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11 ウィリアム視点


 ジオニール王国で上級魔法である転移魔法が使える者は数えるほどしかいない。

その中には私やテオバルド、アルバンが入っている。

 転移魔法は行ったことのない場所へは転移できず、初回のみ目的の場所へ必ず自分が行く必要がある。

その点、転移のスクロールはマーキングをしてあればその場へ転移できるが、我が国の魔術師団が認可したスクロールしか作動しない。そして不法な入国を防ぐ為、国外では認可済みであっても作動しない。

他にも制約はあるが国内を移動する者には欠かせない魔道具だ。


 影から報告があったハジメリ村は、王都を起点にすると北西の辺境にある何の変哲もない村だ。王城に勤務する者達も今まで訪れたことがなく馬で移動するにも10日は掛かる。

 今後を見据えてマーキングをする点は流石影だ。


 侍女にレオンが好む菓子を用意させてからこのまま執務室で待つように言い、私とテオバルドはハジメリ村への出立の準備をする。準備と言っても冒険者用の装備品を身に着けるだけなので然程時間は掛からない。

 厚地の布の服にマントにグリーブブーツと駆け出しの冒険者風に見える質素な装備なのだが、それらは特殊な素材で出来ていて更には付与魔法が複数かけられているので防御力は上級冒険者の装備にも引けを取らない。

