地獄からの脱出
亜利との交友は細々続いていた。
他の生徒はいじめの飛び火を恐れて和香に話しかけることもろくにしなかったけれど、亜利だけは小学生の頃と変わらず接してくれていた。
けれど、一度も同じクラスになれないまま三年生になった。
「亜利は希望校決まった?」
「あたしは家が農家やってっから農高でいいかなって思う。和香はN駅近くの学校希望だったよね。あたしも農高受かったら電車通学になるから、朝一緒に電車乗ろうよ」
「うん」
学校帰り、亜利とそんな話をしながら自転車をこぐ。
中学は家から遠いけれどスクールバスが適用されない程度の距離だったため、そういう生徒は自転車通学が取り決められていた。
親とは二年生の頃と変わらず、進路の話で連日言い合いになっている。
「この高校でダメならどこも受験しない」と言い張って怒鳴り合うのはかなりうるさかったらしく、ご近所さんから噂の種になってしまっていた。
親は「学歴が中卒になってしまうよりはマシ」という結論に至ったらしく渋々折れてくれた。
だから受験票は希望の高校のものを手に入れた。
受かったらこの地獄から解放される。
スカートなんか穿かなくても生きていける。
クズな男子たちにゴミを投げられ、罵られる日々がもうすぐ終わる。
希望の学校は学力ギリギリだったから、三年生になってから死ぬ気で勉強に打ち込んだ。
合格発表で自分の受験番号52を見つけた瞬間の喜びは、例える言葉が浮かばない。
生まれて初めて、心から嬉し泣きをした。