リクの婚約とお祝い、そして
婚約者を紹介したい、とリクから連絡が来たのは二〇一四年十二月のこと。
町はクリスマスイルミネーションで彩られていて、ショッピングセンターも異様にきらびやか。
BGMにマライア・キャリーの曲が流れている。
待ち合わせのショッピング・センターに行き、駐車場に車を停めてインフォメーション前のベンチに急ぐ。
「よう水沢! こっちこっち」
リクはもう先に来ていた。立ち上がって大きく手招きする。リクの隣に座っていた女性もゆっくり立ち上がって会釈した。
女性は黒髪を肩のところで切りそろえていて、おとなしい色みのコートを着ている。
「水沢、彼女はシオリ。オレたちと同い年。シオリ、この人は水沢。前に話したろ。オレの旧友だ」
リクに促されて、シオリさんは緊張した面持ちでお辞儀する。
「シオリです。よろしくお願いします水沢さん」
「俺は水沢。こちらこそ、よろしく。シオリさん」
和香の事情を知っているようで、男言葉で挨拶しても変な顔をしない。
そのほうが気楽で助かる。
「まずはどっかでご飯食べながら話そうぜ。シオリ、何食べたい?」
「せっかく来たんだし、この町でないと食べられないものがいいな」
「たしかに。東京から来てるのに、東京にもあるチェーンレストランじゃ味気ないもんな。なら、二人とも。あの店がおすすめだよ」
地場野菜や肉を使ったオーガニック料理のレストラン。
値段がお手頃で味は抜群。
それぞれ日替わりランチプレートを注文して、料理を待つ間に話をする。
「シオリとはコミュニティサイトで知り合ったんだよ」
「そういうサイトがあるんだな」
いわく、トランスジェンダーや同性愛の人が登録する専門の交流サイトがあるんだとか。
そこにシオリも登録していて、リクとマッチングしたという。
お見合いとか職場の上司の紹介とか、古式な出会いではなく、時代の最先端の出会い方だ。
「うちの両親には昨日挨拶したから、シオリの親のとこには明日会いに行くんだ」
「うん。楽しみだね、リク」
隣り合って座り笑う二人の薬指には揃いの指輪がはまっている。
偏見を持たず、リクが性転換したことをまるごと含めて結婚を望んでくれる人がいる。
幸せになってくれるならこんなに嬉しいことはない。
「そうなんだ。おめでとう、リク、シオリさん」
「おー。ありがとな。水沢ならそう言ってくれると思ったぜ!」
運ばれてきた料理を食べて、食後のフレッシュジュースを飲んで、シオリも大満足してくれたようだ。終始おいしいと言っていた。
店を出て、リクは人差し指を立てて言う。
「水沢のことも結婚式に呼ぶから。招待状出すのに、住所は変わってないよな?」
「ああ。いつも年賀状をもらってる住所のままだよ」
三人で店の中を巡り、雑貨を買ったりおみやげのお菓子を選んだり、夕方まで楽しんだ。
結婚式に呼ばれるなんて初めてだから、服をどうしようか。
ネット検索して、招待された人として失礼のない格好を調べて、ご祝儀はいくら包むべきなのか等々考えながら、招待状を待った。
けれど、結婚式の招待状が来ることはなかった。
二〇一五年夏。
お盆休みで帰省したリクの指に、シオリと揃いでつけていた指輪はなかった。





