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いつもより短めです。


 夕食の時間になって女将さんが食事を持ってきてくれた。

 最近は満員御礼な状況の宿屋だが、念の為ウィルさん達が宿泊していないか女将さんに確認すると、泊まっていないとのことだった。

「サトー様を困らせた奴らだから、仮に空室かあってもでも泊まらせないよ」と言ってくれてとてもありがたい。

彼等は俺の部屋を出た後、宿屋を後にしたらしいがその後は女将さんもわからないそうだ。


「温泉に行ったか、人を探してるようだから次の村か町にでも行ったのかもしれないね〜」


「あ〜、ありえますね〜」


元々は冒険者ギルドが探している女性の件で、この村に来たと聞いた。

俺にとっては相手が当たり屋というか、もらい事故というか…。

何をやらかしたのか知らないけど捜索されている女性が恨めしい。早く見つかって欲しいものだ。

 こんな状況で外に出るのは不安が残る。

温泉が湧いて以来毎日通っていたのだけど、今日は泣く泣く諦めることにした。


 次の日俺は、予定通りに部屋に引き篭もっていた。

 薬の調合はあながち嘘ではなく、包装から取り出した錠剤を種類別に紙に包む作業をしていた。

こうしておけば人前でも堂々と薬を出せる。

必要な時以外はアイテムボックスに入れているから、劣化の心配は最小限だ。

 そういえばここ最近、ハジメリ村の住人が体の不調を訴えることは殆どなくなった。

子供から老人まで元気で何より。

温泉もあるし、薬師見習いの俺はお役御免だろう。

 この村に滞在するのもあと数日…。取り敢えず明日は、村長に今後の話をしに行こうと思う。


(村長と話をしてこの村を出て行く日が決まれば、村の人達に挨拶をして、ご主人に弁当とパイの依頼をして、子供達への飴を作って…。あ、温泉に飲み物の屋台の件も言っとかないとな。それから…)


 カバンから手帳を取り出して、思い付くままに【やることリスト】を書いていく。

書きながら一抹の寂しさを覚えるのは、この村への思い入れがあるからなのだろう。


(思えばヘレネちゃんとの出会いからだったな…)


ひと月前のことなのに随分昔のような気がする。当時の事を思い出していると、ドアをノックする音がした。どうやら女将さんが俺に用があるらしい。

昼食にはまだ早い時間なので、誰かの取り次ぎだろうか?


「女将さん、どうしたんですか?」


「サトー様、すまないね…。

村人以外取次ぐなって言われてたけど、他所から来た人で、具合悪い人が出てね…。

ちょっと一緒に来てもらえるかい?」


「勿論です、体調が悪い人を放って置けませんから」


一瞬ウィルさん達の事が頭を過るが、優先すべきは体調不良の人だ。

俺は先程包んだ数種類の薬をカバンに入れて女将さんの後へ続くと、案内されたのは一番奥の客室だった。

宿の外に出ると思っていたので正直ホッとした。


「村一番の薬師を呼んできたよ」


客室のベッドには女性が横たわり、側に連れと思しき男性が心配そうな顔で立っていた。

こんなときに不謹慎だが、女性も男性もかなり顔が整っている。所謂美男美女だ。

旅行の途中でこの村に立ち寄った若夫婦、とかなのだろうか。

女性の体には毛布が掛かっているが、お腹を押さえているのがわかる。


「この方の側に寄ってもいいですか?」


なんとなく平民とは違う雰囲気の二人だ。

医者と違い、あくまで薬師見習いである俺は、念の為に男性と女性両方に確認して側に行く許可を貰った。


 女性の側に寄って様子を確認すると、可哀想なくらい顔が真っ青だ。

女性の具合を聞こうとした時、ドアの傍に控えていた女将さんが小声で俺を呼んだ。


「サトー様、ちょっといいかい?」


「はい、何でしょう?」


 女将さんの側へ行くと、若い女性から俺に言わせるのは憚られるとのことで女性の状況を説明してくれた。まぁ、早い話が月経痛らしい。

なるほど、それは確かに言いにくいかも知れない。

流れのついでに、女将さんに『痛みを和らげる薬は渡せるがそれでいいか?』と女性に聞いてもらえば、彼女は辛い体を起こして、俺に「お願いします」と言ってくれた。

いい人だ、そして声まで可愛い。

男性が羨ましいぜちきしょー。


俺はカバンから鎮痛薬を取り出して、女性の側にいる男性に手渡した。


「一包に薬が二粒入っています、それが一回分です。念の為もう一包お渡ししますが、必ず4時間以上あけて服用してくださいね。ただ、一番いいのは体を温めてゆっくり休むことです。旅の日程もあると思いますが、奥様の体調を第一に考えてあげてください」


「うふふっ…奥様ですって」


「…その、婚約はしてるが、結婚はまだ…、だ」


嬉しそうに笑う女性と、はにかんだ顔で説明する男性に白目を剥きそうになる。

婚前旅行かーーーい。お幸せにね!!!

俺は薬代を貰ってすぐにこの部屋から退散することにした。

 一応女将さんには女性に気を配ってくれるようにお願いしたので、良いようにしてくれるだろう。

 ちなみに女性に渡した鎮痛薬は、今まで熱や痛みがある人達、十数人には渡している。

そして、薬の効果で特に問題があることは無かった。


だから俺はこの鎮痛薬には、実は重大な問題が有るとは、この時は夢にも思っていなかった。



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