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10 ウィリアム視点


 冒険者ギルドに協力を要請し3週間程経つが、ギルドマスター宛てに寄せられた『見慣れぬ女性』の情報はすべて聖女とは関係のないものだった。

 冒険者に頼る一方で、元より王家の息のかかった密偵を潜り込ませている都市や町では本来の役目の他に、女性の情報も収集させているがこちらもハズレばかり。

自分の領地内ならともかく、王族や上級貴族が小規模の町・村に直接関わる事はまず無い。

普段なら領主に命じればいい事だがこの件はそういう訳にはいかない。

 全ての場所を私達が視察するとなればかなりの時間を要してしまう為、私の権限で動かすことのできる暗部の“影”達に旅人を装わせて順に村を視察させている。何かあれば向かう手筈だ。

 とにかく王国内の全てを隈なく捜すしかない。


 最初こそ『本当に聖女は降臨されてるのか?我が国の何処かにおいでになるのか?』と思った事もあった。

 だが、冒険者として地方を回り、マナ以外にも神の祝福と思しき状況を何度も目の当たりにすれば、憶測でしかなかった聖女の存在が確信に変わるのは当然と言えば当然だ。

聖女を一刻も早く保護する為に手を抜いた捜索はしていないが、それに託けて冒険者生活を楽しんでいる事も否めない。

先延ばしにしてきたが、そろそろ王太子として決裁しなければならない書類もかなり溜まっている頃合いだろう。

それに側近二人はいいとして、アメリア嬢やレオンにも今まで休みなく働いてもらっている。

私は冒険者としての聖女捜索を3日間休みにするとし、アメリア嬢とレオンには休暇を、側近二人は自己で判断、私は王太子業務に専念する事にした。





「おはようございます、ウィリアム殿下」


「おはよう、テオバルド」


 侍女が執務室の扉を開けると先に仕事を始めていたテオバルドが席を立ち私に一礼した。

私の執務室には側近であるテオバルドとアルバンの机も配置されている。アルバンは第一魔術師団副団長と兼務していて今日はそちらへ行くと事前に報告があった。

私もそうだが側近二人も溜まっている仕事はあるだろうから、こうなるとは思っていた。

 暫くぶりの机仕事なので書類が山積みになってると覚悟していたのだが、机の上には想像の半分以下の書類しかなかった。


「おや、これだけか?」


「ええ、これだけです」


 私の元へ来る書類は大体が厄介事だ。

 魔物出現や被害の報告、騎士団や魔術師の派遣要請、金銭的な支援や税の軽減など領主からの多岐にわたる嘆願が主だ。

 机に座りすべての書類にざっと目を通す。

その殆どが人事や金銭が絡む嘆願書や報告書で魔物に関するものは僅かだった。


「ふむ、神の祝福は続いているようだな」


「ええ、魔物出現の報告や被害が劇的に減っているようです。ただご存知とは思いますがこの祝福もあと一週間程かと」


「そうだな、文献によれば祝福は聖女が降臨されてから1か月程度のようだし、その後は聖女自身の力量次第ってとこか。祝福の効果が切れた後は突出した能力(ちから)を持つ者を見付けやすくはなるが、それでは不味いな…」


 貴族や神殿の関係者はこの聖なる異変に気付きつつも国王から正式な発表が無い為静観している、といったところだろうか。

 水面下では反対勢力や神殿も聖女を探しているという情報も入っている。


「わが聖女は何処にいるのやら…」


「殿下、未来の伴侶に想いを馳せる前に職務を全うしてください」


「はいはい、わかってる」


 先程書類に目を通した時点ですべての内容は頭に入っている。それに対する承認や決裁の可否なども同時に導き出している為、それを元にあとは正式な回答を書面にし私のサインをすれば終わりだ。


(1日、いや半日の休みでよかったな…。

っと、それではアメリア嬢やレオンが休めないか)


 回答書の作成はテオバルドが行い、最終チェックとサインを私がする流れで淡々と進めていく。

テオバルドは私の側近だけありその優秀さは群を抜いている。

書類の作成など造作もなく、次々と出来上がる回答書に私も負けじとチェックとサインをしていった。


「殿下、これで最後です」


「ああ、御苦労だった」


テオバルドから書類を受け取り目を通すと、それは回答書ではなく私が初めて見る報告書だった。


「…このハジメリ村に関する報告書は先程まで無かったが?」


「ええ、今初めて殿下にご覧に入れましたから」


「態とだな」


「勿論です、途中でこの報告書を渡したら殿下の手が止まってしまうと思いましたので」


「まぁ…それは否定できない」


 報告書はハジメリ村を訪れた影からのものだった。


【我が国には今まで無かった『温泉』というお湯の泉がこの村近くの森に出現したようですので念の為ご報告させて頂きました。

湯の泉は高級宿の風呂に匹敵する広さと湯の量で、村人以外は少しの金を払えば入浴できるようです。

試しに私も利用してみたのですが、湯に浸かるだけで癒やし効果があり、疲れが取れ、古い傷の痛みさえ和らぎました。まるでポーション…いや、聖水に浸ったのでは、と思うほどです。

とても心地よい時間を過ごせました。

聖女様と思しき女性はこの村には居ませんでしたが、何か関連があるやも知れません】


 影からの報告は要約するとこんな感じだ。

 お湯の泉、『温泉』は山々が連なる国に湧く事が多いのは知っている。

我が国にも山は複数あるが、残念ながら地中からお湯が湧き出る事は今までなかった。


「テオバルド、ハジメリ村まではどのくらい掛かる?」


「こちらの影がハジメリ村近辺にマーキングをしてくれたようですので転移のスクロールがあれば瞬き1つで到着します。アルバンやアメリア嬢はいかがなさいますか?」


「彼らにも予定があるだろうから今回は我々だけで行こう」


「畏まりました。それではレオンを連れてまいりますので少しだけお待ち下さい」


 私達2人の意味で()()と言ったつもりだったが食い違ったようだ。

だが確かに“村”へ行くのなら平民のレオンが居たほうが良いかもしれない。流石はテオバルド。

 転移魔法でテオバルドは姿を消したが、ものの数秒でレオンと一緒に戻ってきた。

レオンは突然拉致されたようで「休みじゃなかったのか!」とテオバルドに食ってかかっていたが「時間外の依頼料として2倍上乗せして支払います」というテオバルドの申し出に「しょうがないな」と言いつつ引き受けたようだ。

チョロいと言わざるを得ないが、本人は納得しているようだから私からは何も言うことはない。

私なら”2倍”の件をもう少し詳しく確認するがな。


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