。

 実はアイテムボックスの中には、プチプチしまくった薬がストック分として入っている。

既に能力がバレてしまっているので、それを渡しても差し支えはないのだが、今更出すのもなんだかなぁと思い納品は次回に持ち越している。


「その恰好は目立つ、ここに来た時の服装に着替えるといい。用意が出来たら私達と一緒に城下へ転移し、そこから別行動にしよう。転移先には貴方の護衛が待機しているはずだ」


 今の今なので、多分この人達の護衛の一人を俺に回すんだろう。なんか俺担当になる護衛の人に申し訳ない。

 元の服に着替えた俺は、冒険者装備になったウィル様とテオ様と共に城下へと転移した。

執務室から視界が切り替わったのだが、多分此処は民家の一室だ。どうやら俺の予想はハズレらしい。


「ちょっと!いつも急に来るのは止めてくれって言ってるよね…ってえええええ!!何で王太、じゃなくてウィルさんまでいんの?それにえーっと…確かイツキさん、でしたっけ?アンタまでなんで?」


ドタドタと家の奥から騒ぎながら現れたのはレオンさんだった。レオンさんの抗議をテオ様は軽く受け流す。

いつもって…テオ様そんなしょっちゅうここに来てるのか…?

いや、詮索はやめておこう。


「レオン、今からイツキさんの護衛をお願いします。

イツキさんは王都内をご覧になりたいそうです。王都は初めてだそうなので、何なら案内してあげてください。

この件の報酬は生じた経費と一緒に後日お支払いします。

それから彼には殿下と私の素性は明かしてありますので悪しからず」


「そうなんだな、了解」


なるほど、俺の護衛はレオンさんなのか。

顔見知り程度だが全くの初対面の人よりもかなり気が楽だ。しかしながらレオンさんの予定も聞かず、既に決定事項のように伝えているが大丈夫なのだろうか?


「あの、私なんかの護衛だなんて急に言われても困りますよね。やっぱり私一人で大丈夫です。

あ、でもこの都市の簡単な地図は欲しいかな」


「あ、護衛の件は問題ないぜ。ただ事前に連絡がほしいって話。

行きたい店とかあったら言ってくれ、案内するよ。

ちなみに戻りの時間指定とかあんの?」


「そうですね、では6時に再びこの場に集合ということで。その頃には殿下と私の所用も終わっているでしょう。

イツキさん、それでよろしいですか?」


「はい、構いません。ありがとうございます」


俺は心の中で外出の許可を貰ってよかったと思った。

3時間もあの執務室で時間を潰すのは苦行でしかない。

集合時間も決まり、ウィル様とテオ様は再び何処かへ転移していった。


「よし。んじゃ、早速行こうか」


レオンさんは俺を見てニカッと笑う。彼に促されて玄関を出ると目の前にはハジメリ村とは比べ物にならない都会の景色が広がっていた。

ていうか、今思ったがレオンさんがいた家はめちゃくちゃ庶民的だ。王太子と小公爵とつるむくらいだからこの人も貴族だと思っていたが…。


「あの…、失礼ですがレオンさんて貴族のご子息じゃないんですか?」


「いや違うけど?俺は平民だし、ただの冒険者だ。

以前たまたま仕事絡みであの人…、テオバルド様と関わることがあってから、いいように使われているだけだ。

イツキさんこそ何者?

薬師ってのは知ってるけど護衛が必要なくらいあの人達にとって重要人物って事だよな?」


「あはは…、偶然珍しい薬を作ってしまったのでそれで…ね…」


空笑いをする俺に哀れみを含んだ表情を向けるレオンさんは、多分俺と同類だ。

互いにポンポンと肩を叩き合って無言で心を通わせた。


「まぁ、なんだ、イツキさん行きたい所ある?俺案内するよ」


「ありがとう。じゃあ取り敢えずこの時間でもご飯食べれるところないかな?色々あって昼ご飯を食べそびれたんだ」


「了解、いい店紹介するよ」


【やんごとない人の被害者(?)】という共通点で、俺とレオンさんの距離が少し縮まった気がする。

それから俺達は改めて互いに自己紹介をした後に話に花が咲いて、食事処に着く頃には俺は彼を『レオン』と呼び捨てするまでになっていた。

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