憎しみの日々とスカートを捨てる日
入学した日から心待ちにしていた、中学校の卒業式当日。
最後の最後まで男子たちに暴言を吐かれていたが、もう二度と会わないだろうからどうでもいい。
和香と同じ高校に入る人は誰もいない。
卒業式のあとまっすぐ帰宅して、和香がまずやったことは
卒業アルバムを処分することだった。
それもただ捨てるのではない。
各クラスの生徒が載る個別写真、そのなかからいじめの犯人たちの写真を見つけ出し、コンマ一秒も迷うことなくコンパスを突き立てた。
顔がそこに映っていたなんてことがわからなくなるまで、腕を振り上げ振り下ろし、ひとりひとりぐしゃぐしゃに潰していく。
そのあとカッターとハサミで紙を細切れにして、台所のコンロで一つずつ火をつけて炭にする。念の為水をかけてから燃えるゴミの袋にまとめてぶち込んだ。
本人たちを刺すと罪になるから、せめて写真を刺すことで、三年間溜まり淀んだ憎しみを消した。
こうやって卒業アルバムを処分したことが他の人に知られたら、女のすることじゃないだの、怖いだのと言われたんだろう。
正直どうでもよかった。
長年いじめられ続けたことのない人間にはわからないだろう。
理解されたいとも思わない。
本人にコンパスを刺さなかったことを褒めてほしいところだ。
卒業アルバムを捨てて、制服のスカートを脱ぎ捨て、ようやく解放された。
高校の案内に何度も目を通した。
学業に支障をきたさないかぎりは何を着てもいい。
ズボンでいても怒られないなんて最高じゃないか。
スカートの下に体操着のズボンをはくなと、指導の教師に呼び止められることもない。
もうすぐ訪れる私服での高校生活に期待していた。