本人の気持ちより、世間の目が大事
中学も二年となると、進路の話が出てくる。もちろん高校進学前提で話が進む。
和香は進路指導室から近隣の高校情報一覧を借りてきて目を通した。
絶対条件は、私服校であること。そして、同じ中学の人間が誰も行かないところ。
スカートなんか二度と穿きたくないし、いじめっ子が同じ高校に進学しようものなら高校三年間も地獄が待っている。
他の生徒が「制服が可愛いところがいいなぁ」「なになにになりたいからそれを学べる学校がいい!」という期待に満ちた様子で高校選びをしている中、ひどく消極的で後ろ向きな理由で高校を選んでいた。
リストアップできたのは学力高めの進学校と、定時制高校、二つ隣の市にある高校の三カ所。
距離と自分の学力から考えて、定時制高校にしようと決めた。
家族と話し合いして希望票を出すよう言われたので、家に帰ってから両親にも定時制高校がいいと、学校名を書いた票を親に見せた。
第一希望、定時制高校の昼間部、第二希望、同じ高校の夜間部
それを見るなり、両親は爆発した。
「ふざけるな、こんな堕落者が行く学校なんか許せるわけあるか!」
「そうよ、世間体が悪いわ。定時制なんて、最低よ。お母さんご近所の方に顔むけできないじゃない」
和香の意見なんか一言も聞かず、「定時制高校なんてまともな学校全部落ちるような人間が滑り止めで行くところだ」の一点張りだった。
堕落者、落伍者、クズ、そういう人生詰んだ人間の行くところだから考え直せと毎日毎日言われた。
兄は両親に味方しなかったけれど、和香の味方もしなかった。
俺が決めることじゃないから、と。ごもっともだが、和香はその面を殴りたかった。
両親は和香がどうしたいかより、自分達の子供が定時制高校を選ぶことで近所から冷たい目で見られることを嫌がった。
家族と縁を切りたい。高校を出たら家族を捨てて、一生一人で生きて行きたいと心底思った。