 このようになるべく目立たぬように配慮した装備なのも虚しく、捜索当初は私達の容姿のせいで結局は目立ってしまうことになった。

その為今ではレオン以外は指輪型の認識阻害の魔導具を身に付けている。勿論聖女と思しき女性に接触する際は外すつもりだ。

 私とテオバルドの準備が整い再び執務室に向かうとレオンはまだ菓子を食べていた。恐らく何度かお代わりをしたのだろう。


「レオン、そろそろ行きますよ」


 テオバルドの言葉に渋々席を立つレオンの視線はテーブルの上の菓子から離れていない。

私は侍女に菓子を包んでレオンに渡すように命じると途端に表情が明るくなった。

本来休みのところを呼び出したのだから駄賃代わりだ。

 テオバルドが「申し訳ありません」と謝り、レオンに「殿下に御礼を」と促している姿はまるで保護者だ。

どういう経緯でテオバルドがレオンに依頼を受けさせたのかは知らないが、こう見えて優秀な冒険者であることは間違いなくテオバルドの人選は正解と言えよう。


「殿下、指輪とこちらを」


「ああ」


 転移前に認識阻害の指輪をはめて、スクロールをテオバルドから受け取る。

3人のうち1番魔力が高いのは私なのでスクロールの使用は私がすることにした。

私の肩にテオバルドが触れ、テオバルドの肩にレオンが触れるのを確認してスクロールを発動させた。



 見慣れた執務室から一瞬で景色が変わり視界が緑色に染まる。

どうやら森の中のようで木々の隙間から漏れる光のコントラストが美しい。


「ではちょっと行ってきます」


 スッと目つきが変わりレンジャーを習得しているレオンが周囲の探索に向かった。

ハジメリ村の近くにマーキングしたと聞いているので恐らく直ぐに場所を特定したレオンが戻ってくるはずだ。

それよりも気になるのは周囲のマナがこれ以上なく澄んでいる事だ。

王都の神殿内と同等…いや、それ以上かも知れない。


「テオ…、これは()()()かもな…」


「ええ、ウィル。1度戻ってリアに助力をお願いしますか?」


「いや、このまま私達で行動しよう。聖女らしき女性を見付けてからでも遅くはない」


「わかりました」


その時は転移魔法で先にアルバンを連れて来て、その後彼にアメリア嬢を連れてきてもらうことになる。

彼女はアルバンの婚約者なのでこの手順が1番問題がない。

レオンを待ちながら周囲のマナを取り込むように深呼吸をすれば森林浴も相まってとても清々しい。

本来の目的を忘れそうになる頃にレオンが転移場所に戻ってきて現実に引き戻された。


「ウィルさん、テオさん、お待たせしました。村まで案内しますけど…ちょっと村と言うには予想外かも」


「何がだ?」


「まぁ、行けばわかります」


 レオンはそれ以上は言わず私達を村まで先導した。5分程度で村へは到着したが、その外観は今まで訪れた村々と然程変わらない。

だが村へ出入りする者の人数が今までの比ではなかった。

村に入る者達の多くは顔を上気させている。

その中にいた1人の男が私達に近づいてきた為、レオンとテオバルドはスッと私の前に出た。


「おう!あんちゃん達も温泉に入りに来たんか?もう本当にここの温泉てのは最高よ!俺が保証する!!」


「おっちゃん、ご機嫌だな!そんなに温泉ていいのか?」


 レオンが透かさず応酬する。彼にとってはこのような対応は慣れたものだ。


「おうよ!俺なんて諦めていた古傷の痛みが温泉に入ってからピタッと無くなったからな!」


「そうなんだな!教えてくれてありがとう!じゃあ俺達急いでるからもう行くな!」


 レオンは男の話が長くなりそうなのを察知して容赦なく打ち切り、何食わぬ顔で私達を村の中へ誘導した。


「さてと…ウィルさん、テオさん、これからどうしますか?」


「そういえばウィル、私達はお昼ご飯はまだでしたね」


「ああ、そうだったな。情報収集がてら何処かで昼食をとろう」


 早速村人らしき男性に声を掛け、食事のできる場所を尋ねると宿屋で提供していると教えてもらった。

その際「日替わりフルーツパイ」を強く勧められ、甘い物好きのレオンが喜々としていた。

教えてもらった宿屋に到着し、扉を開ければ昼食時を過ぎているというのに盛況している。

この宿屋は一階が食堂で二階が宿泊部屋のようだ。

食堂は満席で暫く待つことを覚悟したが、ちょうど退席するものがいて運良く私達は席につくことが出来た。


「いらっしゃい!おや、あんた達冒険者かい?」


「ああ、人探しの依頼を受けてこっち方面に来たんだ」


 レオンが女将らしき女性とやり取りを始めた。

基本、町や村でのやり取りはレオンが担当している。


「あー、もしかしてあんた達も『見慣れぬ女探し』のくちかい?」


「そうなんだよ、よくわかったな」


「ああ、この間ここいらの冒険者の支部長サマが態々訪ねて来たからね。ここは宿屋だよ?見慣れない女なんてしょっちゅう来るってもんさ」


「あはは、違いない!ところでさー、しょっちゅう来る見慣れない女達の中で、こう、なんていうか清らか?、透明感?、美人?、うわっ!天使!…みたいな女の人は居なかった?」


「うーん、そうだねぇ…美人は何人かいたかもね、悪いけどあんまり覚えてないわ」


「うん、ありがとう、十分だ!そうそう、ここに来る途中で『日替わりフルーツパイ』を勧められたんだけど〜…」


 レオンの誘導で得た女将からの情報にはあまり得るものは無かった。

レオンはそのまま話の流れで、女将に日替わり定食3つとちゃっかりフルーツパイも注文していた。


「はいよ!日替わり3つとパイを1つだね!

あ、そういえばうちの村にも天使様は居るよ!男で笑顔だけ天使様って人がね!!」


 女将の台詞に食堂内から「わかる!」や「違いねぇ!」という言葉と共に笑い声がどっとあがる。

私達にとって男はお呼びでない為苦笑するしかない。


「ね〜、サトー様!」


「ちょっと女将さん、勘弁してください!」


 女将の呼びかけに恐らく『サトー』という者が声を上げた。

『笑顔だけ天使様』という男を興味本位で見てみようと思い、声のする方に視線を移すと皆から注目を浴びてあわあわしている男が居た。

どうやら彼が『サトー』のようだ。

見目が良い、というよりも愛嬌のある顔立ちで私達と年齢はそう変わらないように見える。

まじまじとサトーを見つめていたせいか、ふとこちらを見た彼と目が合った。

サトーは一瞬大きく目を見開き、ボソッと何かを呟く。


 《うわっ!なんか超絶なイケメンがいる》


 食堂に入る前に魔法で些細な事も聞き取れるようにしておいたので、残念ながら私には全て聞こえている。

『いけめん』が何かは知らないがニュアンス的に私を貶す言葉ではないようだ。

慌てて視線を逸らすサトーに私は興味を持つ。

天使と言われる笑顔に…ではなく、恐らくサトーは()()()()()()()()()()。指輪の認識阻害が彼には機能してないようだ。

私ですら今はテオバルドの顔は特徴のないボンヤリとした顔に見えているというのに、だ。


(まだ憶測でしかない、確かめなければ)


そう思い私は席を立った。

「ウィル?」と不思議そうに私を見るテオバルドとレオンにはこの席で待機するように言う。


 我が国屈指の魔術師達が作った魔導具の認識阻害を看破する者に興味を持つなという方が無理だ。

可能性は低いが対認識阻害の魔導具でも持っているのか、それとも自身のギフトやタレントなのか。


(どちらにしても有能有益なのは間違いない。…欲しいな)


 仲間と食事をとっているサトーの席に一歩一歩近づいて行く。

その度に柄にもなく私の胸は高鳴るのだった。



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